労働契約

銀座のママが「これは労働契約だ」と訴えられないためのプロ契約(委託契約)の結び方

2015年11月25日

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今日は先日の産経新聞の記事でヤフトピにもなっていたこちら。

銀座のホステスは労働者じゃない? 東京地裁判決が「プロ契約」と判断したワケ

簡単に概略を説明すると、店側は1年契約で原告のホステスとプロ契約、つまり、業務委託契約を結んでいたが、素行等に問題があったので途中解約したら、原告が「不当解雇だ」と訴えてきたというもの。

つまり、店側は委託契約を結んでいたと思っていたのに、原告側は労働契約を結んでいたと思っていたわけです。

地裁は店とホステスが結んでいたのは委託契約と判断する一方で、委託契約の途中解除については店側の言うようなやむを得ない理由があったとはいえず、原告の損害賠償請求を認めています。

ちなみに、デジタル大辞泉によると委託契約とは、

当事者の一方が相手方に対して一定の業務を委託する契約。民法上の準委任契約にあたる。企業などが外部の企業や個人に対して業務を委託する場合に締結するもので、受託者は自分の責任・管理のもとで業務を行う。

 

原告ホステスの契約が労働契約とは言えない理由

で、店と原告のホステスが結んでいた契約なのですが、①出来高(売り上げの60%が原告に入る)で、②出勤するかしないかや何時に出退勤するかが自由とされていたとあり、これだけでも十分、とてもじゃないけど労働契約とは言えないような内容です。記事にはありませんが、おそらく雇用保険や社会保険の加入もしていないはずです。

労働契約とは、使用者と労働者の間には使用従属関係があり、労務の提供に対して賃金が支払われる契約を言います。

使用従属関係、つまり、使用者の指揮命令を受けて労働しお金をもらう、というのが労働契約なわけですが、上記の通り、原告ホステスは出勤するかしないかや何時に出退勤するかが自由とされていて、とても使用者の指揮命令により労働していたとは言えません。また、報酬についても完全出来高で、労務の提供により支払われていたというよりは、お客さんを連れてきて売り上げを上げた、という成果によって支払われていたというのが相当です。

なので、全然労働契約とは言えない。

 

普通の人は労働契約と委託契約の違いなんて知らない

ただ、このホステスさんが自分の契約が労働契約であると勘違いしている(単に弁護士が入れ知恵してるだけの可能性もあるが)理由はわからなくもないんですね。だって、世の中の普通の人は労働契約と委託契約の違いなんてわからないし委託契約と請負契約の違いなんてもっとわからない。一般の人は、どこかのお店に雇われてそこで働いてお金をもらっていたら、それは労働契約だと思うのが普通でしょう。

これをヤフトピや日テレが間違えるのは業腹だし、イケハヤ師が間違える分には失笑ですが、普通の一般の人が間違える分にはしょうがない。学校も教えてくれなきゃ所さんも教えてくれないのですから。

なので、会社は、業務委託契約で誰かを雇う場合、これは労働契約ではない、と相手側にきちんと伝えないといけないわけです。それはもう、うるさいくらいに。今回みたいに、委託契約のホステス以外に、労働契約を結んでいるホステスさんがいる、というように、委託契約と労働契約が混在する職場ならなおさらです。

 

実録・わたしが個人請負で働いていた時の話

じゃあ、委託契約や請負契約で人を雇う場合はどうすればよいのでしょうか。

実はわたし、委託契約ではないのですが個人請負の契約で働いていたことがあります。委託契約と請負契約も厳密には別のものとするべきなのでしょうが、労働契約と似て非なる(場合がある)という意味では同じなので、まあ、良しとしてください。簡単に違いを説明すると、「業務の遂行」に報酬を支払うのが委託契約で、「仕事の完成」に対して報酬を支払うのが請負契約です。

で、わたしが個人請負で働いていたのは今回の原告の男版であるホスト、…ではなく、デバッガーというゲームやパチンコ台などを実際にプレイしたりしながら、プログラムにバグがないかを探す仕事でした。

もちろん、最初に求職しに行ったときは個人請負だなんて知りもせず、普通のアルパイト感覚で面接に行ったのですが、その面接の場で延々されたのが、これは労働契約ではなく請負契約であるという説明でした。

「請負契約なので雇用保険や社会保険には入れませんよ」「税金については確定申告をしてくださいね」「仕事があるときは呼ぶけどないときは呼ばないからね」「仕事が少ない時はできる人優先で呼ぶからね」「その代わり、そっちの都合が悪い時は悪いって言ってくれていいから」などなど。

面接に来たのか、請負契約の勉強に来たのかよくわからなくなるくらい、会社と自分が結ぶことになるのは労働契約ではなく請負契約であるという説明をされたわけです。逆に言えば、これくらいやらないと勘違いする人が絶対出てくる。

 

なので、委託契約で人を雇うにしろ、請負契約で人を雇うにしろ、初めが肝心、しっかりとうるさいくらいに相手に説明する、というのがプロ契約の正しい結び方だと思います。それですべての揉め事を避けられるわけではないですが、少なくとも「勘違い」による争い事は避けられます。世の中、中途半端な知識で勘違いしている人ほど揉め事を起こしやすい人種はいません。

最後に、雇用保険料や社会保険料を節約するために使用従属関係がある相手と委託契約や請負契約を結ぶのは、いろいろな意味でアウトですのでやめましょう。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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