就業規則の「年次有給休暇の時季指定(年5日取得)」条文の作成のポイントと規定例

2023年11月20日

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就業規則の「年次有給休暇の時季指定(年5日取得)」条文の作成のポイントと規定例

 

平成31年(2019年)より始まった年次有給休暇の年5日の取得義務ですが、対応に苦慮している会社も多いことでしょう。

この年5日の取得義務については違反すると罰則があるので、規定をきちんと定めた上で、運用に関しても不備がないよう気をつける必要があります。

特に、入社日にかかわらず年次有給休暇を同一の日に付与している場合(斉一的付与)、ダブルトラックという状態が発生し、思いがけず年5日の取得義務がきちんと果たされない状態が生まれることがあるので注意しなければなりません。

 

就業規則「年次有給休暇の時季指定」の規定例

第○条(年次有給休暇の時季指定)

  1. 会社は、年次有給休暇の付与日数が10日以上の従業員に対し、付与日から1年以内に5日を限度として、時期を指定して年次有給休暇を取得させることができる。
  2. 前項により取得させることができる年次有給休暇の単位は1日または半日とする。
  3. 会社は年次有給休暇の時季を指定するに当たって、当該従業員の意見を聞き、その意見を尊重するよう努めるものとする。
  4. 前項の意見聴取は、付与日から6か月を経過し、かつ年次有給休暇の取得日数が5日に満たない者に対して行うものとし、その方法は個別面談または書類の提出を持って行うものとする。
  5. 1項による時季を指定した後、やむを得ない事由が生じた場合、会社は指定した時季を変更することができる。
  6. 1項による時季を指定した後、従業員が自ら時季を指定して年次有給休暇を取得した場合、会社はその分の日数の時季指定を取り消すことができる。

 

条文の必要性

「休暇」に関することは就業規則の絶対的必要記載事項に当たります。

年次有給休暇は「休暇」ですので、例え、会社内のルールが法律上の内容そのままであったとしても、就業規則にその定めをしなければなりません。

そして、平成31年より始まった年次有給休暇の年5日の取得義務に関しては、違反すると会社に罰則もあるので、これにきちんと対応できるよう規則に定めておく必要があります。

 

年次有給休暇の年5日取得の法制度上のポイント

年5日の取得させる必要のある対象労働者

まず、大前提として、年次有給休暇の年5日の取得義務を負うのは会社です。

会社は対象となる労働者に対して、年次有給休暇を年5日、必ず取得させなければなりません。

年5日取得させる必要があるのは、一度の年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者です。

なので、今年度の有給の付与日数は10日未満だけど、前年度の繰り越し分と合わせて10日を超える、という場合は対象となりません。

 

年5日に含めるもの・含めないもの

繰り越し分の扱い

前年度からの繰り越された年次有給休暇がある場合、繰り越し分から取得したとしても「年5日」に数えることができます。

なので、例えば、今年度の付与分が18日、前年度からの繰越し分が7日ある労働者の場合、前年度の7日をすべて消化してさらに5日取得しないといけない、ということはないわけです。

 

半日年休の扱い

半日年休については、意見聴取の際に労働者が希望する場合、会社が半日取得を許可することできます。

逆に、使用者の方から「半日単位で取得しろ」と言うことはできません。

この場合、年5日のうちの「0.5日」と数えることができます。

 

時間単位年休

時間単位年休については、取得時間が1日の所定労働時間に達したとしても「年5日」の中には数えません。

1日の所定労働時間が8時間の会社で、1時間の時間単位年休を8回取ったとしても「1日」という扱いにはならないわけです。

 

取得の期間

年次有給休暇が付与された日(基準日)から1年以内に取得させる必要があります。

なお、早期付与や斉一的付与などにより、付与日が早まる場合や複数ある場合(ダブルトラック)が次の項目の通りです。

 

前倒し付与や分割付与、ダブルトラック等が発生する場合の年5日の取得義務の扱い

①付与日を前倒しする場合

有給の付与を6か月より前に前倒しする場合、前倒しで付与された日が基準日となります。

そして、そこから1年以内に5日以上の取得をする必要があります。

なので、例えば、4月1日入社の場合、前倒しをしない場合の最初の年次有給休暇の付与日は6か月後の10月1日で、以降は1年ごとに10月1日に年次有給休暇が付与されるため、この10月1日が基準日となります。

しかし、基準日を前倒しして入社日の4月1日に最初の付与を行う場合、この4月1日が基準日となるので、4月1日から1年のあいだに年次有給休暇を5日取得させる必要があります。

出典:年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について(案)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

② 付与日と付与日の1年未満となり期間の重複がある場合(ダブルトラックが発生する場合)

年次有給休暇の制度によっては、付与日と付与日のあいだが1年未満となる場合があります。

例えば、4月1日入社の労働者に対し1年目は法定通り10月1日に年次有給休暇を付与したものの、次年度からは規則変更により労働者全員を対象に、年次有給休暇を翌4月1日に一斉付与することになった場合です。

この場合、10月1日からの1年間と翌4月1日からの1年間の2つの年次有給休暇を5日取得期間が混在し、翌4月1日から9月30日までは期間が重なってしまいます。

これが期間の重複「ダブルトラック」が発生している状態です。

こうした場合、10月1日からの1年間と翌4月1日からの1年間のそれぞれで5日取得(つまり1年半の期間で10日取得)させてももちろん問題はありません。

一方で改正後の省令では「ダブルトラックの期間の月数を12で割った数に5をかけた日数」の取得でも足りるとしています。

つまり、上の例の場合、10月1日から翌々年の3月31日までの1年6か月を一つの期間と考え、そのあいだに「18÷12×5=7.5日」取得させれば足りるということです。

出典:年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について(案)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

 

なお、この場合の0.5日は、労働者が希望する場合は半日取得でも問題ありません。

一方で、労働者の希望がない場合は0.5日を1日に切り上げる必要があります。

 

③ 特例後の基準日

上で見た①や②の期間後の基準日については、①の場合は前倒しで与えた日(例では4月1日)から1年後を「みなし基準日」とするとしてます。

②についてもダブルトラックの後半の基準日(つまり、②の例では10月1日ではなく翌4月1日)から1年後を「みなし基準日」とします。

①の場合

出典:年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について(案)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

 

②の場合

出典:年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について(案)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

 

④ 年休を前倒しで分割付与する場合

入社間もない社員でも年次有給休暇が使えるよう、会社によっては、年次有給休暇の一部を前倒しで付与する場合があります。

例えば4月1日入社した労働者に対し、入社と同時に5日を付与、さらにその3か月後の7月1日に残りの5日を付与するといった方法です。

この場合、基準日は合計10日の付与が行われた日となります。

今回の例では7月1日が基準日となるので、法的義務を果たす上では、7月1日から1年間のあいだに5日以上の取得があれば問題ないことになります。

ただ、この場合、入社日に5日分を付与されているため、基準日の7月1日より前となる4月1日から6月30日のあいだに労働者がすでに何日か年次有給休暇を取得している可能性があります。

このように前倒しで分割付与する場合で基準日よりも前に年次有給休暇を何日か紹介している場合、その分も法定の5日分の一部を消化していると考えます。

例えば、今回の例でみると、7月1日より前にすでに3日年次有給休暇を取得しているという場合、7月1日からの1年間については、5日から3日を引いた2日を取得させれば、法的義務は果たすことになります。

出典:年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について(案)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

 

罰則

本制度の対象となる労働者に年5日の取得をさせていない場合、会社には罰則があります。

罰則の内容は「30万円以下の罰金」です。

これは年5日の取得義務が果たせていない人、一人当たりの額なので、場合によってはとても大きな罰則となる可能性を秘めています。

 

条文作成のポイント

年次有給休暇規定の分割

「年次有給休暇の付与」の記事で解説しているとおり、弊サイトの規定例では「付与」に関連する「年次有給休暇の付与」と「出勤率」、「取得」に関連する「年次有給休暇の取得」と「年次有給休暇の時季指定」の合計4つの規定に分割しました。

もちろん、これは一例ですので、この通りにする必要はありません。

実際、他の規定例は、上で分けた4つを全て一つの条文にまとめていたり、もっと細かく分割する規定例も見られます。

条文例の作成者としては、これぐらいがちょうどいい塩梅だと思って分割しましたが、これだとわかりづらい、イメージしづらい、ピンとこない等々の場合は、他の規定例を見てみるのも良いでしょう。

 

1年以内に5日を限度として

規定例では1項に「1年以内に5日を限度として」年次有給休暇を取得させるとしています。

この年次有給休暇の年5日の取得義務は、労働者が自分の意思で自主的に5日以上取得した場合も、会社の義務は果たされます。

一方で、なかなか取得しようとしてくれない労働者に対して、会社がこの時季(日)に取得をすることを指定することもあります。

「5日を限度として」としているのは、上記のどちらにも対応できるようにしているためです。

これが、例えば「付与日から1年以内に5日、時期を指定して年次有給休暇を取得させる」としてしまうと、すでに自主的に5日以上取得をしている労働者にも年次有給休暇を取得させなければならなくなってします。

 

会社の時季指定後~取得予定日のあいだに、労働者が時季指定した場合

なかなか年次有給休暇を取得しようとしない労働者に対し、この日に年次有給休暇を取得してほしい、会社が時季を指定した後に、業務の都合によって別日に変えたいとなることは起こり得ます。

また、会社の時季指定後に労働者が自主的に年次有給休暇を取得した結果、年5日の取得義務を果たすということも起こり得ます。

規定例の6項および7項は、これらのようなことが起こった場合の対処規定となるので、基本的には定めておいて損はありません。

 

計画的付与

前項をみてわかるとおり、会社による年次有給休暇の時季指定は、必ずしも会社が取得してほしい時季に取得させられるわけではありません。

一方、計画的付与という方法を取る場合、労使協定で定めた取得日が優先されるため、労働者の自主的な取得によってスケジュールを変更するといった必要はなくなります。

ただし、計画的付与ができる年次有給休暇の日数は、労働者に付与される年次有給休暇のうち5日を超える部分となります。

つまり、最低でも5日間は労働者の好きな時季に年次有給休暇を取得できるようにしておかなければならないわけです。

また、計画的付与を行うに当たっては労使協定の締結だけでなく、就業規則にそうした規定を定める必要があります。

 

規定の変更例

第○条(年次有給休暇の時季指定)

  1. 会社は、年次有給休暇の付与日数が10日以上の従業員に対し、付与日から1年以内に5日を限度として、時期を指定して年次有給休暇を取得させることができる。
  2. 前項にかかわらず、付与日から次の付与日までの期間が1年未満の場合、付与日から、次の付与日を基準に1年を経過する日までの期間(この期間を、履行期間という)に、履行期間の月数に応じた次の表の日数を限度として、会社は時期を指定して年次有給休暇を取得させることができる。なお、履行期間に端数が生じる場合はこれを1か月に切り上げるものとする。
    13か月 14か月 15か月 16か月 17か月 18か月 19か月 20か月 21か月 22か月 23か月
    5.5日 6日 6.5日 7日 7.5日 7.5日 8日 8.5日 9日 9.5日 10日
  3. 1項および2項により取得させることができる年次有給休暇の単位は1日または半日とする。
  4.   会社は年次有給休暇の時季を指定するに当たって、当該従業員の意見を聞き、その意見を尊重するよう努めるものとする。
  5.  前項の意見聴取は、付与日から6か月を経過し、かつ年次有給休暇の取得日数が5日(2項に該当する場合については、履行期間に応じた日数)に満たない者に対して行うものとし、その方法は個別面談または書類の提出を持って行うものとする。
  6.  1項および2項による時季を指定した後、やむを得ない事由が生じた場合、会社は指定した時季を変更することができる。
  7. 1項および2項による時季を指定した後、従業員が自ら時季を指定して年次有給休暇を取得した場合、会社はその分の日数の時季指定を取り消すことができる。

 

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社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

2023年11月20日