年金・健康保険制度

海外療養費に頼りすぎてはいけない、長期滞在には民間保険等の対策をという話

2015年11月20日

一般的な認知度はあまり高くありませんが、健康保険には海外療養費制度というものがあります。知らなかったという人は、損はないと思うので取り敢えずそういうものがあるということだけ覚えて帰ってくださいね。

海外旅行中や海外赴任中に、急な怪我や病気でやむを得ず現地の病院にかかってしまった際に、かかった医療費の一部を現金給付で受けられる、というのが海外療養費制度です。

手厚い手厚いと言われる日本の健康保険制度ですが、こういったところも抜け目ないわけです。

ただし、この海外療養費制度には気をつける点があります。

まず、日本の健康保険制度を使用するため、日本の病院で保険対象外の医療については、海外で受けたとしても海外療養費の対象となりません。これはまあ、いいでしょう。

もう一つ注意しておかないといけないのが、この海外療養費制度で支払われる給付の額というのは現地で支払った医療費を基準とするのでではなく、その医療を「日本で受けた場合」に通常かかる医療費が基準となるということです。

なので、現地の病院治療を受けて医療費に数百万円かかりました、でも、日本で受けていたら数万円で受けられるようなものだった場合、後者の数万円が海外療養費の額の基準となってしまうわけです。

こういうボッタクリみたいな話をすると、みなさんの頭のなかにはある国の名前が浮かんでくるかもしれませんが、必ずしもボッタクリによってこういうことが起こるわけではありません。

むしろ、日本と海外との医療制度の違いがこうした問題を生みます。例えば、アメリカは2014年まで国民皆保険制度でない国であり、現在でも医療費は非常に高い国です。

なので、もしものときに海外療養費制度は非常に安心できる制度ではありますが万能ではありません。留学のように海外での滞在が長期になる場合や、会社が労働者を海外赴任させる場合は、海外療養費制度に頼るのではなく、きちんと民間の保険制度などに加入しておくことが望ましいでしょう。また、治療が長期に及ぶ場合で、仮に日本に帰国できる病状であれば、帰国するのも選択肢の1つです。

 

最後に、海外療養費の話からは少し外れますが海外での出産の話をすると、出産は日本の健康保険の保険の対象外です。なので、日本の健康保険の被保険者が海外で出産したとしても、基本的に海外療養費は出ませんが、出産育児一時金は出ます。しかし、海外の病院は産科医療補償制度の対象医療機関ではないので、出産育児一時金も42万円から40万4千円に減ってしまうので注意が必要です。(日本の医療機関の加入状況は約99.9%)

 

というわけで、海外療養費のまとめ。

  1. 海外療養費という制度があることを知っておきましょう。旅行先で事故や急病にあったときもこれを知っているのと知ってないのとでは、現地の病院にかかることへのハードルが変わってくるはずです
  2. とはいえ、海外療養費で戻ってくる金額は、現地で支払った医療費ではなく、その医療を日本で受けた場合が元になるので過信は禁物
  3. 長期の滞在となる場合は必ず民間の保険などに入っておく。病状等にもよるが可能であれば日本に帰ることも選択肢の1つです
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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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