労働契約

労働契約? 委託契約? SMAPの4人が「退社」する、という表現は正しいのか?

2016年1月14日

さて、世間はSMAPの解散に揺れてますが、中居正広氏、草彅剛氏、稲垣吾郎氏、香取慎吾氏の4人がジャニーズを「退社」するという表現があったので、ちょっと気になって、いろいろ調べてみました。わたしは別に芸能界に詳しいわけでも、コネがあるわけでもないので、あくまで噂だよりで、ですが。

まず、テレビに出るタレントとその事務所の契約形態というのは基本的に2つしかないと思います。

1つは、タレント事務所の社員として、タレント活動を行うという労働契約を結ぶ方法。

もう1つは、タレントがマネージメント部分を事務所に委託するという、委託契約です。

わたしが気になったのはジャニーズというのは所属アイドルとどのような契約を結んでいるかということ。委託契約の場合、それを解除するのに「退社」という表現はおかしいからです(我ながら細かい話だけど)。

 

労働契約と委託契約の違い

労働契約か委託契約か、というのが芸能界でどれくらい気にされているかは知りませんが、結構違います。

前者の場合、いくらアイドルやお笑い芸人といえども、タレント事務所はタレントに対して、労働基準法に則った労務管理を行わないといけません。例えば、1日8時間以上労働させた場合、時間外手当をつけないといけないし、有給だって与えないといけない。雇用保険や社会保険にも入れないといけません。

解雇規制に守られているので、タレントが不祥事を起こした場合も簡単には解雇できない、と思ったけど、売れてるタレントの場合、世間に与える影響が、世の労働者と全然違うので、これはあまり関係ないかも。

一方、後者の場合、タレント側は個人事業主ということになります。タレント側は事務所側に仕事を取ってきてもらう業務を委託し、事務所は仕事をもらってくる代わりにそのマージンをもらうわけですが、お互いの立場は、労使間のような主従関係はなく、対等です。

なので、委託契約を結ぶか続けるか解除するか、ということについてもお互い対等の立場のはずですが、ご存じの通り、芸能事務所には伝家の宝刀「干す」があるので、実際には事務所の方が立場は強いのではないでしょうか。

 

労働契約のメリット・デメリット

労働基準法や最低賃金の観点から見ると、労働契約の範囲で完全歩合給を行うことは不可能です。

よって、タレントと労働契約を結ぶ場合、タレントからすると、まったく売れてなくても、契約がある限り賃金がもらえる、というのは大きなメリットでしょう。

一方、事務所からすると、売れないあいだはタダ飯を食わせることになるので損ですが、売れてしまえば、ガンガン仕事をさせても、一定の給与しか支払わなくても済むので、タレントが売れた後の利幅は大きくなります。

ただ、それだと、どんなに働いても給与が増えないとタレント側が不満を持ちやすいので、ある程度固定された給与にプラスして出来高分を支払うことも多いようです。

 

委託契約のメリット・デメリット

委託契約の場合、事務所側のメリットは、一切の固定費がかからない点です。

委託契約を結ぶタレントに仕事を見つけてあげれば、その何割かが事務所に転がり込むわけですが、仕事がない場合はそのタレントにギャラを支払うこともなければ、社会保険料を支払う必要もないからです。

逆に言えば、仕事のないタレントは事務所から一切お金をもらえないわけです。

タレント事務所が支払う必要があるとすれば、せいぜい、タレントにつけるマネージャーの給与くらいですね(売れないタレントの場合、マネージャーがタレントをいくつも掛け持ちすることが多いようですが)。

また、委託契約は、イコールで歩合給としないといけないわけではなく、あくまで事務所と個人事業主の契約のあいだでやった仕事量で報酬を決めるか、それとも月々の報酬を固定するのかを決めることができます。

よって、売れたら歩合制でドンと手取りが増えるか、といえば、それは事務所との契約によるわけです。

 

あの人・あの事務所は委託契約? 労働契約?

で、テレビやラジオ、ネットなどでは、どこどこの事務所は歩合制とか、誰々さんは給料制だとかという話が、噂レベルから、タレント本人が公言したものまでいろいろと出ています。

基本的に完全歩合給であれば、委託契約と考えてまず間違いないでしょうが、給料制や部分固定給などとされている場合に、必ずしも労働契約といえるか微妙なところです。

わたしなんかもそうですが、業務委託される場合、業務に応じて報酬が決まる場合もあれば(うちの業界で言う単発業務)、業務量にかかわらず一定の期間に応じて定額の報酬が支払われる場合(うちの業界で言う顧問契約)があるからです。

 

結局、ジャニーズはどうなの?

で、どうやらジャニーズというのは基本的には給料制、…らしい。ネット情報を見る限りね!

ジャニーズの給料はどのくらい?社員との差は?気になる仕組みを紹介!

ということは労働契約結んでる可能性があるな、と思ったら、ヤフー知恵袋にこんなのがあって、

ジャニーズはお給料制ではないのでしょうか?

V6の井ノ原快彦氏は国民健康保険に入っているらしい。

労働契約結んでて国民健康保険はおかしいので(あれだけの売れっ子で短時間勤務ということもないだろうし)、これが間違いなければ、ほぼ間違いなく委託契約ですが、いかんせん質問のソースも回答のソースも見つからなかったので、鵜呑みにできるのかどうなのか…。

よしもとなんかは、テレビやラジオの情報からでもあからさまに委託契約だとわかるので(芸人の方にそんな自覚はないだろうけど)、そのイメージのまま、ジャニーズも委託契約なんじゃないの? だとしたら、「退社」って言い方はおかしくない? と思って今回の記事を書き始めたのですが、いわゆる「炬燵ブログ」では事の真相にまではたどり着けませんでしたね…、委託契約の線が濃そうですが、なんというか、申し訳ないです。

でも、みなさんにとって身近な話題である芸能界のことを通じて、労働契約や委託契約のことなどを少しでも理解してもらえれば幸いです。
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さすがに、ジャニーズアイドルの画像を勝手に貼るのはまずいと思い、ここはあいだをとって(?)の森君です。森君の権利はどうなるんだという話ですが、Amazonアソシエイツを利用しての画像使用は基本的にその辺大丈夫になっているそうです(だから、ジャニーズの商品はAmazonでは誰一人写真が使われていない)。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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