労働保険・社会保険制度の解説

今後、社会保険料や雇用保険料はどれだけ上がるのか

2021年12月22日

雇用保険の財源の枯渇により、雇用保険料の引き上げが検討されていましたが、どうやら先送りされるようです。

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ただ、将来的には引上げは避けられないでしょう。

また、社会保険についても、コロナ禍前から膨張の一途をたどっており、将来的に保険料率が引き上げられるのではないかと不安に思っている人もいるはずです。

今回はそんな公的保険の保険料が今後どうなっていくのか、その料率が決まる仕組みの観点からみていきたいと思います。

 

社会保険の保険料率の仕組み

さて、まずは社会保険からです。

一口に社会保険と言っても、健康保険と年金、さらには介護保険があります。

また、健康保険と年金に関しては、雇用されているか自営かで健康保険と厚生年金保険、国民健康保険と国民年金と加入するものが変わってきます。ただ、今回は国保と国年についてはパス。

なので、以下では健康保険と厚生年金保険、介護保険についてみていきます。

 

健康保険

定められる保険料率の範囲は決まっている

まず、健康保険ですが、健康保険の給付が増えれば増えるほど保険料が上がるのは、民間の保険などと同じ。

この保険料率自体は、法改正等がなくても変更可能です。

その一方で、定められる保険料率の範囲は決まっています。

健康保険の保険料率は「1000分の30から1000分の130(3%~13%)」の範囲内でしか定められないと、法律で決められているのです

これは協会けんぽ、健保組合どちらの場合も同様で、各都道府県の協会けんぽ、各健保組合がこの範囲内でしか料率を決めることはできません。

ちなみに、都道府県の協会けんぽに関しては、令和3年現在、上限まで料率を上げているところはなく、一番高い佐賀でも10.68%となっています。

令和3年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます(協会けんぽ)

 

保険料率の範囲は法律でしか変えられない

なんだ、上限が決まってるのか、と安心した方、実はこの上限、平成28年4月より前は「1000分の120」だったんですよ。

だから、法律が変われば、上限が上がる可能性は今後もあるということです。逆にいうと、上限が上がる前には必ず法改正があるとも言えます。

いずれにせよ、健康保険の保険料率については、法改正がない限りは13%が上限になるということです。

 

厚生年金保険

保険料率が固定されている

次に厚生年金保険です

こちらは平成16年以降、徐々に引き上げられてきたのですが、この引上げは平成29年で終了。

今は「1000分の183(18.3%)」で固定されています。

なので、他の保険と違い厚生年金保険は、支払われる年金額が増えようと保険料率が変わることはありません。

料率を変えられないこともないですが、それには法改正が必要なので、法改正がない限りはこれ以上、上がることはありません。

ちなみに說明を省くと言った国民年金の保険料も基本となる額は固定されています(毎年変動するのは物価の変動に合わせているため)。

 

保険料率ではなく、年金の支払額を調整

にしても、高齢者は増えてるのに保険料率を固定して財源は大丈夫なの? と思う人もいるかもしれません。

大丈夫、と言い切ることはできませんが、その対応策として現在は「マクロ経済スライド」という仕組みが使われています。

こちらは、年金額について、平均寿命の延びや現役世代の減少を考慮に入れた調整を行い、現役世代や将来世代の負担がこれ以上大きくならないような仕組みとなっています。

はっきり言ってしまうと、年金額を減らす仕組みなので、これを「悪魔の仕組み」なんていう同業者もいましたが、現役世代からしたらこの仕組みのおかげで保険料負担がこれ以上増えないようになっています。

 

介護保険

介護保険の保険料率の決定方法は、実はかなり複雑。

正直、その決定方法を説明しきれる気がしないというか、自分でもちゃんとわかってるかも結構あやしい。

一応、適当に決めているわけではなく、介護保険の給付額が増えれば率も上がるようになっています。

ただ、健康保険や厚生年金保険のようなわかりやすい上限はありません(国保の人で介護保険を払う場合は別)。

ちなみに令和3年の協会けんぽの介護保険料率は1000分の18(1.8%)で、令和2年より0.1%上がっています。

 

労働保険の保険料率の仕組み

労働保険は労災保険と雇用保険に分けられます。

それぞれ見ていきましょう。

 

労災保険

労災保険の保険料率は、業種ごとに決まっています。

ちなみに、令和3年現在は88/1000~2.5/1000の範囲で決まっています。

この保険料率は、3年に1回ごとに改定が行われているのですが、上がるか下がるかはこの期間の労災の多寡によって決まります。

つまり、労災が多くあった業種では料率が上がるし、少なかった業種では下がるわけです。

日本の職場の安全性が増してるためか、労災保険の保険料率は全体的には低下の傾向にあります。

介護保険同様、料率自体の上限は特に定められていません。

 

雇用保険

財政状況によって保険料率は変動

最後は大幅な引上げを余儀なくされている雇用保険。

こちらも、保険の財政状況に応じてが保険料率が変動するタイプで、令和3年現在、この保険料率は一般の事業で1000分の9(労働者負担1000分の3、事業主負担1000分の6)となっています。

また、料率に上限が定められてないのは労災保険と同じ。

 

直近でも引き下げられたことがあった雇用保険料率

もともとコロナ禍前までは、失業率が低水準だったこともあり、雇用保険の財政はかなり潤っていました。

そのため、積立金もかなりの額となっていて、実際、平成28年には保険料率の引き下げが行われています。

しかし、長期にわたる雇用調整助成金の支給により、雇用保険の財政は枯渇、今は保険料率の引き上げを余儀なくされています(今回は先送りされましたが)。

では、雇用調整助成金の支給が終われば、また雇用保険の財政はもとに戻るかというと、そうとも限りません。

雇用調整助成金の支給が終われば潰れる会社は増えるでしょうし、そうなると失業者も増え、失業保険(失業等給付)の支給も増えることが予想されるため、保険料率がさらに上がる可能性があるからです。

 

まとめ

厚生年金保険は固定、健康保険は決められた範囲内で上下

社会保険料や雇用保険料が、今後どれだけ上がるのかというタイトルを回収していくと、まず、厚生年金保険については、法改正がない限り今のままで固定です。

それ以外の、健康保険、介護保険、労災保険、雇用保険については給付次第で上下がありますが、健康保険に関しては上がったとしても上限があります。

つまり、料率の大きい(つまり、負担の大きい)この2つの保険料は法改正がない限り、変わらないか、上がるにしても限度があるわけです。

 

介護保険、労災保険、雇用保険の今後の見通し

健康保険と厚生年金保険以外の保険料の今後の見通しについても、筆者の私見を述べておきましょう。

まず、介護保険については、介護保険の給付が増えれば料率が上がる仕組みになっているので、今後、高齢者がますます増えることを考えればまだまだ上がるとみて良いでしょう。

労災保険については、業種によって異なりますが、景気等にあまり関係なく上がるところ下がるところがあるといえます。

最後の雇用保険については、来秋の引上げだけでは終わりそうにない、というのが筆者の考えです。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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