労働保険・社会保険制度の解説

「18歳選挙権」の後に待ち受ける「18歳成人」で労働法や労働保険、社会保険はどうなるか?

2016年7月6日

今回の参院選では選挙権が従来の20歳から18歳に引き下げられたことが話題となっています。

で、この「選挙権は18歳から」の動きの後にあるのは「成人年齢18歳」であることは明白です。

選挙権のそれと比べると、反対意見もあるようですが、いずれにせよ、実質的な義務教育といえる(とかいいつつ、自分は卒業してないけど)高校卒業と成人のあいだに2年の間があるのはあまり意味があるようには思えません。

しかし、成人年齢が18歳となると、成人年齢は20歳であることを前提としてきた各種様々な国の制度は少なくない影響を受けることになります。

今回は労働法や社会保険法のなかで、この20歳という年齢が関わってくる規定について解説していきたいと思います。

 

労働法が受ける影響

労働基準法では

  • 20歳未満を「未成年者」
  • 18歳未満を「年少者」
  • 満15歳年度末までの子供を「児童」

としています。

15歳以上18歳未満の人を「年少者」と呼ぶわけではなく、18歳未満であれば、0歳から18歳までみんな「年少者」です。よって、17歳の子なんかは、未成年者であり年少者でもあります。

労働基準法では「児童→年少者→未成年者」となるごとに、規制が強くなります。

「児童」の場合、基本的には「使用不可」。つまり、働かせてはいけないわけです。

ただし、「所轄の労働基準監督署長の許可」と「学校長の証明書&親の同意書」があり「修学時間外」で「労働が軽易」な「一部の業種」に限っては就労することができます。

18歳未満の「年少者」の場合はどうかというと、就労制限等はないものの、満18歳未満の年少者がいる事業場は、その年令を証明する戸籍証明書を備え付けておく必要があります。

中卒で働く人もいますから、就業を制限することはないけれど、年齢だけはきちんと確認しておけ、というわけです。

 

未成年者への規制は2つ

では、20歳未満の「未成年者」の場合はどうかというと、規制は以下の2つ。

  • 親権者または後見人は未成年者に代わって労働契約を結んではならない
  • 親権者または後見人は未成年者に代わって賃金を受け取ってはならない

つまり、親が子供の意志を無視して働かせたり、その賃金を奪ってはならない、というわけです。

今の時代を生きる我々には当たり前のことですが、子供が労働力だった時代からの悪習を断つための規定となっています。

この2つの規定は、前述したように、18歳未満の「年少者」にも満15歳年度末までの子供である「児童」にも適用されます。よって、仮に成人年齢が18歳になったとしても、大きな影響はないかと。

労働基準法上の規定も「20歳未満」とは記載されておらず、単に「未成年」となっているので、成人年齢が20歳だろうが18歳だろうが条文を変える必要すらなさそうですし。

 

労災保険・雇用保険への影響

労災も雇用も、特に影響はなさそうです。

労災は年齢によって保護が受けられない、ということはありませんし、雇用保険の方も上限はあっても下限はなし。

よって、どちらも大きな影響はなさそう。

唯一あるとすれば、労災の遺族補償年金では、子や孫が受給賢者となった場合、その受給権は「18歳に達する日以後の最初の3月31日まで」で消滅してしまうというところ。

成年が満18歳になったとき、に変わると、この部分は変更が行われるかもしれません。

 

社会保険への影響

加入年齢

成人年齢が変更された場合、一体どうするのか、ちょっと想像がつかないのが社会保険、というより、年金です。

まず、現在の制度では、20歳になると国民年金に加入することになります。成人年齢が18歳になった場合に、一緒に加入年齢も繰り上げられるとすると、18歳からの加入となり、2年分国民年金の保険料を支払う期間が増えることになります。

この2年分で年金の額が増えるかどうかは知りませんが(多分増えない)。

 

障害基礎年金

国民年金ではこれ以外に「20歳前傷病による障害に基づく障害基礎年金」というものもあります。

障害基礎年金は基本的に国民年金の被保険者でないともらえませんが、未成年だとそもそも加入することができないため、未成年の頃から障害があるものに対する救済措置としてこうした年金があるのですが、成人年齢が引き下げられるのであれば、こちらも引き下げられるかもしれません。

 

遺族年金

また、労災にもあったように年金の方でも「18歳に達する日以後の最初の3月31日まで」という規定があります。高校を卒業するまで、を想定してのことですが、これらの規定への影響があるかもしれません。

原則、年金の受給権者が亡くなったときにその家族がもらえる遺族基礎年金や遺族厚生年金ですが、子や孫がもらう場合は、「18歳に達する日以後の最初の3月31日まで」という決まりがあります。

また、その子や孫が重い障害を持っている場合「20歳未満」まで年金をもらうことができます。ちなみに加給年金なんかも同様なのですが、どうなるのでしょうか。

 

こんなところです。

影響が大きそうなところをピックアップしたので抜けがあるかもしれませんがご了承を。

成人年齢が18歳が適用されそのまま労働法や社会保険法に適用されると、労働法や労働保険にはほとんど影響がなく、年金の方では負担が増える割に、受給額は減ることが多そうですね。

ただ、労働者を雇用する側の視点からすると、高卒の子を雇うと社会保険に入れないといけない、というのは今までどおりですし、それ以外も会社が大きな影響を受ける部分ではないので、あまり問題はないのかもしれません。

IMG_0800

名古屋のブロガー社労士の日記TOPへ戻る

良かったらシェアお願いします!

  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

-労働保険・社会保険制度の解説