就業規則の「退職」条文の作成のポイントと規定例

2023年12月26日

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就業規則の「退職」条文の作成のポイントと規定例

 

労働者が会社を辞める際というのは、労使間でトラブルが起きやすいタイミングでもあります。

会社にいるときは「会社のためなら仕方ない」「給与をもらってるから仕方ない」と思っていたとしても、会社を辞めるとなると、そういった歯止めになっていたものがなくなるからです。

こうした退職時のトラブルを避けるためにも、就業規則において退職に関する規定をきちんと整えておきたいところです。

 

退職とは

退職の種類

退職とは、会社と労働者のあいだで締結されている契約を終了することです。

ただ、一口に退職と言っても、以下のように様々な種類があります。

 

合意退職

合意退職とは、会社と労働者がお互い合意の上で、退職することをいいます。

実務上は、労働者側から退職の意思表示をし、会社側がそれに同意するのが普通です。

 

 

辞職

辞職とは労働者側の一方的な意思表示により、労働者が退職することをいいます。

合意退職と違い、労働者側から退職の意思表示があったにもかかわらず、会社がこれに同意しなかった場合がこれに当たります。

なお、上で説明した合意退職と辞職は似ているように思えますが、実はかなり違います。

というのも、辞職の場合、就業規則に例え「退職の申出期限を退職日の1か月前」と定めていたとしても、解約申し入れの日から2週間で辞めることができてしまいます。

一方、合意退職の場合、同様の定めがあった場合、労働者もこれを守る必要があります。

つまり、退職の申出期限を2週間を超える期間に定めている場合、辞職よりも合意退職をしてくれる方が会社側からすると引継ぎ等の時間が取れる分、ありがたい退職なわけです

 

自然退職(当然退職)

自然退職(当然退職)とは、一定の事由が発生すると、会社もしくは労働者からの退職の意思表示がなくても、当然に労働契約が終了するものをいいます。

例えば、その労働者が死亡したときや役員に就任したときがこれに当たります。

一方で、休職期間が満了した場合や労働者が行方不明になったことを理由に自然退職とするには、就業規則にそうした定めが必要です。

 

契約期間満了

期間の定めのある労働契約を結ぶ労働者の契約期間が満了し、これを更新せず、退職する場合をいいます。

 

解雇

会社からの一方的な意思表示により、労働契約を打ち切り、労働者を退職させることをいいます。

なお、解雇には普通解雇、整理解雇、懲戒解雇など、様々な種類があります。

 

定年退職

一定の年齢に達したため、労働契約を終了することをいいます。

なお、日本では、高年齢者雇用安定法により、定年年齢を定める場合、60歳を下回る年齢を定めることはできません。

 

 

法令から見た「退職」のポイント

民法との関係

労働者の退職については、労使間で合意がある場合(合意退職)の場合については、特に法律上の定めはありません。

しかし、労使間で合意がない場合、つまり、解雇(会社からの一方的な意思表示)や辞職(労働者からの一方的な意思表示)については話が変わってきます。

というのも、民法には、以下のような定めがあるからです。

民法第627条第1項

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。

ここでいう、当事者とは会社と労働者、双方のことを指します。

これにより、労働者からの退職の意思表示は、仮に会社側がこれに同意しなかったとしても、解約申し入れの日から2週間を経過することで、労働契約は終了になります。

一方、会社については労働基準法(第19条・第20条)や労働契約法(第16条)による制約があるため、仮に解約の申し入れをしたとしても、その正当性が問われることになります。

 

退職時等の証明(労基法22条)

労働基準法では、退職時のトラブルの予防するため、あるいは労働者の再就職活動に必要な証明書の発行を会社に義務づけるため、労働基準法22条にて「退職時等の証明」という定めをしています。

 

退職時の証明

退職の場合において、労働者が在職中の契約内容等について証明書の交付を会社に請求したときは、遅滞なく、会社はこれを交付しなければなりません。

証明書に記入する主な内容は以下の通りですが、以下のものであっても、労働者の記入を望まない事項については、記入してはいけません。

  1. 使用期間
  2. 業務の種類
  3. 当該事業における地位
  4. 賃金
  5. 退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)

 

解雇予告期間中の証明

解雇予告をされた労働者は、解雇の理由について、会社に対しその証明書の交付を請求することができます。

会社は労働者から請求があった場合、これを拒むことはできません。

なお、あくまで解雇予告期間中の証明のため、即日解雇の場合、この規定は適用されません(労働者が退職時の証明を請求することは可能)。

 

ブラックリストの禁止・秘密の記号の記入の禁止

労働基準法では、会社が第三者と謀って、労働者の就業を妨げるような通信をすることを禁止しています。

要するに、会社同士でブラックリストを作ってこれを共有(通信)することを禁止しているわけですが、労働者の情報のすべてを共有することを禁止しているわけではありません。

労働基準法で「会社が第三者と謀って、労働者の就業を妨げるような通信」することが禁止されている項目は以下のものに限定されます。

  1. 国籍
  2. 信条
  3. 社会的身分
  4. 労働組合運動

また、同様の理由で、退職証明書等に会社が「秘密の記号」を記入することも禁止されています。

要するに、会社間でしかわからない秘密の記号を退職証明書等に記入することで、その労働者の就業を阻害することを禁止しているわけです。

こちらについては秘密の記号を記入すること自体が禁止されているため、その内容は問いません。

 

金品の返還(労基法23条)

労働基準法第23条にて、会社は、従業員が退職したとき、権利者(※)の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払う他、労働者の権利に属する金品を返還しなければならないとされています。

ここでいう労働者の権利に属する金品とは積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問いません。

また、権利者が請求する賃金や金品に関して、見解の不一致等の何かしらの争いがある場合については、お互いに異議のない部分を、7日以内に支払う、又は返還しなければならないとされています。

ただし、退職金については規定に支払日や支払方法を定めておけば、必ずしも「7日以内」ではなくても良いとされています。

なお、この金品の返還については、会社のみが守るべきものであるため、労働者の守るべきことを定める就業規則に必ずしも記載する必要はありません。

※ ここでいう権利者とは一般債務者は含まれず、死亡以外の退職の場合は労働者本人、死亡による退職の場合は相続人が権利者となる(昭22.9.13発基17号)

 

 

「退職」条文の必要性

退職については、就業規則の絶対的必要記載事項に当たります。

なお、ここでいう退職とは「任意退職、解雇、契約期間の満了による退職等労働者がその身分を失うすべての場合に関する事項」をいいます。

そのため、最後の規定例では「退職」「退職の手続き」「退職証明」の条文を上げていますが、このうち「退職」「退職の手続き」については確実に定めが必要と考えられますが、「退職証明」については微妙なところで、実際、記載がない規定例もみられます。

 

 

「退職」条文作成のポイント

退職の種類により、どこまで条文を細分化すべきか

合意退職や定年、解雇のように退職事由には様々なものがあります。

そのため、就業規則では退職の種類ごとに条文を分けるのが一般的ですが、どの程度の細かさで分けるかは規定例によって異なります。

この記事の最後の規定例では、解雇と定年退職は別規定とし、それ以外の「合意退職」「辞職」「自然退職」は「退職」にまとめるという、比較的オーソドックスな形を取っています。

 

合意退職と辞職と自然退職を分けるべきか

規定例によっては、合意退職と辞職と自然退職で、条文を分ける規定例もあります。

確かに、退職の性質が異なるので法的にみたら分けるべきかもしれませんが、実務上、これらが分かれていないことで大きな問題が出ることは考えづらいので、正直、好みの問題と言えます。

 

正社員の退職事由であるなら契約期間満了は不要

退職事由の一つである契約期間の満了ですが、基本的に正社員の就業規則には不要です。

多くの会社は正社員をフルタイムの無期雇用で雇用しているからです。

逆に、正社員であっても期間雇用という場合、契約期間の満了を退職事由として定めておく必要があります。

 

行方不明時の対応

就業規則に「従業員が行方不明となり、連絡が取れない期間が継続して○日に達したとき」を退職事由として定めることは割と一般的です。

こうした規定が果たして有効なのか、という点は専門家のあいだでも考えが分かれるところですが、行方不明になった労働者が戻ってくることはまずないので、あまり問題となることはありません。

なお、「連絡が取れない期間が継続して○日」という部分については、本人からの意思表示がないため辞職のように「14日(2週間)」とするのは短すぎると考えられます。

どの程度が妥当かは判断が難しいですが、最低限1か月以上は必要ということで、記事の最後の規定例ではここの日数を「30日」としています。

 

退職の申出期限

退職の申出期限は合意退職のときのみ有効です。

なので、労働者側が合意してくれる分には、どんな期間でも定めることができます。

ただ、この期間があまりに長すぎると「だったら辞職する」となりかねないので、常識の範囲内で定めるべきといえるでしょう。

一方で、退職の申出期限を辞職の効力が発生する「2週間」と同じにしてしまうと、そもそも合意退職を行う意味が薄れてしまいますが、それでも問題がないという場合はそれで構いません。

 

労働者に提出させるのは退職届か退職願か

退職の手続きにおいて、退職届を出させるのか、退職願を出させるのかは、細かい部分ですが大きな違いがあります。

退職届とは、退職の意思表示であり、一度出したら撤回はできません。

一方、退職願は、会社への労働者からのお願いですので、会社がそれに同意しないと効力がない分、同意する前であれば、労働者からの撤回は可能です。

どちらがいいかは考え方次第ですが、基本的には、後になって「退職を撤回したい」などの辞める辞めないの問題が発生しにくい(仮に労働者がそう言ってきたとしてもはねのけられる)退職届を出させる方が良いかと考えられます。

 

会社が貸したものを労働者に返させるための定めをしておく

労働基準法には、労働者から借りたものを会社に返させたり、弁済させる義務は定められていますが、その逆はありません。

そのため、就業規則には、会社が貸してるもの等を、退職時に労働者に返させる・弁済させる規定を定めておくべきといえます。

もちろん、こうした規定がなくても返させること自体は可能ですが、就業規則に定め周知する方が、効力は高いと考えられるからです。

 

定年と解雇は別規定で

退職事由のうち、定年と解雇については基本的に別規定に定めます。

なお、定年と解雇の詳細について別規定に定める場合も、退職事由としてこの2つを入れる規定例がありますが、これについては完全に好みなので、どちらでも構いません。

 

 

就業規則「退職」の規定例

第○条(退職)

従業員が次の各号のいずれかに該当するに至った場合は、その日を退職の日とし、翌日に従業員の身分を失う。
① 本人が死亡したとき
② 従業員が自己都合による退職を願い出て、会社がその承認をしたとき
③ 前号の承認なく、退職届の提出後14日を経過したとき
④ 休職期間が満了し、復職できないとき
⑤ 従業員が行方不明となり、連絡が取れない期間が継続して30日に達したとき
⑥ 当社の役員に就任したとき(ここでいう、役員とは会社法上の役員のみを指し、兼務役員等は除く)
⑦ その他、退職について労使双方で合意したとき

 

第△条(退職の手続き)

  1. 自己都合により退職する従業員は、30日前までに退職届を文書で提出し、承認あるまで従前の職務に服さなければならない。
  2. 前項の退職届を会社が受理したとき、会社は従業員の退職を承認したとものとみなす。承認後は原則、従業員は退職の意思を撤回することはできない。
  3. 自己都合により退職する従業員は、業務の引継ぎを完了させ、重要な事項を会社に報告しなければならない。
  4. 退職事由にかかわらず、退職する従業員は、退職日までに、健康保険証、その他会社からの貸付金品、会社に対する債務、または自らが管理していた会社および取引先等に関するデータ・情報書類等を直ちに返納、あるいは弁済しなければならない。

第□条(退職証明)

  1. 会社は、退職または解雇された者が、退職証明書の交付を願い出た場合は、すみやかにこれを交付する。
  2. 前項の証明事項は、使用期間、業務の種類、会社における地位、賃金および退職の理由とし、本人からの請求事項のみを証明する。
  3. 解雇の場合であって、当該従業員から解雇理由について請求があったときは、解雇予告から退職日までの期間であっても1項の証明書を交付する。

 

 

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社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

2023年12月26日