「日本の労働力人口が約7,000万人と過去最高になった」とニュースで報じられました。
それにもかかわらず、現場では相変わらず「人が足りない」「採用できない」という声が止まりません。
人は増えているのに、なぜ人手不足なのでしょうか。
こうした違和感は、「労働力人口」という言葉の意味と、企業が感じている「人手不足」が、そもそも別のものであることから生じています。
労働力人口が増えても「働く量」は増えていない
まず押さえておきたいのは、労働力人口とは「働いている人」と「働く意思のある人」の合計だという点です。
ここには、フルタイムかどうか、何時間働いているか、どれだけ生産性があるか、といった要素は含まれていません。
実際、日本では労働力人口は増加している一方で、1人あたりの年間総労働時間は長期的に減少しています。

出典:人口構造、労働時間等について(厚生労働省)
つまり、人数は増えているが、社会全体で供給される労働時間はそれほど増えていないわけです。
企業が欲しいのは「頭数」ではなく、「現場を回せる労働時間」。
このズレが、最初の違和感を生んでいるわけです。
労働人口増加の正体は「高齢者・女性といった短時間労働」
そもそも労働力人口が過去最高になった最大の要因は、高齢者と女性の労働市場参加が進んだことにあります。
これは政策的にも歓迎すべき変化ですが、現場目線で見ると話は少し変わってきます。
なぜなら、高齢者や女性の就業は、パートタイムや短時間勤務が中心だからです。
フルタイム前提、あるいは時間外対応が必要な業務とは、どうしても噛み合いにくい。
統計上は「1人」としてカウントされても、企業から見ると「必要な時間・条件では働けない人」であるケースも少なくないわけです。
労働力人口は増えているが、企業が必要とする労働力の中身とは一致していない。ここにも、量と実感のズレがあるわけです。
有効求人倍率が示す現実
「人手不足は大げさだ」という意見もありますが、少なくとも統計上はこれを否定することはできません。
まず、厚生労働省の有効求人倍率を見ると、全体でも1倍を超え、業種によっては3倍、6倍といった水準に達しています。
特に、建設、介護、運輸といった分野では、「働きたい人より、募集している仕事の方が多い」状態が恒常化しているとさえいえます。
一方で、事務職など有効求人倍率が1を下回る業種もあり、こうした業種からすると人手不足を実感しにくいというのはあるのでしょう。
いずれにせよ、需給の逼迫が数字として表れている状況、特に特定の業種では明確な事実であることは間違いありません。
少子高齢化は「遅れて効いてくる」
最後に、誰もが原因だと感じているのが、人口構造の問題です。
労働力人口が増えているとはいえ、生産年齢人口そのものは減少傾向にあります。そして、労働人口の増加は、高齢者が「まだ働いている」ことで下支えされているといっても過言ではありません。
裏を返せば、高齢者が本格的に引退すれば、労働力人口は一気に減る、今の「過去最高」は、むしろ嵐の前の静けさとも言えるでしょう。
また、これも質の話になるが、企業が人がほしいという場合、暗に「若い人がほしい」ということが少なくありません。
そのため、高齢者が働いているからといって、人が足りていると感じる会社は多くないと考えられるわけです
人がいないのではなく「合う人がいない」
現状の人手不足は、突き詰めると、最終的にはミスマッチの問題に行き着きます。
企業が求めるのは、フルタイムで働くことを前提に、特定のスキルや一定の経験を持った労働者です。
一方、労働市場に増えているのは、短時間労働などの柔軟な働き方を希望し、限定的な業務を行う人材です。
両者は同じ「労働者」でも別物です。
それが「人はいるが、欲しい人はいない」状態につながり、人手不足という言葉で一括りにされているのが、問題をわかりづらくしているわけです。
数字だけ見ても、現場は見えてこない
まとめると、労働力人口が過去最高という事実自体は、間違いないのでしょう。しかし、それはあくまで統計上の話。
現場で起きているのは、
- 総労働時間の減少
- 短時間労働の増加
- 業種間の需給ギャップ
- 少子高齢化という長期トレンド
これらが重なった結果として、今の人手不足があるわけです。
いずれにせよ、今の日本では、人は増えているのに、労働力は増えていない。そんな逆説的な状況が、静かに進んでいるといえるでしょう。
労働人口7000万人、人手不足という言葉に振り回されず、現実的な労務対応を考える上では、こうした構造を踏まえて整理しておくことも重要です。

