就業規則の「年次有給休暇の買上げ」条文の作成のポイント

2023年12月1日

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就業規則の「年次有給休暇の買上げ」条文の作成のポイント

 

急な年次有給休暇取得の申出に対し、年次有給休暇を取る代わりにお金は払うから会社に出て働いてほしいと思ったこと、経営者の方ならあるのではないでしょうか。

また、労働者の方から、年次有給休暇の取得する代わりに、その日数分を買い取って欲しいと言われたことがある経営者の方もいるかと思います。

しかし、年次有給休暇をお金で買い取る、いわゆる「年次有給休暇の買上げ」という行為は法律上禁止されています。

ただし、例外的に可能な場合や規定に定めておいた方がいいこともあるので、この記事では「年次有給休暇の買上げ」について詳しく見ていきます。

 

法令から見た「年次有給休暇の買上げ」のポイント

原則は年次有給休暇の買上げは禁止

年次有給休暇の買上げは法律上禁止されています。

なぜ禁止されているかといえば、年次有給休暇は「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資する」という趣旨によって設けられているものだからです。

つまり、年次有給休暇とはそもそもが休むための制度であり、「休む代わりにお金をあげる」という年次有給休暇の買上げとは、根本的に相容れないわけです。

 

例外的に年次有給休暇の買上げが可能となる場合

消滅時効で権利が消滅した年次有給休暇

年次有給休暇の買上げについては、例外的に可能な場合もあります。

例えば「消滅時効で権利が消滅した年次有給休暇」を買い上げることは問題ありません。

なぜなら、年次有給休暇の買上げが禁止されているのはあくまで、法律上の効力がある年次有給休暇のみだからです。

なので、2年の消滅時効にかかった年次有給休暇を、会社の裁量で「消滅しないことにする」ことは可能ですし、会社の裁量で買上げることも可能となります。

 

退職によって取得が不可能となった年次有給休暇

また、年次有給休暇は労働日にしか取得できないので、例えば、退職までの日数よりも年次有給休暇の残日数が多いと、すべての年次有給休暇を消化しきれません。

このように「退職によって取得が不可能となった年次有給休暇分」についても買上が可能です。

 

法定を上回る分の年次有給休暇

年次有給休暇は法律で、勤務期間ごとの付与日数が決まっています。

そのため、法律で定められた日数よりも少ない日数を付与することは法違反となります。

しかし、法律を上回る分の日数を与えることは問題はなく、また、会社が任意で与える法律を上回る分の年次有給休暇については法律による制限も受けません。

そのため、法定分を超える年次有給休暇については買上げを行うこともできます。

 

 

「年次有給休暇の買上げ」条文の必要性

年次有給休暇の買上げは法律で禁止されているので、わざわざ就業規則に規定を設ける意味はないように思えます。

実際、その通りで、厚生労働省のモデル就業規則をはじめ、規定を設けていない就業規則の規定例も少なくありません。

ただし、設けておいた方がいい場合や、必ず定めなければならない場合もあります。

年次有給休暇の買上げの条文を就業規則に記載すべき状況は以下の2つです。

 

買上げはしないと強調するため

一つは、年次有給休暇の買上げを会社が行わないことを強調する場合です。

年次有給休暇の買上げは法律上禁止されているため、「年次有給休暇を買い取って欲しい」と労働者側からいわれても、就業規則に条文がなくてもこれを拒否することができます。

ただ、就業規則に書いてあった方が話が通りやすい場合があるので、そのために記載する場合です。

 

例外的な買上げを行う場合

もう一つは、後述するように、例外的に年次有給休暇の買上げが可能な場合があるので、これを行う場合です。

この場合、就業規則の絶対的必要記載事項である「休暇」に該当するため、就業規則への記載は必須となります。

なお、例外的な年次有給休暇の買上げを行うかどうかは法律上の義務ではないので、行うかどうかは会社の自由です。

 

 

「年次有給休暇の買上げ」条文作成のポイント

そもそも買上げを行うのか否か

年次有給休暇の買上げは原則禁止であり、例外的に可能な場合であっても、それを行うのは会社の義務ではありません。

よって、買上げを行うか否かで、条文を作成する必要があるか否か、条文を作成する際のポイントが変わってきます。

 

買上げを行わない場合で条文を作成する場合

労働者から年次有給休暇を買上げをしてほしいと言われた場合、就業規則に「年次有給休暇の買上げは行わない」と書いていなくても、これを拒否することはできます。

しかし、中には法律で禁止されていると説明するよりも、就業規則にこう定めてあると説明した方が話が通りやすい労働者もいます。

なので、年次有給休暇の買上げ行わないのであればなくてもいい条文ではあるものの、ないことを就業規則に定めて強調すること自体には一定の意味があるわけです

ただし、ほとんどの労働者は法律で禁止されていることや、例外的な買上げを行うことは会社の義務ではないことを説明すれば理解は得られると思いますので、こうした条文を定めるかどうかは、その会社の労働者の性質を見極めて、ということになるでしょう。

 

買上げを行う場合の買上げ条件は会社が自由に決められる

例外的に可能となる買上げを行う場合、それをいくらで買い取るかや、何日分まで買い取るかについては会社が自由に決められます。

例えば、消滅時効にかかった年次有給休暇の買上げする際の額を給与額にかかわらず一律1000円にしたとしても問題ありません。

そのため、記事の最後に挙げた規定例では、買上げ時の日数や賃金に制限を設けていますが、もちろん制限を設けないことも可能です。

ただし、あまり買上げの条件を良くしすぎると、在籍中の年次有給休暇取得の妨げとなる可能性があります。

そのため、買い上げ可能な日数を制限するなど一定の制限はあった方が良いでしょう。

 

 

就業規則「年次有給休暇の買上げ」の規定例

年次有給休暇の買上げを行わないことを強調する場合

第○条(退職時等の年次有給休暇の取扱い)

  1. 年次有給休暇の権利は、労働関係の存続を前提としたものである。従って、退職や解雇、事業場の閉鎖の場合、その日(退職日、解雇効力発生日、閉鎖日)までに年次有給休暇の権利を行使しない限り、残余の年次有給休暇の権利は当然に消滅し、会社は残余分の買上げ等は行わない。
  2. 消滅時効に係る年次有給休暇の買上げは行わない。

 

年次有給休暇の買上げを行う場合

第○条(年次有給休暇の買上げ)

  1. 会社は、消滅時効によって消滅した年次有給休暇の買上げを行う。
  2. 会社は、退職日までに、取得できなかった年次有給休暇の買上げを行う。ただし、買上げの対象となる日数は5日までとする。
  3. 前各項の買上げを行う際に支払う額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の半額とする。

 

 

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社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

2023年12月1日