労災・雇用保険の改正

令和10年から「週所定労働時間10時間以上で雇用保険加入」へ

人事労務の世界では毎年のように実務に影響のある法改正が行われていますが、令和6年の通常国会でも、会社の人事労務に影響のある改正法案がいくつも提出され、国会で可決しています。

その中でも、今後の労務管理に大きな影響を与えそうなのが「雇用保険の適用拡大」です。

現行の雇用保険では、雇用保険の被保険者となる条件として、

  • 31日以上継続して雇用されることが見込まれる
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上

 

の2つを満たす必要があるとされていますが、今回の改正で、2つの条件のうち、1週間の所定労働時間の要件が現在の20時間以上から10時間以上に変更されることが決まったからです。

これにより、これまでよりも短い労働時間数で雇用保険に加入できるようになる一方で、今まで雇用保険に入らない労働時間の範囲で働いていた労働者も、雇用保険に入らざるを得なくなるため、人事労務に大きな影響が出ると考えられるわけです。

今回はこの「雇用保険の適用拡大」について、詳しく見ていきます。

 

「1週間の所定労働時間10時間以上」で雇用保険加入となることの人事労務への影響

週所定労働時間の条件が20時間以上から10時間以上となると、一部の特殊な働き方の人を除き、ほとんどの人が雇用保険に入ることになります。

これによって何が起こるかというと、単純に今までよりも取得手続きの手間が増加すると考えられます。

この対策として、政府は「申請手続きの簡素化やオンライン化を一層進める」としていますが具体的な内容については今のところ不明です。

ただ、これは何も悪いことばかりではないでしょう。

現行の週所定労働時間20時間以上という条件の場合、個々の労働者の労働時間によって雇用保険の加入手続きをするかどうかを考慮する場面が、特にパート・アルバイトの多い会社では多くありました。しかし、改正法施行後はこういった、雇用保険の取得手続きをするか、しないかを人事労務担当者が労働者ごとに考える必要性はかなり減るはずだからです。

 

「雇用保険の適用拡大」による雇用保険の他制度への影響

以上のように、週所定労働時間の要件が10時間以上になることの、企業の人事労務への影響は非常に大きいとみられますが、影響はそれだけに留まりません。雇用保険の制度の中には、雇用保険の加入条件の「週所定労働時間20時間」を基準としている制度がいくつもあるからです。

以下では、週所定労働時間の要件が10時間以上となることに併せて変更が加えられた制度や、影響が出ると考えられる制度について見ていきます。

 

(1)被保険者期間の計算

基本手当をはじめとする雇用保険の給付の多くは、一定の被保険者期間があるかどうかをその支給要件としています。例えば、基本手当の場合、原則として、離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12か月以上あることを受給資格としています。

現行法では、この被保険者期間の「1か月」を数える際、「離職日から1か月ごとに区切っていった期間に賃金の支払の基礎となった日数が 11 日以上または賃金の支払の基礎となった労働時間数が 80時間以上ある場合」とされています。しかし、現行のままだと今回の改正で雇用保険に入れるようになった週所定労働時間が10時間以上20時間未満の労働者が、1か月の要件を満たすのは非常に困難です。

そのため、今回の改正では「離職日から1か月ごとに区切っていった期間に賃金の支払の基礎となった日数が6日以上または賃金の支払の基礎となった労働時間数が40 時間以上ある場合」へと変更されます。週所定労働時間の要件が半分になった分、基本手当の条件もほぼ半分になったわけです。

こちらの変更は、企業の人事労務においては、特に離職票の作成時に大きな影響があるので、きちんと押さえておく必要があります。

 

(2)失業認定基準及び自己の労働により収入がある場合の取扱い

基本手当を受給するためには、受給資格者が失業状態でなければいけません。その確認(失業認定)は、受給資格者が4週間に一度公共職業安定所に行き、過去 28 日間について就業していたか否か、労働者が申告することによって行われています。

では、就業していたかどうかの基準はどこにあるかというと、現行法では、やはり週所定労働時間20時間以上を基準としています。この週20時間を一般的な週所定労働日数である5日で割った4時間を基準に、現行では失業認定について運用がされています。

つまり、過去28日間の中で労働した日のうち、労働時間が4時間以上の日については失業認定が行われないということです。一方、4時間未満の就労を行った日については、その際に得た収入額に応じて、基本手当の減額が行われています。

この失業認定における一日の労働時間の基準ですが、今回の改正で雇用保険の加入条件が週所定労働時間10時間以上に変更されるのに伴い、改正法施行後は1日当たり「2時間」に改めた上で運用される予定です。

なお、失業認定を受けられる場合で就業した場合の、収入と基本手当額の調整については、法改正後の1日2時間未満の労働によって得えられる収入額が一般的には少額であることや手続きの簡素化等の観点から廃止されます。

 

(3)賃金日額の法定の下限額

雇用保険の給付においては、法律で賃金日額の下限額が定められています。現行法の法定の下限額は2460円ですが、この金額もまた週所定労働時間20時間を基準としたものであるため、改正法施行後は週所定労働時間10時間を基準とする1230円まで下限額が引き下げられます。

 

(4)求職者支援制度との関係

求職者支援制度とは、離職して雇用保険を受給できない人や、収入が一定額以下の在職者等で、再就職、転職、スキルアップを目指す人が、月10万円の生活支援の給付金を受給しながら、無料の職業訓練を受講できる制度です。

こちらについては、週所定労働時間10時間以上となることで、改正法施行前であれば求職者支援制度の対象だった人が、改正法施行後は対象とならないケースが発生します。

しかし、求職者支援制度の対象となるような人からすると、雇用保険に加入して基本手当等をもらうよりも、求職者支援制度を利用した方が良いことも多いことから、週所定労働時間が10時間以上20時間の被保険者および被保険者だった受給資格者については、当分の間、求職者支援制度の支援対象から除外しないとされました。

 

(5)マルチジョブホルダーとの関係

令和4年1月より、65歳以上の労働者に限り、複数の雇用保険の適用事業に雇用されているものの、一つの適用事業だけでは雇用保険の加入条件を満たさないけれども、2つの事業の労働時間を合算すると週所定労働時間が20時間以上となる場合、本人の申請により雇用保険に加入できるものとされました。

いわゆるマルチジョブホルダーと呼ばれる制度ですが、こちらについては雇用保険の適用拡大と併せて、2つの事業の労働時間を合算した際の基準が、週所定労働時間が10時間以上となる場合に変更されます。

そのため、改正法施行前と後では、対象となる労働者が格段に増えることが予想されます。

ただし、マルチジョブホルダー制度については施行後5年を目処に見直すことが定められているため、雇用保険の適用拡大前に制度に何かしらの変更が加えられる可能性もあります。

 

雇用保険の適用拡大の施行日

雇用保険の適用拡大は、改正後の影響の大きさを踏まえ、令和10年10月1日施行となっています。

 

雇用保険の適用拡大のまとめ

改正項目 改正前 改正後
雇用保険の加入条件(週所定労働時間) 1週間の所定労働時間20時間以上 1週間の所定労働時間10時間以上
被保険者期間における1か月 離職日から1か月ごとに区切っていった期間に賃金の支払の基礎となった日数が 11 日以上又は賃金の支払の基礎となった労働時間数が 80時間以上ある場合 離職日から1か月ごとに区切っていった期間に賃金の支払の基礎となった日数が6日以上または賃金の支払の基礎となった労働時間数が40 時間以上ある場合
失業認定中の就労 1日4時間以上(4時間未満の就労をした際、賃金に応じて基本手当の額を調整) 1日2時間以上(2時間未満の就労時の賃金と基本手当の調整は廃止)
賃金日額の下限額 2460円(実際の下限額は年度の平均給与額によって自動変更) 1230円(実際の下限額は年度の平均給与額によって自動変更)

 

参考資料:

雇用保険部会報告(職業安定分科会(第202回))(リンク先PDF 出典:職業安定分科会

第213回国会(令和6年常会)提出法律(出典:厚生労働省)

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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