就業規則

ランニングコストを考えるのに最適、就業規則の構造的理解法3.活用編 

2015年11月19日

この記事の続き。今回が最後です。

就業規則初心者にオススメ! 就業規則の構造的理解法2.解説編

無題のプレゼンテーション (1)

で。上のA,B,C,Dを簡単にジャンル分けすると以下のようになる。

A:会社の労務管理ついてのコンプライアンスに関わる条文

B:労働者の労働環境に関わる条文

C:社内秩序に関わる条文

D:会社のリスク管理に関わる条文

ここまでが前回のおさらい。今回はいよいよ、これらをどのように活かしてどのように就業規則を作成するか、また、労務の現場にどのように活かしていくかの話です。

 

会社が抱えている問題と就業規則

上のおさらいと過去記事2つで就業規則の構造的理解法の中心的な考え方である、就業規則を構成する4つの要素についてわかっていただけたかと思います。

では、会社の今の労務管理状況と就業規則の4要素を見比べてみてどうでしょうか。

監督署が調査の是正勧告を出されたならAの部分での運用に問題があったと考えられるし、労働者が次々辞めていくとしたらBの部分の改善でなんとかできることがあるかもしれません。

遅刻や早退が横行するなど社内のモラルが乱れているとしたらCの部分を改善し周知する必要があるし、会社の社員が刑罰に触れるようなことをしでかした場合はDに、それに対する処分内容が存在するかどうかが明暗を分けます。

このように、条文をきちんと仕分けて構造的に理解しておくと、会社で今起こっている問題に対して見直すべき就業規則がどういった事柄に対してか、すぐにわかります。

すぐにわかるからといって、就業規則を変えるだけで解決する問題というのは実はそれほど多くはありませんが、それぞれの条文の性格と、それによって構築される就業規則の構造をきちんと理解して就業規則を読むと、見え方が変わってきますし、就業規則を作成したり変更する際も要点をはっきりできると思うのでおすすめです。

わたしも、自分以外が作った就業規則の見直しをするときは、4つの仕分けはかなり意識しますし、自分で一から作成するときには、時と場合とクライアントによりますが、ABとCDを大胆に分割した就業規則を提案することもあります。

 

ランニングコストを基準に就業規則を考える

ただ、わたしがこうした就業規則の構造的理解法を考案したのは、わたしの就業規則を作成する上でのポリシーが、とにかくランニングコスト重視で「守れない就業規則では意味がない」と考えているからです。

就業規則にランニングコストの概念を

ランニングコストの高すぎる就業規則はいずれ守られなくなり紙切れと化す。でも、作成する側からすると、それって結構辛いんです。

よって、できるだけランニングコストを抑えながら就業規則を作成する、でもどうやって、と考えた時に、就業規則の条文を条文内容ではなく条文の性質で分類する方法でした。

で、ランニングコストで考えると、ランニングコストが高い順に以下のようになる。

A≧C>B>D

Aが高いのはそれだけ、日本の労働法が厳しいから。それ以外については後で詳しく解説しますが、就業規則を作成する上での優先順位で言うと、実は

A>D>C≧B

となります。

Bが優先順位的に一番低くなってますが、別に労働者の労働環境なんて無視していいって意味ではないですよ、あくまで就業規則上は、という意味。

 

就業規則で対応すべきAとD

まず、就業規則作成の上でもっとも優先順位が高いのはA。法律で定めている、または定めよと義務化されているものを就業規則で定めてしまえば、とりあえず就業規則はできます。逆にこれさえろくに書いてない就業規則ですと監督署や会社に不満のある労働者の餌食にになる可能性が高い。

実はAの部分はかなり就業規則のランニングコストが高い部分(主に残業代)なので、規則はあるけれど守れていない会社も多いかもしれませんが、それだと当然ダメ。Aを守っていない会社というのは守っている会社と比較してゲタを履いてるのも同じです。Aの部分はしっかり就業規則に定め妥協せずしっかり守りましょう。

Dの部分はいわゆるリスク管理についての規定です。まともな労働者なら決してやらないことでも、就業規則にきちんと定めておかないと、もしやった労働者がいても当該労働者を処分できません(罪刑法定主義)。なので、できるだけ多くのやってはいけないことを懲戒規定には羅列しておく必要があります。よって、優先順位は高め。

ただ、一度周知してしまえば破る人がめったにいないので、ランニングコストは低めです。

 

内規や社内制度でも対応できるBとC

BとCの優先順位が低いのは、就業規則であまりこれらをガチガチに決めすぎるとランニングコストが高くなるから。

守るのだけで一苦労みたいな規則でも、駐禁みたいに民間の手を借りれるならまだしも、小さな会社だとそんな人手はまずないでしょう。となると、自然と守る人はいなくなります。これでは意味が無い。

それならば、核となる部分だけ就業規則に定め、後の細かい取り扱いなどは内規や会社の制度としてやったほうがいい。

なぜなら、定めた規則に無駄があっても、内規や会社の制度なら変更のたびに監督署に提出する必要がなく、比較的スピーディに変更できるから。取扱規程のようなマニュアル的な規定は労働者の労働条件に関わる部分でないので、就業規則に絶対に定めておかないといけないというものでもありません。

Bについても同様で、労働者の労働環境をより良くしたり、会社を元気にしたいのなら会社の制度でやったほうがいい。それに賃金規定や人事規定の変更は、どんなに他所の会社で成功してる方法を持ってきても、企業文化が違うので、一度の変更ですぐに成果が出るわけではなく、トライ・アンド・エラーしないとより良いものにはなりません。トライ・アンド・エラーのたびに就業規則を変更するのは大変なので、大まかにしておいたほうがいいわけです。

 

以上です。いかがでしたでしょうか。考案して日が浅いのでまだまだ荒削りな部分もあるかと思いますが、これをきっかけにみなさんの就業規則への理解が深まれば幸いです。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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