労働保険・社会保険制度の解説

労働法や社会保険から見る個人事業と法人の違い

2016年7月5日

個人事業として起こした事業の規模が大きくなると、このまま個人事業として続けていくのか、法人成りするのか、つまり会社を設立するのかで迷う人も多いでしょう。

では、個人事業の場合と、法人の場合とで、労働法の適用や、労働保険や社会保険の加入条件や保険料は変わってくるのでしょうか。

最初に断っておきますが、基本的に個人事業として続けていくか、法人成りするかは「税金」を中心に考えるべきで、労働保険や社会保険のことは取り敢えず脇においておいていいと思います。ただ、それらを見比べても甲乙つけがたい、という方は、今回の記事を参考にされてはいかがでしょうか。

 

労働基準法などの労働諸法令

労働基準法をはじめとする労働諸法令では、基本的に、個人事業か法人かで適用が除外されるようなことはありません。

そもそも、労働基準法では会社ごとではなく「事業所」別に適用するかをみます。

ここで言う「事業」とは「業として継続的に行われているもの」を指し、「所」とは場所を指します。

つまり、「事業所」とは「事業が行われている場所」というわけです。

そのため、「事業が行われている場所」であれば、本社か支社か営業所か、といったことは問わず、同じ法人であってもそれぞれの事業所ごとに適用が行われます。

ちなみに、行政の通達では、労働基準法の適用事業とは「原則として事業の種類を問わず、労働者を使用するすべての事業で適用される(平11.1.29基発45号)」となっており、見ての通り、個人か法人かどうかに全く触れていません。

結局、人を雇用する限り、個人であろうと法人であろうと労働基準法の適用を逃れることはできないわけです。

なので、個人事業であっても、労働者が10人以上いるのであれば就業規則を作成しないといけないわけです。

 

労災保険・雇用保険

労災保険や雇用保険も基本的には労働基準法と同じ、個人か法人かで適用が左右されることはありません。

労災保険も雇用保険も「労働者を使用する(雇用する)事業」は原則、強制適用事業とされるためです。

よって、法人成りしても社長1人しかいないなら労災保険や雇用保険に加入する必要はないし、個人事業でも1人でも人を雇うのであれば、労災保険と雇用保険に加入する必要があります。

ちなみに、雇用保険の適用除外の人しか雇用していない場合でも、労災保険はともかく、雇用保険の適用を受ける必要はあるのでしょうか。

雇用保険法第5条を見ると、

雇用保険法

第五条  この法律においては、労働者が雇用される事業を適用事業とする。

「労働者が雇用される事業」とあり「被保険者が」となっていません。

つまり、雇用保険の適用除外者しかいない事業所でも、人を雇うのであれば雇用保険に加入する必要があります。もちろん、ここでも、法人・個人は問いません。

 

気をつけるべきは社会保険

個人か法人かで、最も影響が大きいのが社会保険です。

社会保険は法人の場合、強制適用となります。

一方、個人の場合「法定16業種の事業所」であって「常時5人未満の従業員」しかいない場合は、任意適用となります。つまり、加入するしないを選べるわけです。

法定16業種とは以下のものですが、

  1. 物の製造、加工、選別、包装、修理又は解体の事業
  2. 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
  3. 鉱物の採掘又は採取の事業
  4. 電気又は動力の発生、伝導又は供給の事業
  5. 貨物又は旅客の運送の事業
  6. 貨物積みおろしの事業
  7. 焼却、清掃又はと殺の事業
  8. 物の販売又は配給の事業
  9. 金融又は保険の事業
  10. 物の保管又は賃貸の事業
  11. 媒介周旋の事業
  12. 集金、案内又は広告の事業
  13. 教育、研究又は調査の事業
  14. 疾病の治療、助産その他医療の事業
  15. 通信又は報道の事業
  16. 社会福祉事業及び更生保護事業

いっぱいありすぎてわけわからんし、実際には16業種以上あるじゃねえか、とお思いの方のために大雑把にまとめると、

  1. 第一次産業
  2. サービス業
  3. 法務業
  4. 宗教業

となります。

もちろん、この法定16業種に当てはまる事業所でも、法人であれば、従業員の数にかかわらず社会保険の適用を受けなければなりません。

社会保険は保険料も大きいので特に注意が必要です。

 

代表者がその保険に加入できるかどうか

社会保険では、会社の保険の適用以外でもう一つ大きく異なるのが、代表者が被保険者になれるかどうか、です。

個人の場合、その個人事業自体が社会保険の適用を受けていたとしても、代表者は健康保険や厚生年金に加入することはできません。一方、法人の代表者の場合は社会保険の被保険者になることができます。

社会保険は誰かに使用されていないと加入できないわけですが、法人の代表者の場合「法人に使用されている」と考えるからです。

ちなみに、雇用保険の場合、個人事業の代表者、法人の代表者ともに加入することはできません。ただし、代表取締役以外の法人の役員で労働者的性質がある役員の場合は加入することができます。

 

以上となります。

簡単にまとめると、労働法や労働保険は個人か法人かはほぼ関係なく、社会保険では代表者が保険に加入するかどうかと、あとは「業種」によっては考えないといけない点がある、ということです。

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事業を拡大していくつもりなら、法人化しない理由はないとは思いますが

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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