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改正されたマタハラ指針をセクハラ指針との違いに注意しつつ解説

妊婦

前回はセクハラ指針について徹底的に解説したので、今回はマタハラ指針の解説です。

マタハラ指針とセクハラ指針はかなり共通する部分が多く、基本的には、セクハラとマタハラは一元的に対応すべきものとなっています(指針でも、相談窓口の一元化が望ましいとしています)。

こうした関係で、ついつい「セクハラ指針同様」みたいな書き方が増えてしまうのはご了承ください。

ちなみに、セクハラ指針についてはこちら記事も読んでもらえればと思います。

改正されたセクハラ指針を「雇用管理上講ずべき措置」を中心に解説

このマタハラ指針もセクハラ指針同様(早速!)、2020年1月に改正されており、2020年6月1日より適用が開始されます。

 

(1)マタハラ等指針の概要

セクハラ同様に、マタハラについては、法律等で、会社に雇用管理上の措置を実施することが義務づけられています。

そして、これまたセクハラ指針と同様に、マタハラ指針、正式名称「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」はこの「雇用管理上の措置」を具体的に示したものとなります。

マタハラ指針では、マタハラを初めとする各用語の定義をはっきりとさせた上で、会社が行うべき措置について具体的に示しています。

以下では、マタハラ等指針の中身について見ていきます。

 

(2)各用語の定義

指針における「マタハラ」の定義

マタハラ指針におけるマタハラとは「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント」を指します。

そして、「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント」には以下の2つの種類がるとしていますが、いずれも措置や禁止の対象です。

制度等の利用への嫌がらせ型:労働基準法に定めのある産前産後休業やその他の妊娠又は出産に関する制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されるもの

状態への嫌がらせ型:その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したことその他の妊娠又は出産に関する言動により就業環境が害されるもの

 

前者の制度等の利用への嫌がらせ型の具体的な例としては「女性労働者の育児休業等の制度の利用したいという相談に対し、その上司が請求等をしないようその女性労働者に言う」や「女性労働者の制度利用の請求に対し、上司が当該女性労働者に対し、当該請求等を取り下げるよう言うこと」などがあります。

要するに、労働基準法や育児介護休業法で認められている制度の利用を阻害する言動はマタハラになると言うことです。

また、後者の状態への嫌がらせ型とは妊娠や出産、法律で必ず休まないといけない産後休業中、さらには妊娠又は出産に起因する症状などにより労働能率が低下している女性労働者に対して「解雇等の不利益取扱いの示唆」「嫌がらせに当たる言動」を行うことをいいます。

 

「職場」の定義

マタハラ指針における「職場」とは、以下の通りです。

  1. 事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所
  2. 上記以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれる

 

セクハラ指針で記載のあった「取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等」についてはマタハラ指針では記載がありません。

これは、今回のセクハラ指針の改正で追加された「他の事業主や他の会社に雇用される労働者であってもハラスメントの行為者または被害者になる」といった内容が、マタハラ指針では一切追加されてないためと考えられます。

 

「労働者」の定義

セクハラ指針とほぼ同内容。

マタハラ指針における「労働者」とは、その雇用形態にかかわらず、会社が雇用する労働者全てを言います。

よって、マタハラに関する雇用管理上の措置で、正規と非正規で差を設けることはできません。

また、派遣労働者を受け入れている側の会社(派遣先)からすると、派遣労働者は自社で雇用する労働者とはなりませんが、自社の社員と同様の措置を行う必要があります。

今回の指針の改正で、派遣労働者について、マタハラの相談を行ったことに対する不利益取扱いの対象であること、都道府県労働局長による紛争解決の援助の対象であることが明記されました。

 

(3)事業主等の責務

(3)は全体を通してみてもセクハラ指針と同内容となっています。

今回のマタハラ指針の改正では、新たに、マタハラに対する事業主及び労働者の責務が明記されました。

 

マタハラに対する事業主の責務

改正された指針では、以下のことが、事業主の責務としています。

  • マタハラは行ってはならない等、妊娠、出産等に関するハラスメントに起因する問題(マタハラ問題)についてその雇用する労働者の関心と理解を深める
  • 労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮を行う
  • 国の講ずる同条第1項の広報活動、啓発活動その他の措置に協力するように努めなければならない
  • 事業主自らも、妊娠、出産等に関するハラスメント問題に対する関心と理解を深め、労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。)に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない

 

上記に加えて、指針では「マタハラ問題は労働者の意欲の低下による職場環境の悪化や職場全体の生産性の低下、労働者の健康状態の悪化、休職や退職などにつながり得るとし、これらに伴う経営的な損失等が考えられる」としています。

文言がセクハラからマタハラに変わっただけで、内容はセクハラにおける事業主の責務と同じです。

 

セクハラに対する労働者の責務

こちらもセクハラ指針同様、マタハラ指針で以下の通り、労働者の責務も定めています。

  • 労働者は、マタハラ問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる措置に協力するように努めなければならない。

 

文言がセクハラからマタハラに変わっただけ(以下、略)。

 

(4)会社でのマタハラ問題に対して事業主が雇用管理上講ずべき措置

以上を踏まえて、会社は、会社でのマタハラ問題に対して雇用管理上の措置を講じなければなりません。

そして、このハラスメントの雇用管理上の措置については、大枠では各ハラスメント共通となっているのですが、マタハラのみ「職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置」という項目がある点に注意が必要です。

  1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  2. 相談(苦情を含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  3. 職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  4. 職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
  5. 1.から4.までの措置と併せて講ずべき措置

 

1.~3.及び5.の内容は、項目の中身も含めてセクハラ指針とほぼ同内容なので、マタハラについては4.に特に気をつける必要があります。

 

1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発については、

事業主の方針については「事業主のマタハラに対する方針」と「マタハラを行った者への対処の方針」の2つに分けて考えます。

その上で、それらを明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発する必要があります。

 

周知・啓発に当たって留意する点

まず、上記の方針を周知・啓発する前に、指針では、ハラスメント防止の効果を高めるためにはそれが起こる背景を踏まえることが重要としています。

指針ではマタハラ発生の原因や背景を以下の通り、指摘しています。

  1. 妊娠、出産等に関する否定的な言動(不妊治療に対する否定的な言動を含め、他の女性労働者の妊娠、出産等の否定につながる言動(当該女性労働者に直接行わない言動も含む。)をいい、単なる自らの意思の表明を除く。以下同じ。)が頻繁に行われるなど制度等の利用又は制度等の利用の請求等をしにくい職場風土
  2. 制度等の利用ができることの職場における周知が不十分

※ 太字は今回の改正で追加

 

「事業主のマタハラに対する方針」

次に「事業主のマタハラに対する方針」を労働者等に周知・啓発していると認められる措置ですが、こちらは以下のとおりとなります。

  • 就業規則等にマタハラを行ってはならない旨を規定(マタハラ禁止規定の策定)
  • 社内報やパンフレット、会社ホームページでマタハラを行ってはならない旨を記載し広報する
  • マタハラを行ってはならないことを研修等を通じて管理監督者を含む労働者に周知徹底する

※ 太字は今回の改正で追加

 

やはり、といっては何ですが、セクハラ指針と内容は同一です。

そして、セクハラ指針同様、今回の指針改正で、指針内で「マタハラはあってはならない」と記載のあった部分は全て「マタハラを行ってはならない」に変更されています。

 

「マタハラを行った者への対処の方針」

また、「マタハラを行った者への対処の方針」を労働者等に周知・啓発していると認められる措置は以下のものとなります。

  • 就業規則等にマタハラを行った者に対する懲戒規定を定めそれを労働者に周知・啓発
  • すでに規定がある場合は、マタハラが懲戒の規定の適用対象であることを管理監督者を含む労働者に周知・啓発

※ 太字は今回の改正で追加

 

こちらもセクハラ指針と内容は同一。

 

就業規則にマタハラ禁止規定は必須

以上のことから、マタハラについて雇用管理上の措置を行う上で、就業規則に規定を定めることは必須と言えます。

就業規則の規定に必要となるものとしては、以下のものがあります。

  • マタハラの定義(マタハラのみでなく、職場や労働者の定義も記載するのがベター)
  • マタハラが懲戒事由である旨と懲戒規定
  • 相談窓口
  • 相談を行った者に対して不利益取扱いを行わない旨

 

また、厚生労働省のモデル就業規則ではマタハラの禁止規定がかなりシンプルなものになっていますが、これはパンフレット等で禁止を周知することが前提の内容なので注意が必要です。

マタハラの禁止については、就業規則本則、育児介護休業規程、どちらで定めて問題ありません。

 

2.相談(苦情を含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

相談窓口はセクハラの窓口と一元化が望ましい

会社は雇用管理上の措置として、マタハラの相談窓口を設置する必要があります。

マタハラの相談窓口における要件は、以下の通り、セクハラの相談窓口の要件とほぼ同一です。このため、指針でもマタハラの相談窓口はセクハラ相談窓口と一元化することが望ましいとしています。

相談窓口を設置していると認められる例

  1. 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
  2. 相談に対応するための制度を設けること
  3. 外部の機関に相談への対応を委託すること

相談窓口の担当者が適切に対応することができるようにしていると認められる例

  • 担当者が相談内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること
  • 担当者が、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること
  • 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと

※ 太字は今回の改正で追加

その他、相談の要件

  • 相談窓口は、設置したことについて労働者に周知する必要がある
  • 相談については、担当者がその内容や状況に応じ適切に対応できるようにすることに加え、現実にマタハラが生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、マタハラに該当するかどうか微妙な場合についても広くも対応できるようにしておく必要がある

 

3.職場におけるマタハラに係る事後の迅速かつ適切な対応

職場におけるマタハラに係る事後の迅速かつ適切な対応についても、セクハラ指針と同様の流れとなります。

対応の流れは以下の通り、3つの段階があります。

  1. 事実関係の確認
  2. マタハラが事実であった場合の対処
  3. 再発防止

 

1.事実関係の確認

マタハラがあったかどうかについては、被害者(相談者)の意見だけでなく、そうした行為を行ったとされる者(行為者)の意見を聴く必要があります。

また、当事者双方の主張に不一致があり、事実の確認が十分に出来ない場合は第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずる必要があります。

一方で、事実関係の確認が困難な場合は、調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねる必要があります。

 

2.マタハラが事実であった場合の対処

マタハラが事実であった場合の対処について、「被害者」と「行為者」の双方に対するものがあります。

内容はやはりというか、セクハラ指針とほぼ同内容です。

 

被害者に対する対処

マタハラ指針で被害者に対する雇用管理上の措置を講じていると認められる内容は以下の通りとなります。

1.事案の内容に応じた以下の措置

  • 被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助
  • 被害者と行為者を引き離すための配置転換
  • 行為者の謝罪等の措置
  • (マタハラによって被った)被害者の労働条件上の不利益の回復
  • 管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応 等

2.調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること

 

行為者に対する対処

一方、行為者に対する対処として雇用管理上の措置を講じていると認められる内容は以下の通りとなります。

1.行為者に対して必要な懲戒その他の措置

2.事案の内容に応じた以下の措置

  • 被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助
  • 被害者と行為者を引き離すための配置転換
  • 行為者の謝罪等の措置

3.調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること

 

再発防止

再発防止の措置として認められるものは以下の通りとなります。

  1. 「事業主のマタハラに対する方針」と「マタハラを行った者への対処の方針」を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等する
  2. 労働者に対してマタハラに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施

 

なお、上記の措置は、結果としてマタハラの事実が確認されなかった場合も同様の措置を講ずる必要があります。

 

4.職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

マタハラ指針では、マタハラの原因や背景となる要因の解消も事業主が講ずべき措置としています。

こうした措置の項目はセクハラ指針やパワハラ指針にはなく、マタハラ指針独自のものとなります。

 

措置を講ずる上で留意すべき点

マタハラ指針ではマタハラの原因や背景となる要因を解消する上で、実際の措置を講ずる前に、以下の点に留意すべきとしています。

  • 職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの背景には妊娠、出産等に関する否定的な言動もあるが、当該言動の要因の一つには、妊娠した労働者がつわりなどの体調不良のため労務の提供ができないことや労働能率が低下すること等により、周囲の労働者の業務負担が増大することもあることから、周囲の労働者の業務負担等にも配慮すること
  • 妊娠等した労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の体調等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つこと していくという意識を持つことのいずれも重要であることに留意することが必要である

 

マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置

マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置として、指針であげられているのは「業務体制の整備」「周知・啓発」です。

それぞれ、措置として認められるものは以下の通りとなります。

業務体制の整備など、必要な措置を講じていると認められる例

  • 妊娠等した労働者の周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう、適切に業務分担の見直しを行うこと
  • 業務の点検を行い、業務の効率化等を行うこと

 

周知・啓発を適切に講じていると認められる例

  • 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に、妊娠等した労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の体調等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等について記載し、妊娠等した労働者に配布等すること。
  • 妊娠等した労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の体調等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等について、人事部門等から妊娠等した労働者に周知・啓発すること。

 

5.1.から4.までの措置と併せて講ずべき措置

1.から4.までの措置と併せて講ずべき措置とは、主に以下の通りです。やはり、こちらもセクハラ指針と同様のものとなります。

  1. 相談者・行為者等のプライバシーの保護に必要な措置を講ずること及び、その旨を労働者に対して周知すること
  2. マタハラの相談等(※)を理由とした解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発

(※)マタハラについて相談したこと、事実関係の確認等、事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと、調停の出頭の求めに応じたこと(マタハラについて相談したこと、以外は今回の指針改正で追加されたもの)

 

(5)その他、今回の指針の改正で追加されたもの

従来の指針では、上記の内容までで終わっていたのですが、今回の改正ではさらに以下の内容が追加されています。

  • 事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容

 

詳細はセクハラ指針と同じなうえ、努力義務なのに加えて、記事自体がかなりが長くなっているので、詳細は省略。

ちなみに、セクハラ指針の改正で追加されている「他の事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力する努力義務」「会社でのマタハラ問題に対して事業主が雇用管理上講ずべき措置以外に、事業主が行うことが望ましい内容」は、マタハラ指針では追加されていません。

 

セクハラ指針と明確に異なる点

以上の通り、セクハラ指針と同一の部分がかなり目立ちます。

一方で、異なる点もあり、例えば、今回のセクハラ指針の改正で追加された、取引先等、他の事業主や他の会社に雇用される労働者であってもハラスメントの行為者または被害者になる、という内容は、マタハラ指針にはありません。

指針のところどころで、マタハラについては企業風土がその原因にあるとの考えが示されていることから、他の事業主や他の会社に雇用される労働者がハラスメントの行為者または被害者になる、ということはあまり想定していないのかもしれません。