労働保険・社会保険制度の解説

平成28年10月以降明確化される大企業で働く学生と中小企業で働く学生の違いとは?

2016年6月1日

昨日の続き

さっそくですが、会社の経営者・人事労務担当者の方や、学生のみなさん、知ってましたか?

学生でも条件をみたす限り社会保険に加入しないといけないということ。

これ、雇用保険のほうが学生を適用除外としているため、意外と勘違いしやすいんですが、社会保険の場合は学生には適用しない、という決まりは今までありませんでした。

しかし、今年の10月より社会保険の適用拡大によって、以下のとおり、学生は社会保険の適用を除外されることとなりました。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上
  2. 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
  3. 1年以上継続して雇用される見込みがある
  4. 被保険者の数が501人以上の企業
  5. 学生でない

以上の1.~5.のすべてを満たす場合、その労働者は社会保険に加入しなければなりません。

 

赤枠の5番のとおり、学生である時点で、社会保険への適用はありません。大企業(被保険者の数が501人以上の企業)なら、ですけどね

※ ここで言う「学生」とはいわゆる昼間学生のこと。夜間や定時制等に通う学生は除く

 

法律で明確化される「4分の3」

昨日の記事の最後でもちらっと触れましたが、被保険者数が500人以下の企業では、平成28年10月以降も「通常労働者の4分の3」の労働時間・日数が加入・非加入の分岐点となります。

で、この「通常労働者の4分の3」という条件、実は法律で決まっているものではありません。「内かん」という行政通達で厚生労働省(当時は厚生省)が内部で勝手に決めた基準に過ぎませんでした。

しかし、今回の法改正に合わせて、こちらも法定化。以下のように変更されました。

4分の3

 

参照:リーフレット「事業主の皆様へ 短時間労働者に対する適用拡大が始まります」(リンク先PDF 参照:日本年金機構)

1日の労働時間を見るのをやめ、週の所定労働時間と月の所定労働日数だけで見る、というのが大きな変更ですね。

また、「おおむね」という言葉が削除されたり、(b)の内容が丸々削除されるなど、裁量的な被保険者の適用・不適用ができなくなっています。

 

働き者の学生に注意

で、話は冒頭に戻るのですが、今回の法改正で、被保険者数500人以下の企業で働く学生は、平成28年10月以降、通常労働者の4分の3以上働いても社会保険に加入する必要はないのでしょうか?

答えは×。

学生であろうと、通常労働者の4分の3以上の時間と日数働くのであれば、平成28年10月以降も社会保険には加入しないといけません。

厚生年金保険法

第十二条
五  事業所に使用される者であつて、その一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成五年法律第七十六号)第二条に規定する通常の労働者(以下この号において「通常の労働者」という。)の一週間の所定労働時間の四分の三未満である同条に規定する短時間労働者(以下この号において「短時間労働者」という。)又はその一月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の一月間の所定労働日数の四分の三未満である短時間労働者に該当し、かつ、イからニまでのいずれかの要件に該当するもの
イ 一週間の所定労働時間が二十時間未満であること。
ロ 当該事業所に継続して一年以上使用されることが見込まれないこと。
ハ 報酬(最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)第四条第三項各号に掲げる賃金に相当するものとして厚生労働省令で定めるものを除く。)について、厚生労働省令で定めるところにより、第二十二条第一項の規定の例により算定した額が、八万八千円未満であること。
ニ 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第五十条に規定する高等学校の生徒、同法第八十三条に規定する大学の学生その他の厚生労働省令で定める者であること。

 

そうなると平成28年10月以降、学生は、大企業で働く場合は社会保険に入らなくて良くて、中小企業だと入らないといけない場合がある、ということが起こりえます。

うーん、なんかおかしいというか、わたしだって、疑問がないわけではないですが、ただ、学生の身分で通常労働者の4分の3以上働くってのは相当なことなので、まあ、仕方ないのかなあとも思います。

ちなみに大企業でアルバイトする学生の場合でも、4分の3以上働くと加入要件を満たすので注意。特定適用事業所だからといって、4分の3ルールの適用がなくなるわけではないのです。

いずれにせよ、働き者の学生さんがいらっしゃる会社の方はお気をつけ下さい。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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