労働契約

漫画家の元アシスタントが残業代を請求した件と労働契約と外注の話

2018年1月9日

実質的な新年一発目のブログの話題はこちら。

ドラゴン桜漫画家へ元アシスタントが残業代請求宣言

ドラゴン桜で有名な三田紀房氏の元アシスタントが残業代請求したという話ですが、正直わたしは「えっ」となりました。

というのも、この三田紀房氏、つい最近「働き方改革」を進める漫画化として話題になっていたから。

週休3日、残業禁止、「作画完全外注」――漫画家・三田紀房が「ドラゴン桜2」で挑む働き方改革

医者の不養生と言いたいところですが、まあ、残業代を請求している元アシスタントが三田氏の元で働いていた期間が11年以上と非常に長かったことを踏まえると、三田氏も11年の間に考え方が変わっていったんだろう、と、で、その過渡期に未払いとなっていた残業代を請求されたのだろうと、考えることもできます(事実は知りませんが)。

タイムカードの記録もあるそうなので、この請求を三田氏が完全に退けることは難しく、おそらく金額面での折り合いがつき次第、示談という形になるのでしょう。

なので、争いの行方がどうなるかへの関心は個人的には薄めなのですが、個人的に気になったのはこの一連の騒動に対する他の漫画家さんの反応です。

 

法の適用に個人の価値観や考え方が介在する余地はない

代表的なのが「すごいよ!!マサルさん」や「ピューッと吹く!ジャガー」で有名なうすた京介氏のコメント。

※ 元のツイートがすでに消されているので、それをスクショで取られた方のツイートを貼ってます。

「まともな仕事じゃないから残業代は支払われないのは当たり前」と読める内容ですね。

これはさすがに炎上しても仕方がない。

(でも、いわゆる「徒弟的(師匠と弟子)」な関係になりやすい業種って、結構こういう考えのところは多かったりします。)

とはいえ、まともな仕事だろうと、そうでなかろうとそこに雇用関係があるなら、適用されるのが労働基準法でありその他労働法であり社会保険法です。

法律がある以上、その法律の対象となる人は、それを守らなければなりません。

そこに、個人の価値観や考え方が介在する余地は一切なく、仮に守らなければ、行政の取り締まりや、司法の裁きを受けることになるのですが、上記のコメントを見る限り、そうした法律の本質やリスクみたいなのものがわかっていないようですね。「ジャガー」が好きだった筆者はちょっと残念。

 

労働基準法を守ってないってことは、もしかして・・・

こうした考えがマンガ業界ではどれくらい一般的かは知りませんが、こうした労基法の軽視発言をみてしまうと、そういうところはおそらく労災保険や雇用保険には入っていないのだろうな、と想像できてしまいます。

ちなみに、労災保険は1人でも労働者を雇っているなら個人だろうが法人だろうが加入する必要がありますし、雇用保険も被保険者となる条件で働く労働者がいるなら加入する必要があります。

一方、社会保険はちょっと要件が厳しく、個人の場合は5人以上被保険者となる労働者がいないと強制加入となりません(ただし、5人未満でも任意で加入できます)。

また、法人の場合は1人でも常時雇用となる労働者を雇う場合は強制加入となります。

 

労働契約ではなく「委任契約」や「請負契約」なら・・・

ただ、上記の話はあくまで漫画家とアシスタントとの関係が「雇用関係」であるなら、という条件がつきます。

つまり、漫画家とアシスタントが「労働契約」を結んでいるという場合に限られるわけです。ちなみに労働契約は、書面で結ばなくても成立します。

では、雇用関係ではない関係性があるのかというと、例えば、漫画家とアシスタントがマンガの手伝いをすることについて「委任契約」や「請負契約」を結んでいる場合が考えられます。

委任と請負の違いが一般の人にはわかりづらいところですが、ここは2つまとめてざっくり「外注」のことだと思ってください。

つまり、「委任契約」や「請負契約」を漫画家側から見ると、マンガを書く業務の一部を外注する、その外注先がアシスタントというわけです。

これは「人事労務の仕事を会社でやるのは大変だから社労士に外注に出そう」というのと意味合いは全く同じです。

漫画家とアシスタントとの関係でそんなのありえるのとかというと、三田氏の働き方改革の記事では、作業の一部を外注に出すことが言及されていることを考えれば十分可能なことのでしょう。(素人考えでも「1ページトーンを貼ったらいくら」みたいな「請負契約」は思いつきますし)

そして、その外注先ってどこなの? となったら、それは漫画家志望の誰か、多くはどこか他の漫画家さんのところでアシスタントをしてる人たち、ということになるのではないでしょうか。

 

外注か労働契約かのカギは使用従属性

とはいえ、「会社と社労士」の外注の例ほど、「漫画家とアシスタント」との外注の話は簡単ではありません。

なぜなら、契約上は「外注」でアシスタントが個人事業主であったとしても、その関係の実態は「労働契約」の可能性があるからです。

労働基準法では、契約内容よりも実態が優先されるので、いくら契約内容が外注扱いになっていても、実質的に漫画家とアシスタント関係性が「使用者と労働者」なら、それは「雇用関係」が成立していると言えます。

では、外注のつもりの契約が、労働契約扱いにならないために一番重要なことは何かと言えば、それは「使用従属性」の有無です。

つまり、ある業務をアシスタントにやらせる上で「仕事の依頼や業務の指示等に対して諾否の自由がない」「依頼者(使用者)による業務遂行上の指揮監督の程度が強い」「勤務場所や勤務時間が拘束されている」など、アシスタント側の業務への自由度がなく、それってどこかの会社で働いてるのと変わらないよね、という状況だと「使用従属性」が強く、労働者扱いとなる可能性が高まります。

個人的な見解ですが、漫画家とアシスタントって働く場所は普通同じだろうし、漫画家とアシスタントだと上下関係も生まれやすいと思うので、それが回り回ると「使用従属性」が強まりそうな気がしますね。

いずれにせよ、外注としてアシスタントとして契約する以上、それは個人事業主同士や法人同士、あるいは法人と個人事業主同士の契約であり、相手を自分の会社の部下のように扱うのは「委任契約」や「請負契約」ではないわけです。

 

別に、わたしは「漫画家さんにアシスタント付けるなら請負契約や委託契約でっせ」とオススメしたいわけではありませんが、法律を破らずに「我」を通したいなら、このくらいのことは知っておいてほしいなとは思い、キーボードに指を走らせました。

とりあえず、今日はこんなところです。

今日のあとがき

わたくしごとですが、正月の間に太りました。

いや、その前から結構怪しかったんですけどね・・・。

このラインだけは超えたくないと思っていたラインを体重計が簡単に超えたのが正月休み最後の日だった3日の日。

これはマズいと思って正月明けの木、金、そして、火曜日の今日は徒歩出勤してます。

普段でも自転車通勤なので、そこそこカロリーは消費してるはずなんですが、それだと生温いのではと思ったのと、休み明けのブルーな気持ちを吹き飛ばすのにちょうどいいかな、と思ってやってるんですが、気持ちの上では思いのほか悪くないですね。自転車だと今はもうできないイヤホンを付けながらの移動もできるのでラジオを聞きながら移動できるし。

信仰心0で初詣にも基本行かないわたしですが、自宅と事務所の通り道に熱田神宮があるので今年は珍しく初詣にも行ってきました。

ただ、信仰心が0で占いも信じない人間なので、おみくじは引いてません(笑)。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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