就業規則の「労働時間(始業・終業時刻)」条文の作成のポイントと規定例

2023年10月31日

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就業規則の「労働時間(始業・終業時刻)」条文の作成のポイントと規定例

 

労働時間は、労務管理において最も重要な項目です。

誤った解釈や運用を行えば、単に労働時間に関連する法律に違反し罰則の対象となるだけでなく、未払い賃金の発生など、賃金にも大きな影響が出るからです。

そのため、経営者や人事労務の担当者の方々で、労働時間の扱いに迷ったり、間違っていないか不安に思っている方も少なくないでしょう。

加えて、どのように始業・終業時刻や休憩時間といった労働時間を定めるかについては、会社ごとの特徴が出やすい部分でもあり、他の会社を参考にすることが難しい場合があります。

この記事では、きちんと法律に則り、会社の実態の沿った規定を作成するためのポイントについて解説をしていきます。

 

法令から見た「労働時間(始業・終業時刻)」のポイント

なぜ労働時間が重要なのか

労務管理において「その時間が労働時間に当たるかどうか」は非常に重要です。

なぜなら、時間外手当や最低賃金をみればわかるとおり、日本の労働法では基本的に給与は時間と紐付いているからです。

また、近年では労働者の健康管理という面も非常にクローズアップされており、労働時間はそうした労働者の健康管理の指標としても扱われています。

 

労働時間の考え方

労働時間の定義

では、労働時間とは具体的にはどういった時間のことを指すのでしょうか。

厚生労働省が公表している「労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、労働時間を以下のように定義しています。

労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たること

つまり、労働時間というのはあくまで会社からの指揮命令がある時間のことをいい、使用者の指示なく労働者が勝手に働いた時間については労働時間とはいわないわけです。

ただし、直接的な指示はなくても、上記の定義にもあるとおり「黙示」、つまり、暗黙の指示があって働いている時間は労働時間となります。

 

法定労働時間と法定休憩時間

労働時間および休憩時間に関しては、法律上にそのルールが厳密に定められています。そのため、法律への理解なくこれらの規定を定めてしまうと、法違反となる可能性が非常に高まります。

 

法定労働時間

1週40時間、1日8時間(※)

※ 商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業で規模が常時10 人未満の事業場の週の法定労働時間は44 時間

 

法定休憩時間

労働時間        必要な休憩時間
6時間を超え、8時間以内 45分以上
8時間を超える場合 1時間分以上

休憩時間に関する詳細は、以下の記事をご覧ください。

 

法定労働時間を超えて働かせる場合

法定労働時間を超えて働かせること、法定休憩時間を取らせずに働かせることは法違反となり罰則の対象となります。

ただし、36協定の締結し、就業規則のにその定めをすることで、法定労働時間を超えて働かせることは可能です。

詳細は以下の記事を。

 

1週の起算日

上記の通り、法定労働時間は1週40時間、1日8時間と決まっています。

では、この1週40時間の1週間は何曜日から数えるかというと、就業規則に何も定めがない場合は日曜日が起算となります。

一方で、就業規則に「起算日は月曜日」とある場合のように、特定の曜日を指定している場合はその曜日から1週間を数えます。

つまり、業務上の必要性により、日曜日以外の曜日から1週間を数えたい場合、就業規則にその旨を定めておく必要があるわけです。

 

法定労働時間と所定労働時間の関係

所定労働時間とは

所定労働時間とは、契約上、労働者が働くことになっている時間です。

例えば、「1日の労働時間は7時間」という契約の場合、所定労働時間は7時間となります。

この所定労働時間の長さは法定労働時間内に収める必要があります。つまり、法定労働時間より長くすることは出来ませんが、短くすることは可能なわけです。

 

法定内所定外労働時間(法定内残業)

所定労働時間を法定労働時間よりも短くする場合、所定労働時間は超えているものの法定労働時間は超えていないという、法定内所定外労働時間(法定内残業)が発生することがあります。

注意が必要なのは、会社によってはこうした法定内残業が発生しているにもかかわらず、その時間の賃金の扱いがきちんと決まっていない場合があることです。

このように、法定内所定外労働時間の扱いが曖昧となっていると、場合によっては未払い賃金が発生していることもあるので、所定労働時間を法定労働時間を短くする場合は、法定内残業の賃金の扱いについてもきちんと決めておく必要があります。

(ここでいう未払い賃金とは法定外時間外労働をした場合に法律上必ず支給しなければならない「0.25」の部分ではなく、通常の労働をした分の「1」の部分です。法定内残業は法定労働時間を超えているわけではないので、2割5分以上の割増率の割増賃金を支払う義務はありませんが、労働はしているのでその労働時間分の賃金は支払う必要があります)

 

労働時間に当たるかどうか

労働時間に関する法律上のルールについては以上の通りですが、一方で、労働時間の定義である「労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間」に該当するかどうか、判断に迷うものも実務上は少なくありません。

以下では、労働時間かどうか判断に迷いやすい代表的なものについて解説しています。

 

参加が義務づけられている研修や教育訓練

通常の業務時間の他、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間に該当します。

逆に、参加が任意のものや、労働者が自主的に行うものについては労働時間には該当しませんが、それらも暗黙の了解として参加が強制されている場合は労働時間となります。

 

掃除や着替えの時間

近年では、朝の掃除の時間や制服への着替えの時間が労働時間に当たるかどうかが問題となることが増えています。

上述した労働時間の定義に照らし合わせると、着替えや掃除の時間を「労働時間ではない」とするには、それらは労働者の自由意志でなければならないわけですが、掃除や着替えというのは、基本的には業務において必須であることがほとんどです。

そのため、掃除や着替えの時間というのは、基本的には労働時間と考えるべきものといえます。

 

手待ち時間

今、その時間に業務を行っているわけではないものの、会社から指示があれば就労しなければいけない待機時間、いわゆる「手待ち時間」については、労働者が自分の意思で労働から離れる権限はありません。

よって、手待ち時間については労働時間に該当します。

 

移動時間

移動時間については原則、労働時間に該当しません。

例えば、出張場所への移動日が休日であっても、厚生労働省の通達では休日手当の支払は不要とされています(昭和33年2月13日基発90号)。

ただし、例えば、現場に行く前や行った後に会社に立ち寄ることが義務付けられている(=直行直帰が禁止されている)場合や、移動中に業務を行っていたり、移動自体が業務である場合はこの限りではありません。

先ほどの出張の例でいえば、移動中に物品の監視といった業務命令がある場合は、移動時間であっても労働時間になるということです。

 

宿日直勤務

宿日直勤務については、通常の就労と比較して、労働の密度や態様が著しく異なり、ほとんど労働する必要のない勤務となります。

そのため、宿日直勤務については、所轄労働基準監督署長の許可がある場合、労働基準法により「労働時間、休憩及び休日に関する規定は、適用しない。」という扱いになります。

 

 

「労働時間(始業・終業時刻)」条文の必要性

「始業および終業時刻」はいずれも、法律上の就業規則の絶対的必要記載事項となります。

また「就業時転換」についても同様に絶対的必要記載事項となっているので、交替勤務の会社の場合、就業規則への定めが必須となります。

 

 

「労働時間(始業・終業時刻)」条文作成のポイント

労務管理において最も重要

繰り返しになりますが、労働時間とは会社の指揮命令に基づいて業務を行う時間をいいます。

しかし、中には規則に定められた始業時刻から終業時刻のことを労働時間と考えているものや、会社の許可や命令のない時間外労働も労働時間に含まれると考えている労働者もいます。

そのため、就業規則には、労働時間として始業・終業時刻や休憩時間を定めるだけでなく、記事の最後に挙げている規定例のように、労働時間の定義も併せて定め、就業規則の周知の際に、きちんと労働者に周知を行うべきでしょう。

 

始業・終業時刻と繰り上げ・繰り下げ

始業時刻を何時からにし、終業時刻を何時までにするかは、会社の裁量であり、上で説明した法定労働時間と休憩時間を守っていれば、法律上は特に問題ありません。

休憩を1時間ごとに5分ずつ取らせるということもできますし、仮に深夜の時間帯(午後10時から午後5時)にかかっていたとしても深夜割増賃金を支払っていれば問題はないわけです。

一方で、時には天災や業務の都合により、あらかじめ定めた始業・終業時刻に業務を行うことが困難な場合もあります。

このような場合の対応は、会社やそのときの状況によって様々ですが、仮に始業・終業時刻および休憩時間を繰り上げまたは繰り下げることで対応するのであれば、そうしたことを行うための根拠となる規定(上記規定例3項)が就業規則に必要となるので注意が必要です。

 

法定労働時間の例外

労働時間に関しては原則的なルール以外に、例外的なルールも多数あります。変形労働時間制や裁量労働制がそれです。

変形労働時間制は、1か月や1年といった一定期間の中で平均して労働時間が法定労働時間を超えていなければ問題ないという制度なので、原則的な労働時間と比較して、業務の繁閑に応じた労働時間の調整がしやすくなります。

一方の裁量労働制は、労働者の業務上の裁量を認めて、1日の労働時間が何時間であっても事前に決めた時間働いたとみなす制度となります。

こうした例外的なルールは、原則的なルール以上に複雑で完璧に使いこなすのは難しい部分があるものの、使いこなせれば無駄な労働時間を削減し、不要な時間外労働の発生を防ぐことができます。

そのため、採用するかどうかについては会社の働き方の実態を把握し、制度への理解を進める必要があります。

なお、たまに変形労働時間制や裁量労働制を残業代を踏み倒す手段のように使おうとする経営者がいますが、そういった用途に使えるものではなく、また、無理にそういった運用をしたとしても法律に則らない運用は法違反となります。

 

 

就業規則「労働時間(始業・終業時刻)」の規定例

第〇条(労働時間の定義)

  1. 労働時間とは、会社の指揮命令に基づいて業務を行う時間をいう。
  2. タイムカード、出勤簿等に上記の時間を超える時間の記載があっても、会社の指揮命令に基づかないものは労働時間として認めない。
  3. 始業時刻とは、会社の指揮命令に基づき所定の場所で実際に作業を開始する時刻をいい、終業時刻とは、会社の指揮命令に基づき実際に作業を終了した時刻をいう。

第△条(労働時間および休憩時間)

  1. 1日の所定労働時間は、休憩時間を除き、実働8時間とする。
  2. 始業・終業時刻および休憩時間は、次の通りとする。
    始業時刻 午前 9時 00分
    終業時刻  午後 6時 00分
    休憩時間 正午 から午後 1時 00分まで
  3. 業務の都合その他やむを得ない事情により、前項の始業・終業時刻および休憩時間を繰り上げまたは繰り下げることがある。

 

 

規定の変更例

1週の起算日を日曜日以外にしたい場合

第〇条(労働時間の定義)

  1. 労働時間とは、会社の指揮命令に基づいて業務を行う時間をいう。
  2. タイムカード、出勤簿等に上記の時間を超える時間の記載があっても、会社の指揮命令に基づかないものは労働時間として認めない。
  3. 始業時刻とは、会社の指揮命令に基づき所定の場所で実際に作業を開始する時刻をいい、終業時刻とは、会社の指揮命令に基づき実際に作業を終了した時刻をいう。
  4. この規則における1週間とは、毎週土曜日を起算とする7日間のことをいう。

 

所定労働時間が法定労働時間よりも短い場合

第○条(労働時間および休憩時間)

  1. 1日の所定労働時間は、休憩時間を除き、実働7時間45分とする。
  2. 始業・終業時刻および休憩時間は、次の通りとする。
    始業時刻 午前 9時 00分
    終業時刻  午後 6時 00分
    休憩時間 正午 から午後 1時 00分まで 午後 3時 00分 から 午後3時 15分まで
  3. 業務の都合その他やむを得ない事情により、前項の始業・終業時刻および休憩時間を繰り上げまたは繰り下げることがある。

 

 

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社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

2023年10月31日