「うち、雇用契約書つくってないけど大丈夫?」
実は、そうした会社は少なくありません。
特に小規模事業やスタートアップでは、「入社のときに口頭で条件を伝えて終わり」というケースもよくあります。
そして意外に思われるかもしれませんが、雇用契約書を作っていないこと自体は、法律違反ではありません。
この記事の目次
1. 法律上は「口頭の合意」でも労働契約は成立する
日本の法律では、契約は当事者の合意だけで成立する「諾成主義」が原則となっています。
労働契約もまた契約ですので、「働いてほしい」「働きます」という双方の合意があれば成立するわけです
つまり、書面がなくても法的には契約関係が成立します。
2. 労働条件通知書の交付義務に注意
一方で、忘れてけいないのが、労働条件通知書の交付は義務です。
労働基準法第15条では、会社は賃金・労働時間・契約期間などの基本条件を書面で明示する義務を負っています。
- 労働条件通知書:法的に義務
- 雇用契約書:義務ではないが望ましい
つまり、「通知書は最低限の説明書」「契約書はお互いの合意を証明するもの」と考えるのが正確です。
3. 書面で結ぶ最大のメリット:「言った・言わない」をなくす
法律上は口頭でも成立する、とはいえ、現場では書面がないことでトラブルが起こりやすくなります。
たとえば、
- 「リモートワークOKって聞いてた」
- 「最初は契約社員だけど、すぐ正社員にするって言われた」
- 「ボーナスがあると聞いた」
こうした言った・言わないの食い違いは、ほぼすべて書面の不備から生じると言っても過言ではありません。
そして、一度トラブルになると、労働者側のモチベーションの低下や離職リスク、あるいは労働基準監督署に駆け込むなど、様々な問題が発生する可能性が出てきます。
4. 雇用契約書は「会社を守る盾」になる
一方で、雇用契約書があれば、話は変わってきます。
上で見たような言った・言わないの問題に対応できるだけではなく、次のようなリスクを防ぐことができます。
- 労働条件の誤解を防ぐ(勤務時間・残業・勤務地など)
- 退職・賞与・昇給などのトラブルを回避
- 監督署の調査や労使トラブルにも堂々と対応できる
このように、雇用契約書は就業規則と並ぶ「会社の盾」といえるわけです。
形式的に見えるかもしれませんが、作成することで結果的に経営リスクを大きく減らせるといえるでしょう。
5. (補足)雇用契約書の法律的な位置づけ
5.1. 労働契約法第4条2項
最後に、雇用契約(労働契約)の法的な位置づけについて見ておきましょう。
労働契約法第4条第2項には、次のように定められています。
ただし、労働契約法第4条2項にあるように、できる限り書面で確認
(労働契約の内容の理解の促進)
第四条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。
そのため、法律的な観点で見ても、雇用契約書は作成しておくに超したことはありません。
5.2. 労働基準法第15条
また、労働条件通知書については、労働基準法第15条にて、以下のように、賃金や労働時間など一定の条件は必ず書面で明示しなければならないと定められています。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
5.3. 雇用契約と労働契約
なお、雇用契約と労働契約という言い方については、基本的に民法は雇用契約、労働法は労働契約といいます。
両者に法的な違いがあるかどうかは議論があるようですが、実務上はあまり気にする必要はありません。
6. 名古屋の中小企業向け:「契約」と「ルール」で会社を守る
川嶋事務所では、名古屋エリアを中心に
- 雇用契約書・労働条件通知書の整備支援
- 就業規則・人事制度の見直し
- 労務トラブルを防ぐルール設計
を行っています。
「うちは契約書を作ってないけど大丈夫かな?」
「従業員とのトラブルを防げる仕組みにしたい」
そんな経営者の方は、ぜひご相談ください。
会社の実情に合わせて、トラブルを防ぐ現実的な仕組みをご提案します。