労働契約

会社は労働者には期待するのではなく約束をしろ、させろ、という話

小規模の会社だと、きちんとした労働契約書がないというのはよくあることです。むしろあるあるです。

しかし、契約書はどんなに小規模の会社でもきちんとしておいた方が良いものです(その理由は、この記事を読んでもらえればわかると思います)。

にもかかわらず、労働契約書の存在意義が感じられないと思う経営者もいるかもしれません。

今回は、この労働契約について、法的な意味よりも、実際の実務で役立たせることを重視しつつ、なるべく簡単に解説していきます。

労働契約は会社と労働者の約束

労働契約とは、会社と労働者がお互いに「○○する」ということを約束するものです。

会社からは賃金額や働く条件を提示し、それを守ることを労働者に対し約束します。

一方で、労働者からは会社から提示された業務を行うことや、会社内のルールを守ること、あるいは常に万全の形で仕事に取り組むことを会社に約束します。

この約束を破ることは、子供が友達や親との約束を破るのとはわけが違います。

労働契約という約束を破るということは、それは契約違反となるからです。

よって、労働者が契約を守らない場合は処罰の対象になるし、会社が守らない場合は裁判等を起こされる可能性が出てくるからです。

 

就業規則は会社のルール

労働契約のことをよく知るためにも、就業規則についても簡単に説明しておきましょう。

就業規則は、簡単に言うと会社のルールです。全ての労働者(あるいは雇用形態等によって区分された労働者ごと)に共通するルールとなります。

このルールは基本的には会社が定めます。

就業規則を守らない労働者はルール違反となるため、処罰の対象とすることができます。

ちなみに、就業規則には、法的に会社が守らないといけないルールも定めなければなりません、

 

労働契約と就業規則の関係

就業規則を基本線に、労働契約の内容を決める

就業規則が会社全体のルールで、労働契約は個別の労働者との約束です。

ただ、個々の労働者と、会社としての一貫した基準なしに約束をしていては大変なことになります。

そうしたことを避けるため、会社全体のルールである就業規則を定め、それを基本線に、個別に労働者と約束、つまり、労働契約を結ぶわけです。

別の言い方をすれば、全体のルールである就業規則で定めきれない個々の労働者の働き方を決めるために労働契約を結ぶ、とも言えます。

 

労働契約と就業規則の関係は補完的

ちなみに、労働契約は約束、就業規則はルールとは書いてるものの、両者は簡単に分けられるものでもありません。

労働契約にもルール的な内容はありますし、就業規則にも労働条件に関する約束的な部分はあります。

これは就業規則に足りないものを労働契約で、労働契約で足りないものを就業規則で補うという関係性があるためです。つまり、両者は補完的な関係にあるわけです。

なので、この記事で説明しているような分け方は、大まかな目安として考えるのが良いかと思います。

 

期待ではなく約束をしよう

さて、ここからが本題。

では、なぜ実務で労働契約が重要なのでしょうか。それも大企業だけでなく、中小企業でも。

経営者の中には労働者に対して「ああしてほしい」「こうしてほしい」みたいなことを思っている人は少なくないでしょう。

また、労働者が会社の言うことを聞かなかったり、サボったりと、労働者の勝手な行動に手を焼いてる経営者も少なくありません。

その一方で、労働契約書をきちんと結んでいるという会社は、規模が小さくなればなるほど少なくなります。

上で上げたような経営者の悩みは、労働契約できちんとお互いが約束をすれば解決するにもかかわらず、です。

 

「ああしてほしい」「こうしてほしい」は経営者の勝手な期待

例えば、「ああしてほしい」「こうしてほしい」というのは、契約で「ああする」「こうする」と書けば、やらなかったときに労働者側の違反となります。

また、労働者がする勝手な行動も、契約で「やってはダメ」と約束すれば、それをやったときに違反となります。

そもそも「ああしてほしい」「こうしてほしい」というのは、経営者の勝手な希望であり、それをやることを約束もしてない労働者からしたら、知ったこっちゃありません。

「何時に○○で待ち合わせ」という約束をしなければ、誰も来るわけないし、来なかった人を責められませんよね? それと同じです。

だから、勝手に期待するのではなく、労働契約できちんと約束をしましょう、というわけです。

 

会社も約束(と法律)を守る

ただ、労働契約は、会社にとっていいことばかりではありません。会社にとってやぶ蛇となることもあります。

なぜなら、当然、労働契約では会社側も労働者に対して約束をすることになるわけですが、会社側が労働者に対して行う約束には「法令」によって制限があることが多いからです(労働時間や時間外手当、年次有給休暇などなど)

つまり、これらの法令に関することがきちんと守られてない会社が労働契約を結ぶとなると、逆に労働者から突っ込まれることになりかねないわけです。

 

まとめ

以上のことをまとめると、労働契約書をきちんとする、ということには、2つの意味があることが明らかになったかと思います。

1つは労働者の「やってもらうこと」「やってはいけないこと」をはっきりさせ、それを約束させること。

もう1つは、会社のコンプライアンスのためです。

なので、経営者の方は労働者の普段の働きぶりを嘆くのなら、その前に、まずはコンプライアンスをきちんとし、労働契約をきちんと結ぶことを目指すべきと言えるでしょう。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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