就業規則の「異動」条文の作成のポイントと規定例

2023年9月27日

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就業規則の「異動」条文の作成のポイントと規定例

 

解雇規制が厳しい日本では、その代わりに人事異動に関する会社の権限がかなり強く認められています。

しかし、その権限も就業規則にきちんと定めがないと効果は激減です。

そのため、この記事をご覧いただいている会社経営者や人事労務担当者のために、人事異動に関する就業規則の規定について解説していきます。

 

就業規則に「異動」条文が必要となる理由

異動とは

異動とは、職場での地位や勤務が変わることをいいます。

会社にはこの異動を命令する権限が強く認められているものの、その権限を有効とするには就業規則にその根拠を定める必要があります。

つまり、就業規則の「異動」条文とは、会社が労働者に対して住居の移動を伴う転勤や配置転換、職種変更等の業務命令を出す際の根拠となる条文なわけです。

 

異動条文がないと

そのため、こうした条文が就業規則にないと、労働契約による異動に関する包括的な同意や、異動の都度同意を得る必要があり、会社の業務の停滞を招く可能性が高まります。

加えて、日本の雇用慣行では解雇の規制が非常に厳しいこともあり、労働力の調整を労働者の増減ではなく、人事異動等で調整せざるを得ないことがあり、その点でも、異動に関する条文の必要性は非常に高くなっています。

以上のことから、本条文は絶対的・相対的必要記載事項ではないものの、多くの会社で記載は必須といえます。

また、会社の業務的に、異動を行わせる可能性が全く無い場合には本条文は不要ですが、あって邪魔になる(会社の守ることが増える)タイプの規定ではないので、一応入れておく、というのも有効です。

 

法令から見た「異動」のポイント

報復人事や嫌がらせ人事と言われないために

冒頭で述べたとおり、日本では解雇規制が厳しい一方、会社の人事権については広く認められる傾向にあります。

つまり、労働力が余った場合、労働者を解雇するのではなく、会社内でそれを有効活用せよというわけです。

とはいえ、どのような異動でも認められるわけではありません。

いわゆる「報復人事」や「嫌がらせ人事」と呼ばれるような異動は、もしも労使間での争いになった場合、会社が不利となります。

ここでいう「嫌がらせ人事」とは、主に以下の3つに分けられます。

  1. 業務上の必要性がない
  2. 動機や目的が不当
  3. 労働者の被る不利益が著しく大きい

例えば、自己都合退職を促す目的で業務を大きく変更したり、閑職に飛ばすといったことをすると、2の「動機や目的が不当」と判断される可能性があります。

また、住居の変更を伴う転勤を行ったにもかかわらず、会社が何の補助もしない場合、3の「労働者の被る不利益が著しく大きい」と判断される可能性があります。

なお、1の「業務上の必要性」については他と比べると、必要性があると認められやすい傾向にはあります。

 

異動の理由をきちんと説明できるか

異動については、胸に手をあてて、その理由を相手にきちんと説明できるか、というところに尽きます。

この意味は「追い出し部屋に行け」とか「家を買ったらしいから単身赴任しろよ」などと、本人を前にして言えるか、想像してみれば、まともな人ならわかるのではないでしょうか。

 

「異動」条文作成のポイント

まずは会社の実態に合ったものを

条文例では配置転換、転勤、職種変更、応援の4つを異動について定めていますが、こちらは会社の実態に合わせて変更して構いません。

例えば、(住居の異動を伴う)転勤がない会社でわざわざ転勤を含めておく必要はないということです。

なお、出向についてはその性質上、別で規定を設けるのが一般的です。

 

出張の扱い

規定例によってはここに出張(国内出張)を含める場合もあります。

ただ、出張に関してはあくまで一時的な勤務場所の変更にすぎず、期間が長期にわたるなど、労働者の受ける不利益が大きすぎる場合でなければ、規定がなくても業務命令で行えるとされています。

なので、上記の例では含めませんでしたが、確認的に入れておくのももちろんありです。法的に問題なくても、規定に定めがないと納得できない人、というのも少なからずいるからです。

また、長期の出張が見込まれる場合は、むしろ別で出張規定を作成した方が良いです。

 

異動と辞令

なお、こうした異動については辞令を出すのが普通かと思います。

ただ、中小企業だと経営者の鶴の一声で行う場合もあります。

上記の例では、後者を優先しましたが、きちんと辞令を出している会社もあるので、そうした会社については、異動を行う場合は辞令を出すという文言を入れておくといいでしょう。

 

就業規則「異動」の規定例

第○条(異動)

  1. 会社は、業務上必要がある場合、従業員に対して異動を命じることがある。
  2. 前項の異動とは、次に挙げるものの総称とする。
    ① 配置転換:同一事業場内での担当業務等の変更
    ② 転勤:勤務地の変更を伴う所属部門の変更
    ③ 職種変更:職種の変更
    ④ 応援:一時的に担当業務もしくは勤務地以外で業務を行わせること
  3. 従業員は、正当な理由なく1項の命令を拒むことはできない。
  4. 異動を命じられた者は、業務の引継ぎを完了した上で、会社が指定した日までに赴任しなければならない。

 

規程の変更例

異動の際に辞令を交付している場合

第○条(異動)

  1. 会社は、業務上必要がある場合、従業員に対して異動を命じることがある。
  2. 前項の異動とは、次に挙げるものの総称とする。
    ① 配置転換:同一事業場内での担当業務等の変更
    ② 転勤:勤務地の変更を伴う所属部門の変更
    ③ 職種変更:職種の変更
    ④ 応援:一時的に担当業務もしくは勤務地以外で業務を行わせること
  3. 従業員は、正当な理由なく1項の命令を拒むことはできない。
  4. 異動を命じられた者は、業務の引継ぎを完了した上で、会社が指定した日までに赴任しなければならない。
  5. 異動命令は、辞令を交付して行う。

 

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社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

2023年9月27日