労災・雇用保険の改正

来年から始まる雇用保険マルチジョブホルダー制度の原則は本人申請

2021年12月3日

来年(令和4年)1月より、雇用保険のマルチジョブホルダー制度というものが始まります。

マルチジョブホルダー制度はマルチジョブ、すなわち複数の会社で働く労働者の雇用保険に関する制度となります。

 

現行の雇用保険制度と複数の会社で働く労働者の関係

雇用保険に加入できるのは、雇用保険の適用事業所で働く週所定労働時間が20時間以上(かつ、雇用見込みが31日以上)の労働者です。

そして、雇用保険法は一つの会社でしか雇用保険に加入することができません。

仮に、複数の会社で働いている場合で、そのいずれでも雇用保険の加入条件を満たす場合であっても、その中かから一つ、主となる会社で雇用保険に加入することになります。

逆に、複数の会社で働いていて、いずれも週所定労働時間が20時間未満ではあるものの、それらの労働時間を合算すれば週所定労働時間が20時間以上となる場合、その労働者はどの会社でも雇用保険に加入することができないようになっています。

つまり、複数の会社で短い時間で働く労働者は雇用保険に入れないという問題があったわけです。

 

まずは65歳以上の労働者から

こうした問題解決の第一歩のため、今回のマルチジョブホルダー制度では、65歳以上の労働者にかぎり、一つの会社では雇用保険の加入条件は満たさないけれども、複数の会社の労働時間を合算すれば満たせるという場合、雇用保険に加入できるようになりました。

なぜ、65歳以上の労働者にかぎっているかというと、まずは65歳以上の労働者で、制度の運用面屋事務負担等の様子を見るためです。

そのため、将来的には65歳未満であってもマルチジョブホルダー制度の対象になる可能性があります(といっても、そうなるのはどんなに早くても5年以上先かと思われますが)。

 

マルチジョブホルダー制度の概要

ここからは制度について説明していきます。

まず、マルチジョブホルダー制度に加入できる労働者の条件は以下の通りです。

  • 事業主の異なる複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
  • 2つの事業所(1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満であるものに限る。)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  • 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること。

注意すべき点として、例えば、対象労働者が3つ以上の会社で働いている場合も、その中から2つを選んで、その2つで週所定労働時間20時間以上という要件を満たさないといけないということです。

例えば、A、B、Cの3つの事業所でそれぞれ週7時間、週7時間、週7時間と働いている場合、3つの事業所の所定労働時間を合算すれば週所定労働時間が20時間以上となりますが、マルチジョブホルダー制度では、2つまでしか合算できないので、こういう場合は対象にならなないということです。

 

マルチジョブホルダー制度の手続きの原則は本人申請

マルチジョブホルダー制度において、最も特徴的なのは、基本的に労働者本人が申請を行うという点です。

通常、雇用保険の手続きは会社が行います。

しかし、マルチジョブホルダー制度では、労働者が働く会社が2つある関係で、会社がやるとなるとどちらがやるのか、という問題が発生します。

そのため、マルチジョブホルダー制度では労働者本人が主体となって各種手続きをするわけです。

 

マルチジョブホルダー制度の手続きの具体的な流れ

マルチジョブホルダー制度における手続きの具体的な流れは以下の通りです。

 

労働者はまず、近くのハローワークもしくは厚生労働省のHPにて、以下の手続きに必要な書類を手に入れなければなりません。

  • 雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届(マルチ雇入届)(2事業所分)
  • 個人番号登録・変更届
  • 被保険者資格取得時アンケート

 

上記のうち、マルチ雇入届については、労働者が記載する箇所と、会社が記載する箇所があるので、労働者が記載する箇所を記入したら、会社に事業主記載事項の記入を申し出ることになります。

労働者はこのとき、会社に資格取得に必要な資料の交付してもらう必要があります。会社に交付してもらう資格取得に必要な書類は以下の通りです。

  • 賃金台帳、出勤簿(原則、記載年月日の直近1か月分)労働者名簿
  • 雇用契約書
  • 労働条件通知書、雇入通知書
  • 役員、事業主と同居している親族及び在宅勤務者等といった労働者性の判断を要する場合は、別途確認資料

 

労働者は上記の資料に加え、本人であることを確認できる資料と個人番号の確認できる資料を持ってハローワークに取得の申出をすることになります(郵送でも可能)。

資格取得日はハローワークにその申出をした日となるので、ハローワークに行くのが遅れると、その分、資格取得が遅れることになります。

資格取得の手続きを行うと、労働者と会社に対して以下の書類が交付されます。これらは離職時に必要となるため、大切に保管しておく必要があります。

労働者に交付されるもの

  • 雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届…A社分、B社分
  • 雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得確認通知書(本人通知用)…A社分、B社分
  • 雇用保険被保険者証
  • 被保険者資格喪失時アンケート

事業所に交付されるもの(2つの会社、それぞれに交付)

  • 雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得確認通知書(事業主通知用)

 

以上は、資格取得時の流れですが、資格喪失時も基本的な流れは同じで、労働者が主体となって手続きを行います。

詳しくは、厚生労働省の資料をご覧ください。

雇⽤保険マルチジョブホルダー制度の申請パンフレット(出典:厚生労働省

 

代理人が手続きを行う場合

マルチ雇入届等については、会社や社会保険労務士が作成することもできますが、提出代行はできませんが、委任状がある場合は会社や社会保険労務士などの代理人が行うこともできます。

つまり、委任状があれば他の被保険者と同様の形で手続きが行えるようにも思えます。

しかし、委任を受けるにしても、手続きの際は2つ分の会社の資料等が必要になります。

そのため、マルチジョブホルダー制度において労働者がやるべきことを全て代理しようとすると、もう一方の会社に対して資料等の提供を求めることを会社等がしなければならなくなります。

なので、マルチジョブホルダー制度の手続きの代理をするという場合は上記の点をきちんと考慮しないと、思わぬ手間が発生する可能性があるので注意が必要です。

 

参考:【重要】雇用保険マルチジョブホルダー制度について ~ 令和4年1月1日から65歳以上の労働者を対象に「雇用保険マルチジョブホルダー制度」を新設します~(厚生労働省)

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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