年金・健康保険制度

通信制の学生は? 無認可校は? 社会保険加入における学生とは

2021年4月15日

 

そもそも学生って言葉、曖昧すぎでは?

よくよく思い返してみると、学生とか学生時代、という言葉って結構、曖昧な言葉ですよね。

小学生だって学生だし、社会人しながら夜間大学に通ってる人だって学生には変わりありません。

ただ、ほとんどの場合、学生や学生時代という場合、それは高校や大学を指すことが多いような気がします。

普段の日常会話であれば、この学生の定義がどうなっていようと、そこに大きな意味はないのですが、社会保険の手続きとなるとちょっと話が変わってきます。

というのも、社会保険では、原則として、学生には適用しないとされているからです。

じゃあ、社会保険が適用されない学生とは、どういった学生を指すのか、今回の記事で解説していきたいと思います。

 

特定適用事業所かどうか

核心に迫る前に、まず前提の話からしておきましょう。

実は社会保険の適用に関しては、平成28年以降、その適用範囲が拡大されています。

もともと社会保険の適用は、通常の労働者と比較して「週の所定労働時間及び月の所定労働日数が4分の3以上」の場合、社会保険に加入しなければならない、というルール(4分の3要件)しかありませんでした。

このルール自体は、現在もなくなったわけではないのですが、一方で、平成28年10月にできた「特定適用事業所」という制度ができました。

この特定適用事業所では「4分の3要件」とは別の基準で社会保険の加入の有無の判断が行われるようになっていて、基本的には「4分の3要件」よりも加入範囲の広い(つまり、4分の3要件よりも短い労働時間で加入が必要)ものとなっています。

学生の社会保険の加入の有無に関しては、この特定適用事業所かどうかという話は外せないので、まずはこちらから解説していきます。

 

特定適用事業所ではない場合

まずは、特定適用事業所ではない会社の場合。

特定適用事業所ではない会社では、従来通り、通常の労働者と比較して「週の所定労働時間及び月の所定労働日数が4分の3以上」の場合、社会保険に加入しなければならない、という「4分の3要件」にて、社会保険の加入の有無を判断します。

この4分の3要件では、労働時間や労働日数の基準しかなく、他の要件はありません。

なので、学生かどうか、さらにはその学生の種類が何かでその加入の有無を判断することはありません。

つまり、特定適用事業所に雇用される労働者については、この4分の3要件に該当する限り、社会保険に加入する必要があるのです。

 

特定適用事業所の場合

一方、特定適用事業所に該当する適用事業所で雇用される労働者については、以下のすべての要件を満たすものが社会保険の加入対象となります。

現行の特定適用事業所の短時間労働者の社会保険加入要件

①  1週間の所定労働時間が20時間以上

②  月額賃金8.8万円以上

③  学生でない

以上のすべての要件を満たす場合

「月収8.8万円の壁」(もしくは年収106万円の壁)というのを聞いたことがある人がいるかもしれませんが、それがこれです。

平成28年10月の時点では、強制的に特定適用事業所となる会社の規模は、社会保険の被保険者数が501人以上とされていました。つまり、大会社に限られていたわけです。

しかし、令和4年10月より、この被保険者数の要件は101人以上とされたため、中規模の会社も特定適用事業所に該当するという扱いとされました。

令和6年10月からはさらに、被保険者数が51人以上まで、特定適用事業所とされます。

 

社会保険に加入できない「学生」とは

ようやくここからが本題なのですが、特定適用事業所の社会保険の加入条件の一つに「学生でない」というものがあります。

すでに述べたように、特定適用事業所に該当しない会社では学生であることだけを理由に社会保険の加入対象外となることはありません。

そこで働く労働者が4分の3要件を満たす場合、それが学生であろうとそうでなかろうと、社会保険に加入しなければなりません。

一方、特定適用事業所の場合、学生は労働時間にかかわらず加入することはできません。

では、この「学生」とはどこまでの範囲を指すのでしょうか。

 

加入できないのは基本的には「昼間学生」

まず、ここでいう学生とは「昼間学生」を指します。

よって、通信教育や夜間、定時制の学校に通う学生は、適用対象外とはならず社会保険の加入対象となります。

また、「休学中の学生」や「卒業見込み証明書を有する者で、卒業前から就職し卒業後も同じ会社に勤務予定の学生」についても、同様に適用対象外となりません。他の要件を満たす限り加入対象となります。

なので、まとめると、以下の通り。

加入の対象外となるのは原則「昼間学生」

以下のものは学生であっても社会保険の加入対象

  • 卒業見込み証明書を有する者で、卒業前から就職し卒業後も同じ会社に勤務予定の学生
  • 休学中の学生
  • 通信教育や夜間、定時制の学校に通う学生

 

無認可校の学生は社会保険上の学生とは認められず

専門学校生も学生扱い

さて、学生というと高校生や大学生、短大生などがまずは思い浮かぶと思います。

こうした学生は特定適用事業所における社会保険の加入対象外となる「学生」に該当するので、問題ありません。

では、学生は学生でも専門学校の生徒、調理師学校や美容学校なんかはどうなのでしょうか。

実は、こうした学生については「学校教育法における専修学校」もしくは「学校教育法における専修学校に準ずる教育施設」に該当するかによります。

「学校教育法における専修学校」もしくは「学校教育法における専修学校に準ずる教育施設」にどういったものが該当するかについては長くなるので省略しますが、ただ、共通しているのはその設置には都道府県知事等の認可が必要であること。

 

無認可校の学生は社会保険上の「学生」とはならず

逆にいうと、都道府県知事等の認可なしに開校されている、いわゆる「無認可校」はこれに当たりません。

よって、「無認可校」の学生は、特定適用事業所で働く場合であっても社会保険加入対象外となりませんのでご注意ください。

ちなみに、無認可校というと聞こえは悪いですが、巷の学習塾とか英会話教室はこうした無認可校に当たります。また、無認可校については「学校」という名称を使用することはできません。

以下、かなり長いですが、社会保険における学生について定めている健康保険法施行規則(省令)の条文を抜粋して、今回の記事はここまで。

健康保険法施行規則 第二十三条の六

法第三条第一項第九号ニの厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者(卒業を予定している者であって、適用事業所に使用され、卒業した後も引き続き当該適用事業所に使用されることとなっているもの、休学中の者及び定時制の課程等に在学する者その他これらに準ずる者を除く。)とする。
一 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第五十条に規定する高等学校に在学する生徒
二 学校教育法第六十三条に規定する中等教育学校に在学する生徒
三 学校教育法第七十二条に規定する特別支援学校(同法第七十六条第二項に規定する高等部に限る。)に在学する生徒
四 学校教育法第八十三条に規定する大学(同法第九十七条に規定する大学院を含む。)に在学する学生
五 学校教育法第百八条第二項に規定する短期大学に在学する学生
六 学校教育法第百十五条に規定する高等専門学校に在学する学生
七 学校教育法第百二十四条に規定する専修学校に在学する生徒
八 前号に規定する専修学校に準ずる教育施設に在学する生徒又は学生

(2項は省略)

3 第一項第八号の「専修学校に準ずる教育施設」とは、次に掲げる教育施設とする。
一 学校教育法第百三十四条第一項に規定する各種学校(修業年限が一年以上である課程に限る。)
二 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第十三条第三項第一号に規定する学校その他の施設及び同法第十八条の六第一号に規定する保育士を養成する学校その他の施設
三 あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第二条第一項に規定する学校及び養成施設
四 理容師法(昭和二十二年法律第二百三十四号)第三条第三項に規定する理容師養成施設
五 栄養士法(昭和二十二年法律第二百四十五号)第二条第一項に規定する栄養士の養成施設
六 保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第十九条第一号に規定する学校及び同条第二号に規定する保健師養成所、同法第二十条第一号に規定する学校及び同条第二号に規定する助産師養成所、同法第二十一条第一号に規定する大学、同条第二号に規定する学校及び同条第三号に規定する看護師養成所並びに同法第二十二条第一号に規定する学校及び同条第二号に規定する准看護師養成所
七 歯科衛生士法(昭和二十三年法律第二百四号)第十二条第一号に規定する歯科衛生士学校及び同条第二号に規定する歯科衛生士養成所
八 教育職員免許法(昭和二十四年法律第百四十七号)第五条第一項に規定する養護教諭養成機関及び同法別表第一備考第三号に規定する教員養成機関
九 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第十九条第一項第二号に規定する養成機関
十 診療放射線技師法(昭和二十六年法律第二百二十六号)第二十条第一号に規定する学校及び診療放射線技師養成所
十一 歯科技工士法(昭和三十年法律第百六十八号)第十四条第一号に規定する歯科技工士学校及び同条第二号に規定する歯科技工士養成所
十二 美容師法(昭和三十二年法律第百六十三号)第四条第三項に規定する美容師養成施設
十三 臨床検査技師等に関する法律(昭和三十三年法律第七十六号)第十五条第一号に規定する学校及び臨床検査技師養成所
十四 調理師法(昭和三十三年法律第百四十七号)第三条第一号に規定する調理師養成施設
十五 理学療法士及び作業療法士法(昭和四十年法律第百三十七号)第十一条第一号及び第二号に規定する学校及び理学療法士養成施設並びに同法第十二条第一号及び第二号に規定する学校及び作業療法士養成施設
十六 製菓衛生師法(昭和四十一年法律第百十五号)第五条第一号に規定する製菓衛生師養成施設
十七 職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第十五条の七第一項第一号に規定する職業能力開発校、同項第二号に規定する職業能力開発短期大学校、同項第三号に規定する職業能力開発大学校、同項第四号に規定する職業能力開発促進センター、同項第五号に規定する障害者職業能力開発校及び同法第二十七条第一項に規定する職業能力開発総合大学校(職業能力開発促進法施行規則(昭和四十四年労働省令第二十四号)第九条に規定する短期間の訓練課程を除く。)
十八 柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)第十二条第一項に規定する学校及び柔道整復師養成施設
十九 視能訓練士法(昭和四十六年法律第六十四号)第十四条第一号及び第二号に規定する学校及び視能訓練士養成所
二十 国際連合大学本部に関する国際連合と日本国との間の協定の実施に伴う特別措置法(昭和五十一年法律第七十二号)第一条第二項に規定する千九百七十二年十二月十一日の国際連合総会決議に基づき設立された国際連合大学
二十一 社会福祉士及び介護福祉士法(昭和六十二年法律第三十号)第七条第三号に規定する学校及び養成施設並びに同法第四十条第二項第一号、第二号及び第三号に規定する学校及び養成施設
二十二 臨床工学技士法(昭和六十二年法律第六十号)第十四条第一号、第二号及び第三号に規定する学校及び臨床工学技士養成所
二十三 義肢装具士法(昭和六十二年法律第六十一号)第十四条第一号、第二号及び第三号に規定する学校及び義肢装具士養成所
二十四 救急救命士法(平成三年法律第三十六号)第三十四条第一号、第二号及び第四号に規定する学校及び救急救命士養成所
二十五 精神保健福祉士法(平成九年法律第百三十一号)第七条第三号に規定する学校及び養成施設
二十六 言語聴覚士法(平成九年法律第百三十二号)第三十三条第一号、第二号、第三号及び第五号に規定する学校及び言語聴覚士養成所
二十七 森林法施行令(昭和二十六年政令第二百七十六号)第九条に規定する教育機関
二十八 農業改良助長法施行令(昭和二十七年政令第百四十八号)第三条第一号に規定する教育機関
二十九 学校教育法施行規則(昭和二十二年文部省令第十一号)第百五十五条第一項第四号及び第二項第六号、第百五十六条第三号、第百六十条第三号、第百六十一条第二項、第百六十二条並びに第百七十七条第六号に規定する文部科学大臣が別に指定する教育施設(文部科学大臣が指定した課程に限る。)
三十 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和二十三年厚生省令第六十三号)第二十八条第一号、第四十三条第一項第一号及び第八十二条第一項第三号に規定する学校その他の養成施設
三十一 国立研究開発法人水産研究・教育機構
三十二 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
三十三 独立行政法人海技教育機構(厚生労働大臣が定める課程に限る。)
三十四 独立行政法人航空大学校
三十五 前各号に掲げるもののほか、厚生労働大臣が指定するもの

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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