この記事では、就業規則の条文の「労働時間(始業・終業時刻)」について、
・法違反にならないための最低ライン
・会社の実態に合わせてカスタマイズする方法
・紛争を未然に防ぐための条文の書き方
などを、社労士としての実務経験をもとに解説します。
就業規則における労働時間の重要性
まず大前提として、労働時間は、労務管理において最も重要な項目です。
誤った解釈や運用を行えば、単に労働時間に関連する法律に違反し罰則の対象となるだけでなく、未払い賃金の発生など、賃金にも大きな影響が出るからです。
そのため、就業規則にきちんと始業・終業時刻などの労働時間について定めることはとても重要といえます。
一方、始業・終業時刻や休憩時間といった労働時間をどう定めるかについては、会社ごとの業務内容にも寄るため、他の会社を参考にすることが難しい場合があります。
この記事では、きちんと法律に則り、会社の実態の沿った規定を作成するためのポイントについて解説をしていきます。
なお、労働時間に関する法律上の基本的な解説や、この時間は労働時間に当たるかどうか、といったことについては、以下の記事で解説を行っているので、気になる方はこちらをどうぞ。
労働時間とは?法定労働時間・休憩時間・所定労働時間の基本を社労士が解説
通勤時間や休憩時間、有給や社内旅行まで、これって労働時間?総チェック!
「労働時間(始業・終業時刻)」条文の必要性
「始業および終業時刻」はいずれも、法律上の就業規則の絶対的必要記載事項となります。
また「就業時転換」についても同様に絶対的必要記載事項となっているので、交替勤務の会社の場合、就業規則への定めが必須となります。
「労働時間(始業・終業時刻)」条文作成のポイント
労働時間の定義を定めておく
労働時間については経営者、労働者を問わず勘違いしている人が少なくありません。
労働契約書や就業規則に定められた始業時刻から終業時刻のことを労働時間と考えている人、会社の許可や命令のない時間外労働も労働時間に含まれると考える人などなど。
しかし、労働時間はあくまで実際に働いた時間(実労働時間)でかつ、会社の指揮命令のある時間しか、これに該当しません。
こういった、労働時間に関する勘違いや考えの行き違いをなくすにも、就業規則で定義を定めることは重要です。
1日および1週の所定労働時間
就業規則に定める、所定労働時間は法定労働時間(1日8時間、1週40時間)の範囲内であれば、どう定めるかは会社の裁量です。
トラブル予防のポイント
厚生労働省が出しているモデル就業規則の「労働時間および休憩時間」の条文にて、所定労働時間について「1週間については40時間、1日については8時間」と定められていますが、この書き方はあまり感心できません。
というのも、1週間の所定労働時間を「40時間」と幅のない書き方をしてしまうと、例えば、祝日などで1週間の間にお休みがあった場合、1週40時間に満たない週が発生してしまうからです。
つまり、労働者の方から「祝日分で休んだ分、所定労働時間が週40時間になるまで働かせろ」といわれる余地が生まれるわけです。
実際に、そういったことを言ってくる人がどれだけいるのか、という問題はありますが、そもそもこうした記載がなければ(もしくは週40時間以内、と40時間より短い場合もありうることを定めておけば)避けられることなので、細かいところですが注意して定めた方がよいでしょう。
始業・終業時刻、休憩時間を何時にするか
始業時刻を何時からにし、終業時刻を何時までにするかは、会社の裁量であり、法律に定められた法定労働時間と休憩時間を守っていれば、法律上は特に問題ありません。
例えば、休憩を1時間ごとに5分ずつ取らせるということもできますし、仮に深夜の時間帯(午後10時から午後5時)にかかっていたとしても深夜割増賃金を支払っていれば問題はないわけです。
1週間の起算日を変更することも可能
法定労働時間は1週40時間、1日8時間と決まっています。
では、この1週40時間の1週間はどの曜日から数えるかというと、就業規則に何も定めがない場合は日曜日が起算となります。
一方で、就業規則に「起算日は月曜日」とある場合のように、特定の曜日を指定している場合はその曜日から1週間を数えます。
つまり、業務上の必要性により、日曜日以外の曜日から1週間を数えたい場合、就業規則にその旨を定めておく必要があるわけです。
始業・終業時刻の繰上げ・繰り下げ
一方で、時には天災や業務の都合により、あらかじめ定めた始業・終業時刻に業務を行うことが困難な場合もあります。
このような場合の対応は、会社やそのときの状況によって様々ですが、始業・終業時刻および休憩時間を繰上げまたは繰り下げが必要となることもあるでしょう。
こうした始業・終業時刻の繰上げ・繰下げを行う場合、そうしたことを行うための根拠となる規定(上記規定例3項)が就業規則に必要となるので注意が必要です。
裁量労働制や変形労働制を採用する場合
労働時間に関しては原則的なルール以外に、例外的なルールも多数あります。変形労働時間制や裁量労働制がそれです。
こうした例外的なルールを定める場合、就業規則にその定めが必要となるのはもちろんのこと、それとは別に労使協定の締結が必要となる場合があります。
就業規則「労働時間(始業・終業時刻)」の規定例
第〇条(労働時間の定義)
- 労働時間とは、会社の指揮命令に基づいて業務を行う時間をいう。
- タイムカード、出勤簿等に上記の時間を超える時間の記載があっても、会社の指揮命令に基づかないものは労働時間として認めない。
- 始業時刻とは、会社の指揮命令に基づき所定の場所で実際に作業を開始する時刻をいい、終業時刻とは、会社の指揮命令に基づき実際に作業を終了した時刻をいう。
第△条(労働時間および休憩時間)
- 1日の所定労働時間は、休憩時間を除き、実働8時間とする。
- 始業・終業時刻および休憩時間は、次の通りとする。
始業時刻 午前 9時 00分 終業時刻 午後 6時 00分 休憩時間 正午 から午後 1時 00分まで - 業務の都合その他やむを得ない事情により、前項の始業・終業時刻および休憩時間を繰り上げまたは繰り下げることがある。
規定の変更例
1週の起算日を日曜日以外にしたい場合
第〇条(労働時間の定義)
- 労働時間とは、会社の指揮命令に基づいて業務を行う時間をいう。
- タイムカード、出勤簿等に上記の時間を超える時間の記載があっても、会社の指揮命令に基づかないものは労働時間として認めない。
- 始業時刻とは、会社の指揮命令に基づき所定の場所で実際に作業を開始する時刻をいい、終業時刻とは、会社の指揮命令に基づき実際に作業を終了した時刻をいう。
- この規則における1週間とは、毎週土曜日を起算日とする7日間のことをいう。
所定労働時間が法定労働時間よりも短い場合
第○条(労働時間および休憩時間)
- 1日の所定労働時間は、休憩時間を除き、実働7時間45分とする。
- 始業・終業時刻および休憩時間は、次の通りとする。
始業時刻 午前 9時 00分 終業時刻 午後 6時 00分 休憩時間 正午 から午後 1時 00分まで 午後 3時 00分 から 午後3時 15分まで - 業務の都合その他やむを得ない事情により、前項の始業・終業時刻および休憩時間を繰り上げまたは繰り下げることがある。
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