年次有給休暇の買上げは違法?例外的に認められるケースと実務上の注意点

年次有給休暇の買上げは、年次有給休暇がなかなか取得できない日本の雇用慣行もあって、実務上よく話題になります。

しかし、年次有給休暇の買上げは法律上、原則として禁止。一方で、一定の条件を満たす場合には、例外的に認められるケースも存在します。

本記事では、年次有給休暇の買上げについて、法令上の考え方を整理したうえで、例外的に可能となる場合や、実務で検討する際の注意点を解説します。

この記事でわかること
  • 年次有給休暇の買上げが原則として禁止されている理由
  • 例外的に年次有給休暇の買上げが認められる具体的なケース
  • 退職時など、実務上買上げを検討することがある場面
  • 年次有給休暇を買い上げる場合の運用上の注意点
目次

法令から見た「年次有給休暇の買上げ」のポイント

年次有給休暇の買上げとは

年次有給休暇の買上げとは、年次有給休暇を取得させる代わりに、その分の賃金の支払って、年次有給休暇を取得させたことにすることをいいます。

原則、年次有給休暇の買上げは禁止

ただし、この年次有給休暇の買上げは法律上禁止されています。

なぜ禁止されているかといえば、年次有給休暇は「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資する」という趣旨によって設けられているものだからです。

つまり、年次有給休暇とはそもそもが休むための制度であり、「休む代わりにお金をあげる」という年次有給休暇の買上げとは、根本的に相容れないわけです。

例外的に年次有給休暇の買上げが可能となる場合

消滅時効で権利が消滅した年次有給休暇

年次有給休暇の買上げについては、例外的に可能な場合もあります。

例えば「消滅時効で権利が消滅した年次有給休暇」を買い上げることは問題ありません。

なぜなら、年次有給休暇の買上げが禁止されているのはあくまで、法律上の効力がある年次有給休暇のみだからです。

なので、2年の消滅時効にかかった年次有給休暇を、会社の裁量で「消滅しないことにする」ことは可能ですし、会社の裁量で買上げることも可能となります。

退職によって取得が不可能となった年次有給休暇

また、年次有給休暇は労働日にしか取得できないので、例えば、退職までの日数よりも年次有給休暇の残日数が多いと、すべての年次有給休暇を消化しきれません。

このように「退職によって取得が不可能となった年次有給休暇分」についても買上が可能です。

法定を上回る分の年次有給休暇

年次有給休暇は法律で、勤務期間ごとの付与日数が決まっています。

そのため、法律で定められた日数よりも少ない日数を付与することは法違反となります。

しかし、法律を上回る分の日数を与えることは問題はなく、また、会社が任意で与える法律を上回る分の年次有給休暇については法律による制限も受けません。

そのため、法定分を超える年次有給休暇については買上げを行うこともできます。

実務において年次有給休暇の買上げを行うことが有効となる場面

退職時の引継ぎ

禁止の例外に該当する場合の年次有給休暇の買上げを行うかどうかは会社の裁量の範囲です。

ただ、退職によって取得が不可能となった年次有給休暇については、退職時の引継ぎ等の関係から、認めることを検討してみてもいいかもしれません。

というのも、日本の雇用慣行では退職時に、未取得だった年次有給休暇を一気に使う、ということがよく行われます。

しかし、この場合、業務の引継ぎに取れる時間が足りず、引継ぎが不完全な退職してしまうことがよく起こります。

こういったことを避けるため、取得の代わりに年次有給休暇を買い上げる、ということが考えられるわけです。

合意退職者と辞職者

また、退職理由が合意退職か辞職かで、年次有給休暇の買上げを認めるかどうか、対応を変えることも考えられます。

合意退職の場合、ある程度余裕を持って辞めてくれる一方、辞職の場合、退職の意思表示から最短での退職となる2週間での退職となることが多いからです。

それ以外の買上げについて

なお、個人的な意見を言わせてもらえば、「消滅時効で権利が消滅した年次有給休暇」の買上に関しては、権利がある状態での年次有給休暇の取得意欲を下げる可能性があり、あまりオススメできません。

また、法定を上回る分の年次有給休暇については、会社がどういった目的でその法定を上回る年次有給休暇を導入しているかにもよるので、一概にはいえません。

年次有給休暇の買上の運用上の注意点

年次有給休暇の買上条件は自由に決定可能

年次有給休暇を買い上げる場合、その額や買い上げる日数の上限に制限はありません。

通常、年次有給休暇取得時の賃金は法律で決まっているわけですが、買上げ分についてはこれに従う必要はないわけです。日数についても、未取得分をすべて買い上げる必要はなく、上限を設けることも可能です。

就業規則への記載方法

年次有給休暇の買上を行う場合の規定例については、以下の記事を参考にしていたければと思います。

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この記事を書いた人

社会保険労務士川嶋事務所の代表。
「会社の成長にとって、社員の幸せが正義」をモットーに、就業規則で会社の土台を作り、人事制度で会社を元気にしていく、社労士兼コンサルタント。
就業規則作成のスペシャリストとして豊富な人事労務の経験を持つ一方、共著・改訂版含めて7冊の著書、新聞や専門誌などでの寄稿実績100件以上あり。

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