労働保険・社会保険制度の解説

「成人年齢18歳」で労働基準法や労働・社会保険は何がどう変わったか

2016年7月6日

令和4年4月より成人年齢が18歳に引き下げられました。

すでに、選挙権に関しては2016年の時点で18歳に引き下げられていましたが、成人年齢についても同様に引き下げが行われたわけです。

では、これまで20歳からとされていた他の規制や制度も合わせて18歳からになるかというと、必ずしもそうではありません。

飲酒や喫煙、公営ギャンブルなどは従来通り20歳からです。こちらについては政府広報オンラインを見るとわかりやすいかと思います。

18歳から“大人”に!成年年齢引下げで変わること、変わらないこと。

一方、労働法や社会保険法についても、18歳や20歳といった年齢が関連してくる規定があるので、今回はそうした人事労務への成人年齢の引下げの影響について解説をしていきたいと思います。

 

労働基準法と成年年齢18歳

労働基準法には未成年者を雇用する会社に対する制限があります。

なので、成人年齢の変更は大きな影響がありそうですが、実際にはほぼありません。

ややこしい話になるので、成人年齢が20歳の時の制度から順に見ていきたいと思います。

 

成人年齢20歳の時だった頃の区分

労働基準法では18歳成人となるまで、以下のような区分となっていました。

  • 満15歳年度末までの子供「児童」
  • 18歳未満「年少者」
  • 20歳未満「未成年者」

ちょっとややこしいのですが、上記の区分では15歳以上18歳未満の人のみを「年少者」と呼ぶわけではありません。

18歳未満であれば、0歳から18歳までみんな「年少者」です。よって、17歳の子は、年少者に関する規定が適用される一方で、未成年者に対する規定も適用されていたわけです。

なので、もっと厳密に区分けするなら以下のようにになります。

  • 満15歳年度末までの子供「児童」(かつ年少者、かつ未成年者)
  • 18歳未満「年少者」(かつ未成年者)
  • 20歳未満「未成年者」

 

児童に対する制限

「児童」の場合、基本的には「使用不可」。つまり、働かせてはいけないわけです。

ただし、「所轄の労働基準監督署長の許可」と「学校長の証明書&親の同意書」があり「修学時間外」で「労働が軽易」な「一部の業種」に限っては就労することができます。

この児童の就労とその制限に関しては、テレビの子役なんかがわかりやすいところですね。

 

年少者に対する制限

次に18歳未満の「年少者」の場合はどうかというと、まず満18歳未満の年少者がいる事業場は、その年令を証明する戸籍証明書を備え付けておく必要があります。

また、働くことにおいても、法定時間外労働や、法定休日労働、深夜労働をさせることはできません。これは36協定を締結している場合も同様です。

ただし、災害等による非常時の時間外・休日労働(労働基準法33条)を行わせることは可能です。

変形労働時間制やフレックスタイム制についても原則適用はできませんが、以下のように変形させることは可能です。

  • 1週間の労働時間が法定時間内かつ、1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮して、他の日を10時間まで延長する場合
  • 1か月単位もしくは1年単位の変形労働時間制を、1日8時間、1週48時間の範囲内で変形させる場合

 

未成年者に対する制限

最後に、未成年者に対する制限ですが、こちらは以下の通りです。

  • 親権者または後見人は未成年者に代わって労働契約を結んではならない(労働基準法58条)
  • 親権者または後見人は未成年者に代わって賃金を受け取ってはならない(労働基準法59条)

つまり、親が子供の意志を無視して働かせたり、その賃金を奪ってはならない、というわけです。

今の時代を生きる我々には当たり前のことですが、子供が労働力だった時代からの悪習を断つための規定となっています。

この2つの規定は、前述したように、18歳未満の「年少者」にも満15歳年度末までの子供である「児童」にも適用されます。

 

成人年齢が18歳になって変わったこと

では、成人年齢が18歳になるとこの区分がどうなるかというと、以下のようになります。

  • 満15歳年度末までの子供「児童」(かつ年少者、かつ未成年者)
  • 18歳未満「年少者」(かつ未成年者)

すでに述べたとおり、年少者は未成年者の規定(具体的には労働基準法58条および59条)も適用されていました。児童についても同様です。

なので、成人年齢が18歳になっても、18歳未満の人に適用される法律が何か変わることは一つもありません。

唯一変わったことがあるとすれば、18歳以上~20歳未満の労働者を雇う会社に対し、未成年者に対する制限(労働基準法58条および59条)が適用されなくなったことだけです。

 

労災保険・雇用保険への影響

次に、労災保険・雇用保険、いわゆる労働保険に対する影響についてですが、こちらは成人年齢が変わっても、何も影響はありません。

労災保険についてはは年齢によって労災保険の給付等が受けられない、ということはありません。

また、雇用保険については、年齢にかかわらず条件を満たす限りは雇用保険に加入する必要があります。

 

社会保険への影響

年金や健康保険といった社会保険についても、成人年齢の変更による影響はありません。

基本的には成人年齢が変更される前の制度で定められている年齢を踏襲します。

例えば、国民年金の加入年齢は20歳から変更はありませんし、国民年金の制度として定められている「20歳前傷病による障害に基づく障害基礎年金」に関しても変更はありません。

 

まとめ

以上です。

成人年齢が20歳から18歳に引き下げられても、人事労務の分野にはほぼ影響はなかった、というのがわかっていただけたと思います。

今日(2023年)のあとがき

こちらはもともと元々の記事は選挙の年齢が18歳になったけど、成人年齢が18歳になるとどうなるの?という記事でした。

ただ、さすがに内容が古くなっていた一方で、改めて記事を書くには成人年齢が引き下がった時から時間が経ちすぎていたので、過去記事の全面リライトを選択しました。

ブログ記事は、時間がたつと過去の記録的な意味合いも出てくるので、時事に応じてリライトするかは迷うところもありますが、その辺は臨機応変という名の筆者のさじ加減でやっていく方針です。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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