年次有給休暇については、建前はともかく、本音を言えば、労働者にあまり取得してほしくないと考える経営者の方はまだまだ多いのではないでしょうか。
とはいえ、年次有給休暇の取得は労働者の権利であり、この権利は法律上強く保護されており、取らせないわけにはいきません。
ただ、労働者が年次有給休暇を取得する際のルールについては、会社側の意図を入れられる部分も少なからずあるので、法令を遵守しつつ労働者が有休を取得しつつも業務を円滑に進められるようなルールを定めたいところです。
- 年次有給休暇の取得ルールを就業規則に定める必要性と、条文に盛り込むべき基本事項
- 年次有給休暇の取得届出期限(前々日・原則1週間前など)の考え方と実務上の注意点
- 年次有給休暇の消化順(前年分・当年分)を就業規則で定める際のポイント
- 事前申請が原則となる理由と、当日取得・事後振替を認める場合の考え方
- 実務で使いやすい「年次有給休暇の取得」条文例と、運用に応じた変更例
法律・労務管理から見た「年次有給休暇」
この記事は、年次有給休暇と就業規則の規定について書かれたものです。
法律や労務管理の運用から見た年次有給休暇について知りたい方は、以下の記事で詳しく解説を行っているのでこちらをどうぞ。

「年次有給休暇の取得」条文の必要性
「休暇」に関することは就業規則の絶対的必要記載事項に当たります。
年次有給休暇は「休暇」ですので、例え、会社内のルールが法律上の内容そのままであったとしても、就業規則にその定めをしなければなりません。
労働者の年次有給休暇の取得の権利は強く保護されているものの、会社にもルール設定できる余地がないわけではないので、いざ取得の届出があった場合に混乱等がないよう、きちんと規定を定めておく必要があります。
「年次有給休暇の取得」条文作成のポイント
取得の届出期限
年次有給休暇取得の届出の期限については、法律上特に定めはなく、その期間は会社によってまちまちです。
では、裁判例はどうかというと、実は過去の裁判例では、年次有給休暇について「前々日」までに請求することについて有効とするものがあります。
なので、2日前くらいの取得期限を設けるのであれば、問題ないと考えられますが、これよりも長くなると違法と判断される可能性が高まります。
とはいえ、実務上は、最低でも1週間前くらいには請求がないと、会社側が業務の都合を付けることが難しく、結果、会社も2項の時季変更権を行使せざるを得なくなります。
そのため、会社によっては「最初の休暇日の原則1週間前、遅くとも前々日までに」といったいように、原則と最終期限の2つの期限を定めた方がいい場合もあります。
年次有給休暇の消化順
前年度から? 今年分から?
年次有給休暇の時効は2年です。そのため、1年で全ての日数を使い切らない限りは、今年の分と前年の分を合わせた日数、労働者は年次有給休暇を持っていることになります。
そして、実は、労働者が年次有給休暇を取得する際、どちらから消化されるは、法律上は決まっていません。
つまり、前年分を10日、今年の付与分を20日、合計30日の年次有給休暇を持っている労働者がいて、その労働者が1日年次有給休暇を使う場合、前年分の10日から1日減らすることも、今年分の20日から1日減らすことも、就業規則の定め次第では可能なわけです。
無難かつ問題が少ないのは前年分からの消化
とはいえ、労働者側からみたら、前年に付与された分から消化されるとする方が直感的です。
そのため、今年の付与分から消化すると定めていても、そのことを労働者がきちんと理解していないと、後になって「知らないあいだに繰越し分の有給が消えていた」と労働者が思い込み、会社に不満を言ってくる可能性もあります。
とはいえ、今年の付与分から消化すること自体が悪いというわけではありません。年次有給休暇を早く消化しないと繰越し分が時効で消えてしまうということを適切に周知すれば、年次有給休暇の消化率を高める効果を望めるからです。
まとめると、基本的には前々回付与分からの消化としておくのが無難で、前回付与分からの消化を行うのであれば、労働者への周知は十分に行う必要があるということです。でないと、労働者側の不満要因となったり、最悪労使間での争いに発展する可能性が高まります。
年次有給休暇は事前申請が大前提。当日取得も事後取得扱い
年次有給休暇は事前の請求が大前提となります。
そのため、上記規定例4項のように、事後に振替を認めるかどうかは会社の裁量であり、振替を認めない場合、規定に定める必要はありません。
一方で、規定に事後の取得を認めないことを定めることで、事後の取得を認めないことを強調することも可能です。
なお、当日の請求は「事後の取得」扱いとなるので注意が必要です。
理屈としては、法律上の1日とは暦日(つまり、0時~24時)のことをいうことをまず押さえておく必要があります。
なので、例えば、始業時刻が9時で、その前の7時に年次有給休暇を請求したとしても、年次有給休暇を取得しようとしているその日はすでに開始してしまっているので「事前」にはならず「事後」扱いとなるわけです。
年5日の取得義務
「年5日の取得義務」については、注意点が多くあるため、以下の記事で制度の解説と、条文の規定例の解説を行っています。


就業規則「年次有給休暇の取得」の規定例
第○条(年次有給休暇の取得)
- 従業員は、事前に会社に届け出ることにより、年次有給休暇を取得することができる。
- 前項にかかわらず、会社は、事業の正常な運営を妨げるときは、これを他の時季に変更することがある。
- 年次有給休暇の取得は、前々回に付与されたものから優先的に消化されるものとする。
- 突発的な傷病その他やむを得ない理由による欠勤については、本人が願い出て、会社がそれを承認した場合に限り、事後、その欠勤を年次有給休暇に振り替えることができる。
- 年次有給休暇を取得した際は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う。
規定の変更例
取得の届出期限を定める場合
第○条(年次有給休暇の取得)
- 従業員は、最初の休暇日の前々日までに会社に届け出ることにより、年次有給休暇を取得することができる。
- 前項にかかわらず、会社は、事業の正常な運営を妨げるときは、これを他の時季に変更することがある。
- 年次有給休暇の取得は、前々回に付与されたものから優先的に消化されるものとする。
- 突発的な傷病その他やむを得ない理由による欠勤については、本人が願い出て、会社がそれを承認した場合に限り、事後、その欠勤を年次有給休暇に振り替えることができる。
- 年次有給休暇を取得した際は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う。
年次有給休暇取得時の賃金を平均賃金に基づいて支払っている場合
第○条(年次有給休暇の取得)
- 従業員は、事前に会社に届け出ることにより、年次有給休暇を取得することができる。
- 前項にかかわらず、会社は、事業の正常な運営を妨げるときは、これを他の時季に変更することがある。
- 年次有給休暇の取得は、前々回に付与されたものから優先的に消化されるものとする。
- 突発的な傷病その他やむを得ない理由による欠勤については、本人が願い出て、会社がそれを承認した場合に限り、事後、その欠勤を年次有給休暇に振り替えることができる。
- 年次有給休暇を取得した際は、1日分の平均賃金を支払う。
▶ 就業規則の作成・見直しサービスを見る(名古屋の社労士が対応)
社会保険労務士川嶋事務所では、名古屋市および周辺地域の中小企業を中心に、就業規則の作成・改定を行っています。川嶋事務所では、この記事で見た条文を含め、
・会社の実態に合った規程設計
・法改正を見据えたルール作り
・将来のトラブルを防ぐ条文設計
を重視し、あなたの会社に合った就業規則を作成します。
