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労働条件通知書とは|絶対的・相対的明示事項、最新改正対応完全ガイド

2025年12月2日

ブラック企業問題、働き方改革を経て、労働者側が企業に人事労務のコンプライアンスを求めることはごく当たり前のこととなりました。

それどころか、最近ではより厳しい目を向け、少しでも不備があるとそれをSNSで「晒す」ようなこともしばしば行われています。

そこで、今回は、労働者が会社のコンプライアンス意識を確認する上で、最初に触れる書類となる「労働条件通知書」について詳しく見ていきます。

 

1. 労働条件と労働条件通知書

1.1. 労働条件とは

労働契約を結ぶ際、会社は労働者に労働条件の通知を行わなければなりません。

ここでいう「労働条件」とは何かという話ですが、賃金や労働時間、だけではなく、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等「職場における労働者の一切の待遇」を含むとされています(昭和63年3月14日基発150号等)。

なので、「会社で年に1回、社員旅行に行く」みたいなことも、実は労働条件に含まれることになります。

 

1.2. 労働条件通知書とは

こうした労働条件の内容をまとめて、会社から労働者に対して交付される書類が「労働条件通知書」です。

この労働条件通知書については、労働基準法第15条およびこれに関連する省令の定めにより、賃金や労働時間など一定の条件は必ず書面で明示しなければならないと定められています。

(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

出典:労働基準法 | e-Gov 法令検索

 

2. 労働条件通知書は「いつ」「誰に」渡す必要があるか

この労働条件通知書ですが、「いつ」「誰に」渡す必要があるのでしょうか。

 

2.1. 労働契約締結・更新の際に、すべての労働者に

まず、労働契約の締結の際に、労働者に対して交付する必要があります。

正規か非正規か、契約期間に定めがあるかどうかにかかわらず、すべての労働者が交付の対象です

なお、労働者を雇用する中で労働条件を変更することがあると思いますが、このような場合、新しく労働条件通知書を交付する義務はありません。

 

2.2. 有期労働契約の更新時に、有期雇用労働者に

一方、有期雇用契約を更新する場合、それは新しい労働契約を再度締結し直していることになるので、新しい労働条件通知書が必要となります。

 

 

3. 絶対的明示事項

労働条件には、必ず労働者に対して明示しなければならない絶対的明示事項と、会社に該当する制度等がある場合に明示しなければならない相対的明示事項があります。

また、基本的に書面による明示が必要なのは絶対的明示事項のみなのですが、実務上は、相対的明示事項も含めて労働条件通知書に記載し、これを交付するのが一般的です。

まず、絶対的明示事項ですが、以下のとおりとなります。

  1. 労働契約の期間
  2. 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間または有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む)
  3. 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項(就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲を含む)
  4. 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項(就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲を含む)
  5. 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇(育児・介護休業を含む)、労働者を2組以上に分けて交代で就業させる場合においては就業時転換
  6. 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算、支払の方法、賃金の締切り、支払い時期および昇給
  7. 退職(解雇の事由を含む)

上記の絶対的明示事項のうち「昇給」のみ、書面での明示が義務とされていませんが、上述したように基本的には労働条件通知書に、その記載を行います。

 

3.1. 就業の場所、従事すべき業務の変更の範囲(令和6年4月改正)

上記の、絶対的明示事項のうち、就業の場所、従事すべき業務の「変更の範囲」については、労働条件通知書で決めた範囲以外で働かせられないのか、と思って、これを定めることに抵抗のある人もいるでしょう。

しかし、実際にはある程度の範囲に限定する場合と、なるべく限定しない形のどちらも可能です。

就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を限定する場合

就業の場所 (雇入れ直後)○○支店  (変更の範囲)東京23区内
従事すべき業務の内容 (雇入れ直後)法人顧客を対象とした営業 (変更の範囲)営業

就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を限定しない場合

就業の場所 (雇入れ直後)○○支店  (変更の範囲)会社の定める就業場所
従事すべき業務の内容 (雇入れ直後)法人顧客を対象とした営業  (変更の範囲)会社の定める業務

 

 

4. 相対的明示事項

次に、相対的明示事項は以下のとおりとなります。

  1. 退職手当(適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払方法、支払時期)
  2. 臨時の賃金等(退職手当を除く)および最低賃金額
  3. 労働者に負担させる食費、作業用品等
  4. 安全および衛生
  5. 職業訓練
  6. 災害補償および業務外の傷病扶助
  7. 表彰および制裁
  8. 休職

実は、労働条件通知書の絶対的明示事項と相対的明示事項については、就業規則の絶対的必要記載事項および相対的必要記載事項と共通する部分が多いです。

そのため、実務上は労働条件通知書に該当する就業規則の条文番号を記載することも少なくありません。

一方で、労働契約の期間と期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準(有期契約の場合)、就業の場所、従事すべき業務、所定労働時間を超える労働の有無に関しては、個々の労働者によって異なるため、個別に明示する必要があるというふうに役割が分かれています。

 

 

5. 有期雇用労働者への明示事項について

有期雇用労働者への明示事項については複雑な部分があるので、他とは分けて説明します。

 

5.1. 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項

まず、労働条件通知書の絶対的明示事項とされている「有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項」ですが、こちらはその労働者が有期雇用労働者の場合のみ絶対的明示事項となります。

なので、有期雇用労働者でない労働者に対して「基準はない」といった記載は不要です。

 

5.2. 通算契約期間または更新回数の上限の明示(令和6年4月改正)

有期労働契約を更新する場合の基準の他に、「通算契約期間または更新回数の上限」がある場合、会社は有期雇用労働者にそれを明示する必要があります。

また、更新上限を新設または短縮する場合、その理由を有期契約労働者にあらかじめ(更新上限の新設・短縮をする前のタイミングで)説明する必要もあります。

 

5.3. 「無期転換申込機会の明示」「無期転換後の労働条件の明示」(令和6年4月改正)

有期契約労働者に関しては他に、無期転換申込権が発生する契約の更新の際は「無期転換申込機会の明示」「無期転換後の労働条件の明示」も明示しなければなりません。

無期転換とは、有期契約の契約期間が通算で5年を超えると有期契約労働者に無期転換申込権が発生し、労働者側の申込みによって無期転換が行われものです。この無期転換の申込みが遭った場合、会社側はこれを拒否することはできません。

 

無期転換申込権が発生するのはいつから?

ただ、注意点として、労働者からの無期転換の申込は通算契約期間が5年を超えないと申込みできないわけではありません。

無期転換申込みは、その契約が満了した時点で通算契約期間が5年を超える契約期間中に発生します。

例えば、1年契約を更新する場合、5年目の契約を満了した時点(契約を締結1回+更新4回)ではちょうど通算契約期間はちょうど5年なので、無期転換申込権は発生しません。

しかし、その次の契約更新をまた1年で行うと、その契約を満了する時点で通算契約期間が6年となり5年を超えるため、この契約期間中は無期転換申込みが可能となります。

一方、3年契約の場合、最初の契約更新の段階で、更新する契約が満了する段階で通算契約期間が6年となります。

なので、1回目の3年契約を満了し、2回目の3年のあいだは無期転換申込みが可能となります。

 

「無期転換申込機会の明示」「無期転換後の労働条件の明示」は無期転換申込権が発生する契約更新時に明示

実は「無期転換申込機会の明示」「無期転換後の労働条件の明示」は、こうした無期転換申込権が発生する契約更新のときにのみ行うものとなります。

例えば、3年ごとの契約の場合、以下の図のようになります。

「無期転換申込機会の明示」とは、簡単にいうと、有期雇用労働者に対し、無期転換という制度があってそれが可能ですよ、と教えることです。一方、「無期転換後の労働条件の明示」とは、そのままですが無期転換後の労働条件を明示するものとなります。

なお、仮に労働者側が無期転換申込みをしなかった場合、その労働者が退職するのでない限り、また次の有期の労働契約の更新を行うことになると思いますが、このときもまた「無期転換申込機会の明示」「無期転換後の労働条件の明示」が必要となるので注意が必要です。

 

5.4. 書面による明示

有期雇用労働者に対する「有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項」「通算契約期間または更新回数の上限の明示」については、書面による明示が必須です。

また、無期転換申込権が発生する契約更新時の「無期転換申込機会の明示」についても同様です。

一方「無期転換後の労働条件の明示」については、通常の労働条件の明示の際に書面による明示が必要とされているものは、書面による明示が必要となります。

 

 

6. 労働条件通知書の交付方法

労働条件通知書の交付方法は原則書面によって行う必要があります。

ただし、労働者が希望した場合は、電子的な方法での通知も可能です。電子的な方法とは、具体的には以下のものをいいます。

  1. FAX
  2. Eメールや、Yahoo!メール、Gmail等のWebメールサービス
  3. LINEやメッセンジャー等のSNSメッセージ機能 等

ただし、送信する際は、出⼒して書面を作成できるものである必要がありますが、その際、労働者の個人的な事情(要はPCの環境等)まで考慮する必要はありません。一般的に出⼒可能な状態であれば、出⼒して書面を作成できると認められます。

なお、労働者のブログや個人のホームページへの書き込みなど、第三者が閲覧できる場所での明示は認められません。

 

 

7. 労働条件通知書の書式例

労働条件通知書の書式については、厚生労働省がこれを公表しています。

上で述べた絶対的明示事項や相対的明示事項はすべて網羅されているため、こちらを利用するのがいいでしょう。

【一般労働者用】労働条件通知書(リンク先PDF 出典:主要様式ダウンロードコーナー 厚生労働省

なお、厚生労働省のHPでは、一般労働者用だけでなく、短時間労働者や派遣労働者用のものも用意されています。

 

 

8. 労働条件通知書を使う場合の注意点

8.1. そもそも雇用契約書でなくていいのか

こちらの記事にもありますが、労働条件通知書はあくまで、「労働条件」のみを記載したものになります。

一方、雇用契約書に関しては、それ以外の条件も、労使間で「約束」することができます。

また、雇用契約書に絶対的明示事項および相対的明示事項の記載があれば、それは労働条件通知書としても機能するため、本当に労働条件通知書でいいのか、雇用契約書でなくて大丈夫かは検討した方がよいでしょう。

 

8.2. 労働者から「労働条件通知書はないのか」と言われた

このように労働者から言われる理由は主に2つ。

会社が単純に渡していないのか、もしくは渡しているのに労働者側がそれに気付いていないかです。

会社が渡してないのが単なる手続き上のミスであれば、労働者に謝罪してきちんと渡せば基本的に問題ないでしょう。ただ、そもそも渡す気がないとなるとそれは法令違反ですし、コンプライアンス意識の低さも露呈することになるため、労働者側から愛想を尽かされる可能性もあります。

労働者が気付いていない理由については、郵送で送ったけど郵便事故できちんと届いてない、メールで送ったけど迷惑メールに振り分けられた、雇用契約書を労働条件通知書にしているがそのことが労働者にきちんと伝わっていなかったなど、いくつも理由が考えられますが、実際にどうなのかは1つずつ確認していくしかないでしょう。

 

 

9. 最後に

労働条件通知書の作成には法的根拠の正確な理解が求められます。特に書式や記載内容に不備があると、労使トラブルや労基署からの是正勧告につながりかねません。

一方で、労働条件通知書や雇用契約書がきちんと作成されていれば、こうしたリスクを回避することができます。

そして、社会保険労務士はこうした対応のプロですので、ご依頼していただくことで、

  • 法改正への確実な対応
  • 自社に適した運用方法の提案
  • トラブルの未然防止

が可能となり、企業リスクを大幅に軽減できます。

大丈夫かな、不安だな、とお思いの方は、以下からお問い合わせください。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。 「会社の成長にとって、社員の幸せが正義」をモットーに、就業規則で会社の土台を作り、人事制度で会社を元気にしていく、社労士兼コンサルタント。 就業規則作成のスペシャリストとして豊富な人事労務の経験を持つ一方、共著・改訂版含めて7冊の著書、新聞や専門誌などでの寄稿実績100件以上あり。

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