労働保険・社会保険制度の解説

平成28年10月の社会保険の適用拡大で決めないといけないのは雇用保険のこと?

2016年5月31日

max16011508-2_TP_V

今回は、どうしたものか、と迷ってしまう話

社会保険と雇用保険、企業に務める方ならどちらも加入しているのが普通です。

しかし、働き方や業種によっては、どちらか片方にしか入っていないこともあります。片方、といっても、ほとんどの場合は、雇用保険には加入して社会保険には加入しない、というパターンですが。

これには2つ理由があって、1つは社会保険より雇用保険の方が会社、労働者ともに負担が少ないのが1点。

雇用保険の保険料率が「労働者0.4%、会社0.7%(一般の事業の場合)」と比べて、社会保険は「労使ともに13.899%(※)」なわけですからね。これを払うと払わないでは、手取りの給与に大きな差がでます。

なので、労働者も会社も社会保険に入らなくていいなら入りたくないと思っていることが少なくないわけです。

※愛知県で介護保険の被保険者に該当しない場合

 

社会保険に加入せずに雇用保険のみ加入している人が多い理由

しかし、より大きな理由はもう1つの方です。

というのも、雇用保険と社会保険の加入条件となる労働時間を比べると、

  • 雇用保険:週20時間以上
  • 社会保険:通常労働者の4分の3以上

と異なっています。

社会保険では「通常労働者の4分の3以上」というのが基準となっていますが、通常の会社ですと、法定労働時間目いっぱいである週40時間かその近辺を通常労働者の所定労働時間としています。

よって、「通常労働者の4分の3以上」というのはほぼほぼ「週30時間以上」ということになります。

雇用保険が「週20時間以上」で、社会保険が「週30時間以上」という基準なのだから、社会保険に加入してしまうとほぼ間違いなく雇用保険の加入条件を満たしてしまうわけです。

一方、週20時間以上30時間未満の範囲内であれば、社会保険には加入せず雇用保険のみ加入できます。

なので、雇用保険のみ加入の労働者はいても、社会保険のみ加入の人はほとんどいないわけです。

 

社会保険の適用拡大で変わること

しかし、こうした状況は今年の10月より、大企業限定ではありますが変わります。

というのも、何度もこのブログで取り上げていますが、社会保険の加入条件が今年の10月より見直されるから。

以下、いつものおさらい(関連記事で詳しく解説しているものにはリンクを付けました)。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上
  2. 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
  3. 1年以上継続して雇用される見込みがある
  4. 被保険者の数が501人以上の企業
  5. 学生でない

以上の1.~5.のすべてを満たす場合、その労働者は社会保険に加入しなければなりません。

 

上の赤枠内を見てわかるとおり、社会保険の被保険者の数が501人以上の企業では、今年の10月より、雇用保険と同じ労働時間の基準が週20時間以上に変わります。(雇用保険と同じ、というか、社会保険のほうが雇用保険に合わせたんですが。)

なので、今までどおり「週20時間以上30時間未満」の範囲で働いていると、収入(月額8.8万円以上)によっては雇用保険だけでなく社会保険にも加入する必要がでてきます。

一方で、「社会保険には加入したくないけど、収入は月8.8万円以上欲しい、少なくとも扶養の範囲内の130万くらいは」という場合に、1週間の所定労働時間を20時間未満にすると、社会保険だけでなく雇用保険まで加入できなくなってしまうわけです。

ただ、社会保険の場合、1年以上の雇用見込みが無いといけないので(雇用保険は31日以上)、1年未満で辞めることが前提の労働契約であれば、雇用だけ加入して月8.8万円以上、というのもできなくもないですが、社会保険に加入したくないがために1年未満で次々勤め先を変えるのも本末転倒な気がします。

 

大企業のパートタイマーに迫られる決断

よって、平成28年10月以降、大企業のパートタイマーの方々は、

  • 雇用保険にも社会保険にも加入する。(週所定労働時間20時間以上、月額賃金8.8万円以上)
  • 雇用保険には加入するが社会保険には加入しない。(週所定労働時間20時間以上、月額賃金8.8万円未満)
  • 雇用保険にも社会保険にも加入しない。(週所定労働時間は20時間未満、月額賃金8.8万円以上も可)

のいずれかの働き方を選択する必要がありそうです。

一方、被保険者数500人以下の企業では、今後もしばらくは4分の3ルールが適用されますが、こちらも法改正で少し変わっているので、次辺りに解説したいと思います。

 

川嶋事務所へのお問い合わせはこちらから!

良かったらシェアお願いします!

  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

-労働保険・社会保険制度の解説