解雇規制が厳しい日本では、その代わりに人事異動に関する会社の権限がかなり強く認められています。
しかし、その権限も就業規則にきちんと定めがないと効果は激減です。
そのため、この記事をご覧いただいている会社経営者や人事労務担当者のために、人事異動に関する就業規則の規定について解説していきます。
- 就業規則に「異動」条文を定める必要性と、その法的な位置づけ
- 異動条文がない場合に生じうる実務上・法務上のリスク
- 会社の実態に合わせた「異動」条文作成のポイント(転勤・配置転換・出張・辞令の扱い)
- 人事異動を有効な業務命令とするための、就業規則上の規定例とカスタマイズ方法
就業規則に「異動」条文が必要となる理由
異動とは
異動とは、職場での地位や勤務が変わることをいいます。
会社にはこの異動を命令する権限が強く認められているものの、その権限を有効とするには就業規則にその根拠を定める必要があります。
つまり、就業規則の「異動」条文とは、会社が労働者に対して住居の移動を伴う転勤や配置転換、職種変更等の業務命令を出す際の根拠となる条文なわけです。
異動条文がないと
そのため、こうした条文が就業規則にないと、労働契約による異動に関する包括的な同意や、異動の都度同意を得る必要があり、会社の業務の停滞を招く可能性が高まります。
加えて、日本の雇用慣行では解雇の規制が非常に厳しいこともあり、労働力の調整を労働者の増減ではなく、人事異動等で調整せざるを得ないことがあり、その点でも、異動に関する条文の必要性は非常に高くなっています。
以上のことから、本条文は絶対的・相対的必要記載事項ではないものの、多くの会社で記載は必須といえます。
また、会社の業務的に、異動を行わせる可能性が全く無い場合には本条文は不要ですが、あって邪魔になる(会社の守ることが増える)タイプの規定ではないので、一応入れておく、というのも有効です。
「異動」条文作成のポイント
まずは会社の実態に合ったものを
条文例では配置転換、転勤、職種変更、応援の4つを異動について定めていますが、こちらは会社の実態に合わせて変更して構いません。
例えば、(住居の異動を伴う)転勤がない会社でわざわざ転勤を含めておく必要はないということです。
なお、出向についてはその性質上、別で規定を設けるのが一般的です。
出張の扱い
規定例によってはここに出張(国内出張)を含める場合もあります。
ただ、出張に関してはあくまで一時的な勤務場所の変更にすぎず、期間が長期にわたるなど、労働者の受ける不利益が大きすぎる場合でなければ、規定がなくても業務命令で行えるとされています。
なので、上記の例では含めませんでしたが、確認的に入れておくのももちろんありです。法的に問題なくても、規定に定めがないと納得できない人、というのも少なからずいるからです。
また、長期の出張が見込まれる場合は、むしろ別で出張規定を作成した方が良いです。
異動と辞令
なお、こうした異動については辞令を出すのが普通かと思います。
ただ、中小企業だと経営者の鶴の一声で行う場合もあります。
上記の例では、後者を優先しましたが、きちんと辞令を出している会社もあるので、そうした会社については、異動を行う場合は辞令を出すという文言を入れておくといいでしょう。
就業規則「異動」の規定例
第○条(異動)
- 会社は、業務上必要がある場合、従業員に対して異動を命じることがある。
- 前項の異動とは、次に挙げるものの総称とする。
① 配置転換:同一事業場内での担当業務等の変更
② 転勤:勤務地の変更を伴う所属部門の変更
③ 職種変更:職種の変更
④ 応援:一時的に担当業務もしくは勤務地以外で業務を行わせること - 従業員は、正当な理由なく1項の命令を拒むことはできない。
- 異動を命じられた者は、業務の引継ぎを完了した上で、会社が指定した日までに赴任しなければならない。
規程の変更例
異動の際に辞令を交付している場合
第○条(異動)
- 会社は、業務上必要がある場合、従業員に対して異動を命じることがある。
- 前項の異動とは、次に挙げるものの総称とする。
① 配置転換:同一事業場内での担当業務等の変更
② 転勤:勤務地の変更を伴う所属部門の変更
③ 職種変更:職種の変更
④ 応援:一時的に担当業務もしくは勤務地以外で業務を行わせること - 従業員は、正当な理由なく1項の命令を拒むことはできない。
- 異動を命じられた者は、業務の引継ぎを完了した上で、会社が指定した日までに赴任しなければならない。
- 異動命令は、辞令を交付して行う。
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