ハラスメント

改正されたセクハラ指針を「雇用管理上講ずべき措置」を中心に解説

2020年1月20日

セクハラ

こちらの記事でも解説したとおり、セクハラ及びマタハラについて会社は、その対策のための雇用管理上の措置を行うことが義務づけられています。

そして、会社がハラスメント対策で行う必要のある雇用管理上の措置についての詳しい内容は、厚生労働省の出す「指針」で定められています。

この指針が2020年1月に改正され、2020年6月1日より適用が開始されます。

今回はセクハラ指針について、改正内容はもちろんのこと、指針の内容全体についても解説していきたいと思います。

 

(1)セクハラ指針の概要

セクハラについては、法律等で、会社に雇用管理上の措置を実施することが義務づけられています。

セクハラ指針、正式名称「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」はこの「雇用管理上の措置」を具体的に示したものです。

セクハラ指針では、セクハラを初めとする各用語の定義をはっきりとさせた上で、会社が行うべき措置について具体的に示しています。

以下では、セクハラ指針の中身について見ていきます。

 

(2)各用語の定義

指針における「セクハラ」の定義

セクハラ指針におけるセクハラとは「職場におけるセクシュアルハラスメント」を指します。

そして、「職場におけるセクシュアルハラスメント」には以下の2つの種類がるとしていますが、いずれも措置や禁止の対象です。

対価型セクシュアルハラスメント:職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの

環境型セクシュアルハラスメント:当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの

 

前者の対価型セクシュアルハラスメントの具体的な例としては「事業主が労働者に性的な関係を要求したが、労働者が断ったので減給や左遷、解雇する」といったものです。

後者の環境型セクシュアルハラスメントの具体的な例としては「同僚が胸や尻を触ることで、被害を受けている側の労働者が苦痛を受ける」「性的な写真やポスターが職場に貼ってあり、それをみた労働者が不快感を感じる」などです。

指針ではこうしたセクハラ行為に対する措置を講ずることを会社に求めています。

そして、こうしたセクハラ行為に対する措置は同性に対する者はもちろんのこと、被害者がLGBTの場合も同様に対象となります。

 

「職場」の定義

セクハラ指針は「職場におけるセクシュアルハラスメント」を対象としていますが、では「職場」とは具体的にどのような場所をいうのでしょうか。

指針では以下のように定義しています。

  1. 事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所
  2. 上記以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれる
  3. 2.の例としては取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等であっても、当該労働者が業務を遂行する場所

 

つまり、事業場内だけでなく、労働者が業務を行う場所であれば、セクハラ指針においてはどこであっても「職場」と考えるわけです。

 

「労働者」の定義

セクハラ指針における「労働者」とは、その雇用形態にかかわらず、会社が雇用する労働者全てを言います。

つまり、セクハラに関する雇用管理上の措置で、正規と非正規で差を設けることはできないわけです。

加えて、派遣労働者を受け入れている側の会社(派遣先)からすると、派遣労働者は自社で雇用する労働者とはなりませんが、自社の社員と同様の措置を行う必要があります。

また、今回の指針の改正では、派遣労働者について、セクハラ等の相談を行ったことに対する不利益取扱いの対象であること、都道府県労働局長による紛争解決の援助の対象であることが明記されました。

 

「性的な言動」「性的な内容の発言」「性的な行動」の定義

セクハラとなり得る「性的な言動」についても指針で定義されています。

以下を見ていただければわかるとおり、「言動」、すなわち「言葉」と「行動」どちらもセクハラになり得るとしています。

  • 性的な言動:「性的な内容の発言」及び「性的な行動」
  1. 性的な内容の発言:性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等
  2. 性的な行動:性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等

 

指針の改正で取引先の事業主や労働者もセクハラの行為者となる可能性が

また、上記のような言動を行う者について、従来の指針では、労働者を雇用する事業主や、同じ会社で働く上司や同僚までに限定されていました。

しかし、今回の指針の改正では以下の者たちによる「性的な言動」についても「職場におけるセクシュアルハラスメント」になるとしています。

  • 取引先等の他の会社の事業主やその雇用する労働者
  • 顧客
  • (病院で働いている場合はその)患者やその家族
  • 学校における生徒等

 

(3)事業主等の責務

今回の指針の改正では、新たに、セクハラに対する事業主及び労働者の責務が明記されました。

 

セクハラに対する事業主の責務

改正された指針では、以下のことが、事業主の責務としています。

  • セクハラは行ってはならない等、セクシュアルハラスメントに起因する問題(セクハラ問題)についてその雇用する労働者の関心と理解を深める
  • 労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮を行う
  • 国の講ずる同条第1項の広報活動、啓発活動その他の措置に協力するように努めなければならない
  • 事業主自らも、セクシュアルハラスメント問題に対する関心と理解を深め、労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。)に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない

 

上記に加えて、指針では「セクハラ問題は労働者の意欲の低下による職場環境の悪化や職場全体の生産性の低下、労働者の健康状態の悪化、休職や退職などにつながり得るとし、これらに伴う経営的な損失等が考えられる」としています。

要するに、セクハラ問題が起こると会社が損する可能性が高いのできちんと対応しましょう、と会社に対して警告しているわけです。

 

セクハラに対する労働者の責務

指針では以下の通り、労働者の責務も定めています。

  • 労働者は、セクハラ問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる措置に協力するように努めなければならない。

セクハラ問題に無関心であるな、事業主の講ずる措置には協力しなさい、という内容です。

 

(4)会社でのセクハラ問題に対して事業主が雇用管理上講ずべき措置

以上を踏まえて、会社は、会社でのセクハラ問題に対して雇用管理上の措置を講じなければなりません。

そして、前回の記事でも述べたとおり、会社がハラスメントに対して行う必要がある雇用管理上の措置については、以下のように大枠では共通化されています。

  1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  2. 相談(苦情を含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  3. 職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  4. 1.から3.までの措置と併せて講ずべき措置

 

以下では、各項目について詳しく見ていきます。

 

1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発については、

事業主の方針については「セクハラを行ってはならない旨の方針」と「セクハラを行った者への対処の方針」の2つに分けて考えます。

その上で、それらを明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発する必要があります。

 

「セクハラを行ってはならない旨の方針」

まず、「セクハラを行ってはならない旨の方針」を労働者等に周知・啓発していると認められる措置は以下のものとなります。

  • 就業規則等にセクハラを行ってはならない旨を規定(セクハラ禁止規定の策定)
  • 社内報やパンフレット、会社ホームページでセクハラを行ってはならない旨を記載し広報する
  • セクハラを行ってはならないことを研修等を通じて管理監督者を含む労働者に周知徹底する

※ 太字は今回の改正で追加

 

今回の指針改正では、「セクハラはあってはならない」と記載のあった部分は全て「セクハラを行ってはならない」に変更されています。

 

「セクハラを行った者への対処の方針」

また、「セクハラを行った者への対処の方針」を労働者等に周知・啓発していると認められる措置は以下のものとなります。

  • 就業規則等にセクハラを行った者に対する懲戒規定を定めそれを労働者に周知・啓発
  • すでに規定がある場合は、セクハラが懲戒の規定の適用対象であることを管理監督者を含む労働者に周知・啓発

※ 太字は今回の改正で追加

 

就業規則にセクハラ禁止規定は必須

「セクハラを行ってはならない旨の方針」と「セクハラを行った者への対処の方針」の内容を見ていただければわかるとおり、セクハラについて雇用管理上の措置を行う上で、就業規則に規定を定めることは必須と言えます。

就業規則の規定に必要となるものとしては、以下のものがあります。

  • セクハラの定義(セクハラのみでなく、職場や労働者の定義も記載するのがベター)
  • セクハラが懲戒事由である旨と懲戒規定
  • 相談窓口
  • 相談を行った者に対して不利益取扱いを行わない旨

 

また、厚生労働省のモデル就業規則ではセクハラの禁止規定がかなりシンプルなものになっていますが、これはパンフレット等で禁止を周知することが前提の内容です。

そのため、パンフレット等による周知・啓発を行わずに、モデル規程の内容を記載してしまうと、指針で定める雇用管理上の措置を満たさない可能性が高まります。

 

2.相談(苦情を含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

相談窓口として認められるもの

会社の雇用管理上の措置として、セクハラの相談窓口を設置する必要があります。

この相談窓口は、設置したことについて労働者に周知する必要があります。

そして、相談窓口を設置していると認められる例としては以下の通りとなります。

  1. 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
  2. 相談に対応するための制度を設けること
  3. 外部の機関に相談への対応を委託すること

 

相談への対応

また、相談については、担当者がその内容や状況に応じ適切に対応できるようにすることに加え、現実にセクハラが生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、セクハラに該当するかどうか微妙な場合についても広くも対応できるようにしておく必要があるとされています。

具体的には以下の通りとなります。

(相談窓口の担当者が適切に対応することができるようにしていると認められる例)

  • 担当者が相談内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること
  • 担当者が、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること
  • 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと

※ 太字は今回の改正で追加

 

3.職場におけるセクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応

職場におけるセクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応については、以下の通り、3つ段階があります。

  1. 事実関係の確認
  2. セクハラが事実であった場合の対処
  3. 再発防止

 

1.事実関係の確認

セクハラがあったかどうかについては、被害者(相談者)の意見だけでなく、そうした行為を行ったとされる者(行為者)の意見を聴く必要があります。

また、当事者双方の主張に不一致があり、事実の確認が十分に出来ない場合は第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずる必要があります。

一方で、事実関係の確認が困難な場合は、調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねる必要があります。

さらに、これは今回の指針の改正点ですが、行為者が、他の会社の事業主や労働者の場合に協力を求めることも、会社が行うべき措置とされています。

 

2.セクハラが事実であった場合の対処

セクハラが事実であった場合の対処について、「被害者」と「行為者」の双方に対するものがあります。

 

被害者に対する対処

セクハラ指針で被害者に対する雇用管理上の措置を講じていると認められる内容は以下の通りとなります。

1.事案の内容に応じた以下の措置

  • 被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助
  • 被害者と行為者を引き離すための配置転換
  • 行為者の謝罪等の措置
  • (セクハラによって被った)被害者の労働条件上の不利益の回復
  • 管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応 等

2.調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること

 

行為者に対する対処

一方、行為者に対する対処として雇用管理上の措置を講じていると認められる内容は以下の通りとなります。

1.行為者に対して必要な懲戒その他の措置

2.事案の内容に応じた以下の措置

  • 被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助
  • 被害者と行為者を引き離すための配置転換
  • 行為者の謝罪等の措置

3.調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること

 

上記のようにある一方で、行為に対して不釣り合いな重い懲戒処分を行うと今度は会社が、違法な処分であると行為者に訴えられる可能性があるので注意が必要です。

また、行為者の謝罪、についても、強制することは「強要罪」に当たる可能性があるので注意すべきです。

 

再発防止

再発防止の措置として、まずは改めて会社のセクハラに対する方針を周知・啓発する必要があります。

そうした措置として認められるものは以下の通りとなります。

  1. 「セクハラを行ってはならない旨の方針」と「セクハラを行った者への対処の方針」を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等する
  2. 労働者に対して職場におけるセクシュアルハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施

 

なお、上記の措置は、結果としてセクハラの事実が確認されなかった場合も同様の措置を講ずる必要があります。

また、今回の指針の改正点として、事実関係の確認の際と同様に、行為者が、他の会社の事業主や労働者の場合に協力を求めることも、会社が行うべき措置とされています。

 

4.1.から3.までの措置と併せて講ずべき措置

1.から3.までの措置と併せて講ずべき措置とは、主に以下の通りです。

  1. 相談者・行為者等のプライバシーの保護に必要な措置を講ずること及び、その旨を労働者に対して周知すること
  2. セクハラの相談等(※)を理由とした解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発

(※)セクハラについて相談したこと、事実関係の確認等、事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと、調停の出頭の求めに応じたこと(セクハラについて相談したこと、以外は今回の指針改正で追加されたもの)

 

(5)その他、今回の指針の改正で追加されたもの

従来の指針では、上記の内容までで終わっていたのですが、今回の改正ではさらに以下の内容が追加されています。

  1. 他の事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力する努力義務
  2. 会社でのセクハラ問題に対して事業主が雇用管理上講ずべき措置以外に、事業主が行うことが望ましい内容
  3. 事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容

 

いずれも、努力義務のため、会社のリソースと相談してどのようにするか検討すべきでしょう。

 

1.他の事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力する努力義務

ここまでの指針の内容でも度々、自社で雇用する労働者以外の者が行為者の場合も、会社は対応しなければならない旨が記載されていました。

この努力義務は逆に、自社の社員が他の会社の社員等に対してセクハラをした、あるいはその嫌疑がかかった場合に、協力するよう努めなさい、という内容です。

また、取引先等からそうした協力を求められることは、会社としては決していい気持ちではありませんが、指針ではこうした協力を求められたことを理由に契約解除等の不利益取扱いを行うことは望ましくないとしています。

 

2.会社でのセクハラ問題に対して事業主が雇用管理上講ずべき措置以外に、事業主が行うことが望ましい内容

会社でのセクハラ問題に対して事業主が雇用管理上講ずべき措置以外に、事業主が行うことが望ましい内容とは以下の通りです。「望ましい」なので、行うことは義務ではありません。

  1. マタハラやパワハラとの相談窓口の一元化
  2. 会社が雇用管理上の措置を講ずる際に、労働者や労働組合等の参画を得つつアンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努める

 

1.については、マタハラと一元的に、というのは改正前からある内容ですが、これに今回「パワハラ」も追加されています。

また、2.については、雇用管理上の措置の見直しの際に労働者の意見を聴くことが重要であることから、上記のような措置を行うことが望ましいとしています。

 

3.事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容

ここまでの指針の内容を踏まえて、「労働者以外」のものや「当該事業主が雇用する労働者以外の者」についての言動に注意を払ったり、言動に方針を示す、そうした者たちに対する言動についても雇用する労働者党同様の方針を示す、あるいはそうした者たちの相談に応じることが望ましい、としています。

やはり「望ましい」なので、実施は義務ではありません。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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