就業規則の「年次有給休暇の取得」条文の作成のポイントと規定例

2023年11月16日

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就業規則の「年次有給休暇の取得」条文の作成のポイントと規定例

 

建前はともかく、本音を言えば、労働者にあまり年次有給休暇を取得してほしくないと考える経営者の方はまだまだ多いのではないでしょうか。

とはいえ、年次有給休暇の取得は労働者の権利であり、この権利は法律上強く保護されており、取らせないわけにはいきません。

ただ、労働者が年次有給休暇を取得する際のルールについては、会社側の意図を入れられる部分も少なからずあるので、法令を遵守しつつ労働者が有休を取得しつつも業務を円滑に進められるようなルールを定めたいところです。

 

「年次有給休暇の取得」条文の必要性

「休暇」に関することは就業規則の絶対的必要記載事項に当たります。

年次有給休暇は「休暇」ですので、例え、会社内のルールが法律上の内容そのままであったとしても、就業規則にその定めをしなければなりません。

労働者の年次有給休暇の取得の権利は強く保護されているものの、会社にもルール設定できる余地がないわけではないので、いざ取得の届出があった場合に混乱等がないよう、きちんと規定を定めておく必要があります。

 

法令から見た「年次有給休暇の取得」のポイント

時季指定権と時季変更権

年次有給休暇は労働者から取得の申し出請求があったら絶対に取らせないといけない、とよく言われますが、必ずしもそうではありません。

確かに、会社には労働者の年次有給休暇の取得請求を拒否する権利はありません。

しかし、労働者には年次有給休暇の取得時季を指定する「時季指定権」がある一方、会社には「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、年次有給休暇の時季指定を変更してもらう「時季変更権」があるからです。

こうした時季指定権と時季変更権を就業規則で明示しておくことは、労使間の争いを未然に防ぐことに繋がります。

 

時季変更権が行使可能な「事業の正常な運営を妨げる場合」とは

とはいえ、時季変更権を行使することは簡単ではありません。

上記の「事業の正常な運営を妨げる場合」というのは、単に仕事が忙しい、あるいはその人が抜けると仕事が成り立たないというだけでは足りないからです。

どうして足りないかといえば、単に仕事が忙しい、というだけだと「そのような状況にしている会社が悪い」と判断されてしまうからです。

また、特定の人が抜けると成り立たない、というのも、結局、その人頼みになってる状況を改善しなさい、と判断される可能性があります。

そのため、時季変更権の行使できるような「事業の正常な運営を妨げる場合」というのは、年休取得者が殺到し代替要員の確保が難しいなど場合に限られます。

 

相談ベースでの取得日の変更は自由

なお、実際に、上記の時季変更権によって取得の時季を変更する場合、書面でこれを命令したり、代わりに「○月○日」に取得してほしい、などと特定の日を指定することまでは求められていません。

そのため、実務上は「ちょっとこの日はやめてほしいんだけど・・・」といった相談ベースで、年次有給休暇の取得時季を決めることが多いかと思います。

こうした、命令ではなく相談や話合いベースで、お互いに同意の下、取得日を融通すること自体は法律上禁止はされていません。

もちろん、話合いが破談になった場合に、年休を取らせないなどの不利益な取扱いをすることはできません。

 

年次有給休暇取得時の賃金

労働基準法上認められている、年次有給休暇取得時の賃金の計算方法は、以下の3つです。

  1. 平均賃金
  2. 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
  3. 標準報酬日額(標準報酬月額の30分の1)

ですが、ほとんどの会社では「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」としているのではないでしょうか。

平均賃金をいちいち計算するのは正直面倒ですし、標準報酬日額で支払う場合、労使協定の締結が必要だからです。

よって、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」以外を選択している会社は少数かと思いますが、そのように支給している場合は規定も実態に沿う必要があります。

 

「年次有給休暇の取得」条文作成のポイント

年次有給休暇規定の分割

「年次有給休暇の付与」の記事で解説しているとおり、弊サイトの規定例では「付与」に関連する「年次有給休暇の付与」と「出勤率」、「取得」に関連する「年次有給休暇の取得」と「年次有給休暇の時季指定」の合計4つの規定に分割しました。

もちろん、これは一例ですので、この通りにする必要はありません。

実際、他の規定例は、上で分けた4つを全て一つの条文にまとめていたり、もっと細かく分割する規定例も見られます。

条文例の作成者としては、これぐらいがちょうどいい塩梅だと思って分割しましたが、これだとわかりづらい、イメージしづらい、ピンとこない等々の場合は、他の規定例を見てみるのも良いでしょう。

 

参考:年次有給休暇関連の条文作成のポイントと規定例

就業規則の「年次有給休暇の付与」条文の作成のポイントと規定例

就業規則の「出勤率(年次有給休暇)」条文の作成のポイントと規定例

就業規則の「年次有給休暇の取得」条文の作成のポイントと規定例

就業規則の「年次有給休暇の時季指定(年5日取得)」条文の作成のポイントと規定例

 

取得の届出期限

年次有給休暇取得の届出の期限については、法律上特に定めはなく、その期間は会社によってまちまちです。

では、裁判例はどうかというと、実は過去の裁判例では、年次有給休暇について「前々日」までに請求することについて有効とするものがあります。

なので、2日前くらいの取得期限を設けるのであれば、問題ないと考えられますが、これよりも長くなると違法と判断される可能性が高まります。

とはいえ、実務上は、最低でも1週間前くらいには請求がないと、会社側が業務の都合を付けることが難しく、結果、会社も2項の時季変更権を行使せざるを得なくなります。

そのため、会社によっては「最初の休暇日の原則1週間前、遅くとも前々日までに」といったいように、原則と最終期限の2つの期限を定めた方がいい場合もあります。

 

年次有給休暇の消化順

前年度から? 今年分から?

年次有給休暇の時効は2年です。そのため、1年で全ての日数を使い切らない限りは、今年の分と前年の分を合わせた日数、労働者は年次有給休暇を持っていることになります。

そして、実は、労働者が年次有給休暇を取得する際、どちらから消化されるは、法律上は決まっていません。

つまり、前年分を10日、今年の付与分を20日、合計30日の年次有給休暇を持っている労働者がいて、その労働者が1日年次有給休暇を使う場合、前年分の10日から1日減らすることも、今年分の20日から1日減らすことも、就業規則の定め次第では可能なわけです。

 

無難かつ問題が少ないのは前年分からの消化

とはいえ、労働者側からみたら、前年に付与された分から消化されるとする方が直感的です。

そのため、今年の付与分から消化すると定めていても、そのことを労働者がきちんと理解していないと、後になって「知らないあいだに繰越し分の有給が消えていた」と労働者が思い込み、会社に不満を言ってくる可能性もあります。

とはいえ、今年の付与分から消化すること自体が悪いというわけではありません。年次有給休暇を早く消化しないと繰越し分が時効で消えてしまうということを適切に周知すれば、年次有給休暇の消化率を高める効果を望めるからです。

まとめると、基本的には前々回付与分からの消化としておくのが無難で、前回付与分からの消化を行うのであれば、労働者への周知は十分に行う必要があるということです。でないと、労働者側の不満要因となったり、最悪労使間での争いに発展する可能性が高まります。

 

年次有給休暇は事前申請が大前提。当日取得も事後取得扱い

年次有給休暇は事前の請求が大前提となります。

そのため、上記規定例4項のように、事後に振替を認めるかどうかは会社の裁量であり、振替を認めない場合、規定に定める必要はありません。

一方で、規定に事後の取得を認めないことを定めることで、事後の取得を認めないことを強調することも可能です。

なお、当日の請求は「事後の取得」扱いとなるので注意が必要です。

理屈としては、法律上の1日とは暦日(つまり、0時~24時)のことをいうことをまず押さえておく必要があります。

なので、例えば、始業時刻が9時で、その前の7時に年次有給休暇を請求したとしても、年次有給休暇を取得しようとしているその日はすでに開始してしまっているので「事前」にはならず「事後」扱いとなるわけです。

 

年5日の取得義務

弊サイトの規定例では「年5日の取得義務」については、「年次有給休暇の時季指定」という条文でまとめているので、詳細については、そちらで解説を行います。

就業規則の「年次有給休暇の時季指定(年5日取得)」条文の作成のポイントと規定例

 

就業規則「年次有給休暇の取得」の規定例

第○条(年次有給休暇の取得)

  1. 従業員は、事前に会社に届け出ることにより、年次有給休暇を取得することができる。
  2. 前項にかかわらず、会社は、事業の正常な運営を妨げるときは、これを他の時季に変更することがある。
  3. 年次有給休暇の取得は、前々回に付与されたものから優先的に消化されるものとする。
  4. 突発的な傷病その他やむを得ない理由による欠勤については、本人が願い出て、会社がそれを承認した場合に限り、事後、その欠勤を年次有給休暇に振り替えることができる。
  5. 年次有給休暇を取得した際は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う。

 

規定の変更例

取得の届出期限を定める場合

第○条(年次有給休暇の取得)

  1. 従業員は、最初の休暇日の前々日までに会社に届け出ることにより、年次有給休暇を取得することができる。
  2. 前項にかかわらず、会社は、事業の正常な運営を妨げるときは、これを他の時季に変更することがある。
  3. 年次有給休暇の取得は、前々回に付与されたものから優先的に消化されるものとする。
  4. 突発的な傷病その他やむを得ない理由による欠勤については、本人が願い出て、会社がそれを承認した場合に限り、事後、その欠勤を年次有給休暇に振り替えることができる。
  5. 年次有給休暇を取得した際は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う。

 

年次有給休暇取得時の賃金を平均賃金に基づいて支払っている場合

第○条(年次有給休暇の取得)

  1. 従業員は、事前に会社に届け出ることにより、年次有給休暇を取得することができる。
  2. 前項にかかわらず、会社は、事業の正常な運営を妨げるときは、これを他の時季に変更することがある。
  3. 年次有給休暇の取得は、前々回に付与されたものから優先的に消化されるものとする。
  4. 突発的な傷病その他やむを得ない理由による欠勤については、本人が願い出て、会社がそれを承認した場合に限り、事後、その欠勤を年次有給休暇に振り替えることができる。
  5. 年次有給休暇を取得した際は、1日分の平均賃金を支払う。

 

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社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

2023年11月16日