就業規則の「勤務間インターバル制度」条文の作成のポイントと規定例

2023年12月7日

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就業規則の「勤務間インターバル制度」条文の作成のポイントと規定例

 

勤務間インターバル制とは、前日の終業時刻から次の始業時刻までの間に一定の休息時間を設ける制度です

海外では制度導入が義務づけられている国もある勤務間インターバル制度ですが、日本ではあくまで努力義務に留まります。

そのため、制度を導入するかどうかは会社の裁量次第ですが、一定の休息時間が保証されることは、長時間労働の抑止や労働者の健康増進に繋がるため、長時間労働が恒常化している会社ほど、導入の検討をすべき制度といえます。

 

1. 「勤務間インターバル制度」条文の必要性

勤務間インターバル制度の導入自体は会社の任意です。

一方で、勤務間インターバル制度は始業・終業時刻、休憩時間といった、就業規則の絶対的必要記載事項に影響のある制度です。

そのため、勤務間インターバル制度を導入する場合、就業規則への記載は必須となります。

 

2. 法令から見た「勤務間インターバル制度」のポイント

2.1. 勤務間インターバル制度は努力義務

2018年6月、働き方改革の一環として「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」にて、勤務間インターバル制度を実施することが事業主の努力義務として定められました。

(事業主等の責務)
第二条 事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。

あくまで努力義務なので、この法律により会社が勤務間インターバル制度を必ず導入しなければいけないということはありません。

一方で、政府は勤務間インターバル制度の普及のため、助成金を設けています。

働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)(厚生労働省HP)

 

2.2. 従来の労働時間関連の法律との関係

法律で義務づけられた制度ではないため、勤務間インターバル制度に関する細かな定めというのは法律上にはありません。

一方で、労働時間に関わることですので、従来の労働時間関連の定め、具体的には法定労働時間や法定休憩時間等に関連する部分については、法律に違反しないように制度設計をする必要があります。

 

3. 「勤務間インターバル制度」の制度設計と条文作成のポイント

勤務間インターバル制度の条文を作成するに当たっては、事前に制度をどのように設計するかが重要となります。

では、具体的にどのような点に気をつけて制度設計をすればいいのか、以下で見ていきます。

 

3.1. 勤務間のインターバル時間を何時間とするか

勤務間のインターバル時間を何時間とするかは会社の裁量となりますが、あまり短い時間だと、インターバルを設けている意味がなくなってしまいます。

目安としては、令和5年度「働き方改革推進支援助成金」勤務間インターバル導入コースの支給条件が、インターバルの時間が8~11時間(11時間以上だと、助成額がアップ)となっています。

また、勤務間インターバル制度が法制化されている欧州では最低インターバルの時間が11時間に設定されています。

参考:EU主要国のインターバル制度について(出典:厚生労働省 リンク先PDF)

 

3.2. 勤務間インターバル制度の対象者

勤務間インターバル制度を導入するに当たっては、会社の全従業員を対象とすることもできますし、対象となる労働者を限定することも可能です。

つまり、特定の業務や特定の部署のみ、勤務間インターバル制度を導入するということもできるわけです。

 

3.3. 勤務間インターバル制度による始業時刻の繰下げが行われた場合の終業時刻の扱い

勤務間インターバル制により始業時刻の繰下げが行われた場合、終業時刻をどうするのかを考えないといけません。

勤務間インターバル制度が適用されると、始業時刻の繰下げが行われるころになりますが、その際の終業時刻は始業時刻にかかわらず変更を行わないのか、始業時刻の繰下げと併せて終業時刻も繰下げるのかを決める必要があるわけです。

例えば、始業時刻9時00分、終業時刻18時00分の会社で、勤務間インターバル制度の発動により始業時刻が10時30分となった場合、終業時刻は以下のように変わってきます。

始業時刻にかかわらず変更を行わない場合の終業時刻 18時00分
始業時刻に併せて終業時刻を繰りさげる場合 19時30分

 

3.4. 勤務間インターバル制度による始業時刻の繰下げが行われた場合の休憩時間の扱い

こちらはどちらかというと運用の話になりますが、勤務間インターバル制により始業時刻の繰下げが行われた場合、休憩時間についても注意しなければなりません。

なぜなら、休憩時間は労働時間と労働時間のあいだに取らせなければいけないものだからです。

そのため、例えば、休憩時間が12時から13時に設定されている会社で、勤務間インターバル制度の発動により始業時刻が12時となってしまった場合、仮に12時から13時に労働をさせなかったとしてもそれは休憩を取らせたことにはなりません。

なお、上記の例であっても、例えば1日の実働時間が6時間未満であればそもそも休憩を取得させる義務が発生しないので、法的には問題ありません。しかし、始業時刻の繰下げと併せて終業時刻を繰り下げる扱いをしている場合、必要な休憩を取らせるのを忘れると法違反となってしまいます。

こうしたことを避けるため、記事の最後に挙げている規定例では「始業時刻の繰下げにより、所定の時間に休憩が取れない場合、休憩時間については会社が指示をする。」という一文を入れています。

 

3.5. 就業時間が短縮された場合の賃金の扱い

勤務間インターバル制度による始業時刻の繰下げが行われた場合で、終業時刻の繰下げを行わない場合、その日の就業時間は短縮されることになります。

この短縮された時間の賃金に関しては、ノーワーク・ノーペイなので、無給としても問題はないと考えられます。

一方で、時間が短縮されているとはいえ一日出勤しているのだから、賃金を控除することについては、労働者側の心情的な問題もありますし、給与計算を行う際も少し手間が増えます。

これらを踏まえ、記事の最後に挙げた規定例では「繰下げが行われた場合、所定の始業時刻から短縮された分の労働時間については、出勤したものとして取り扱う」としています。

 

3.6. 端数が出た場合の対応

勤務間インターバル制度が発動する場合というのは、基本的にはその前日に長時間の残業をしているという場合がほとんどでしょう。

残業が終わる時間というのは、そのときそのときによってバラバラで、切りのいい時間に終わるということはまずありません。

つまり、勤務間インターバル制により始業時刻を繰下げる場合というのは、23分や47分といったように端数の時刻から、その日の始業時刻が始まる可能性が高いわけです。

こうした端数があると、翌日の始業時刻等の管理が少し複雑となりますし、労働者側も何時が始業時刻かわかりづらいという問題が発生します。

こうしたこと避けたいと考える場合、前日の終業時刻の端数の時間を切り上げることが考えられます。

記事の最後の規定の変更例では1時間単位での切り上げ例を挙げていますが、規定を変更すればこれを10分単位や30分単位での切り上げとすることも可能です。

 

3.7. インターバルの結果、翌日の労働時間がほとんどないという場合

前日の業務が深夜あるいは早朝まで及んだ場合、始業時刻を繰下げるとその日の労働時間がほとんどない、ということも起こりえます。

そうした場合、始業時刻を繰下げるのではなく、その日は休業扱いとすることも選択肢となります。

なお、これは余談かつ細かい話となりますが、前日の労働が0時を回っていると、翌日の労働を免除したとしてもその日は「休日」になりません。これは、休日が0時から夜の12時までの暦日で考えるからです。

 

4. 就業規則「勤務間インターバル制度」の規定例

第○条(勤務間インターバル制)

  1. 会社は、従業員に対し1 日の勤務終了後、次の勤務の開始までに、少なくとも ○時間の継続した休息時間を与える。
  2. 前項の休息時間が翌日の始業時刻に係る場合、休息時間の満了時刻まで始業時刻を繰り下げる。
  3. 前項の繰下げが行われた場合、休憩時間および終業時刻については第△条のままとし、所定の始業時刻から短縮された分の労働時間については、出勤したものとして取り扱う。
  4. 始業時刻の繰下げにより、所定の時間に休憩が取れない場合、休憩時間については会社が指示をする。
  5. 前各項にかかわらず、災害その他避けることができない事由が生じた場合、休息時間中であっても業務を行わせることがある。

 

 

5. 規定の変更例

5.1. 始業時刻の繰下げに併せて、終業時刻も繰下げる場合

第○条(勤務間インターバル制)

  1. 会社は、従業員に対し1 日の勤務終了後、次の勤務の開始までに、少なくとも ○時間の継続した休息時間を与える。
  2. 前項の休息時間が翌日の始業時刻に係る場合、休息時間の満了時刻まで始業時刻を繰り下げる。
  3. 前項の繰下げが行われた場合、休憩時間および終業時刻についても同様に繰下げを行う。
  4. 前項にかかわらず、終業時刻が午後10時を超える場合は、終業時刻を午後10時とする。
  5. 前各項にかかわらず、災害その他避けることができない事由が生じた場合、休息時間中であっても業務を行わせることがある。

 

5.2. 始業時刻(休息時間の満了時刻)の端数を切り上げる場合

第○条(勤務間インターバル制)

  1. 会社は、従業員に対し1 日の勤務終了後、次の勤務の開始までに、少なくとも ○時間の継続した休息時間を与える。
  2. 前項の休息時間が翌日の始業時刻に係る場合、休息時間の満了時刻まで始業時刻を繰り下げる。なお、満了時刻に1 分以上の端数がある場合は、これを1 時間に切り上げた上で始業時刻を繰り下げる。
  3. 前項の繰下げが行われた場合、休憩時間および終業時刻については第△条のままとし、所定の始業時刻から短縮された分の労働時間については、出勤したものとして取り扱う。
  4. 始業時刻の繰下げにより、所定の時間に休憩が取れない場合、休憩時間については会社が指示をする。
  5. 前各項にかかわらず、災害その他避けることができない事由が生じた場合、休息時間中であっても業務を行わせることがある。

 

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7. その他の就業規則作成のポイントと規定例

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社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

2023年12月7日