同一労働同一賃金

支給基準の見直しが必要? 同一労働同一賃金ガイドラインと「賞与」

2019年2月28日

今回は学校法人大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)の事件の判決と、同一労働同一賃金ガイドラインとの関係についてです。

 

アルバイトへの賞与不支給は違法と判決

1審から逆転

正職員とアルバイト職員とで賞与の支給の有無があるのは不合理な待遇格差に当たるとして、アルバイト職員が訴えた学校法人大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)の事件。

1審ではアルバイト側の請求は棄却されたものの、今月中旬に出た高裁の判決ではアルバイト側の請求認める判決が出たことが大きな話題となっています。

「アルバイトへのボーナス不支給は違法」、大阪医科大が一転敗訴 大阪高裁判決

わたし自身も判決文そのものは見れていないので、各メディアの報道から裁判所の判断基準を推量するしかありません。

ただ、報道で「法人が正職員に一律の基準で賞与を支給していた」とされている点は、今後の「同一労働同一賃金」を考える上で非常に重要であると考えられます。

 

同一労働同一賃金ガイドラインを肯定する判決

なぜなら、今回の判決の考え方は、昨年末(2018年末)に厚生労働省が公表した「同一労働同一賃金ガイドライン」を肯定するものだからです。

同一労働同一賃金ガイドライン(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

では、同一労働同一賃金ガイドラインで「賞与」はどのように規定されているのでしょうか。

 

「同一労働同一賃金ガイドライン」と「賞与」の大前提

同一労働同一賃金ガイドラインの前提

まず、本題に入る前の大前提として、「同一労働同一賃金ガイドライン」とはグローバルスタンダードな意味での「同一労働同一賃金」を目指すものではありません。

あくまで、正規と非正規の格差を是正するため、基本給や手当、賞与などの決め方について、正規と非正規で不合理と認められるような待遇の格差が生まれないよう、その基準を示したものです。

これは同一労働同一賃金ガイドラインの正式名称が「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」であることからも明らかで、同一労働同一賃金ガイドラインが示す同一労働同一賃金とは日本型同一労働同一賃金と言う向きもあります。

 

賞与の前提

また、賞与は企業等によって様々な異なる理由で支払われており、同じ「賞与」「ボーナス」という名称でも性格が異なることも少なくありません

賞与をその性格や支給目的別に分けると、一般的に以下のように分類できるとされています。

  • 功労報償的性格
  • 収益分配的性格
  • 生活給的性格
  • 意欲向上目的

上記のうち、労務管理上で気をつける必要があるのが賞与が「生活給的性格」を持ってしまう場合です。賞与が「生活給的性格」を持ってしまうと、賞与の額を引き下げたり、貢献や業績等によって支給を取りやめることが難しくなるからです。

 

同一労働同一賃金ガイドラインにおける賞与

では、いよいよ同一労働同一賃金ガイドラインにおける賞与について触れていきたいと思います。

同一労働同一賃金ガイドラインでは賞与について、以下のように説明されています。

2 賞与
賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない。

出典:同一労働同一賃金ガイドライン

政府の同一労働同一賃金ガイドラインにおける賞与では「会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するもの」についてのみ言及されています。

先ほどみた4つの性格のうち「功労報償的性格」についてのみ記載されているわけです。

そして、「労働者の貢献」が同じなら同一の、異なるならその相違に応じた賞与の支給を求めています。

 

同一労働同一賃金ガイドラインにおける賞与支給の問題となる場合、ならない場合

同一労働同一賃金ガイドラインではそれぞれの項目ごとに、基本的な考えを述べた上で、問題となる例・問題とならない例の具体例が記載されています。賞与の場合は以下の通りです

(問題とならない例)

イ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給している。

ロ A社においては、通常の労働者であるXは、生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っており、当該目標値を達成していない場合、待遇上の不利益を課されている。その一方で、通常の労働者であるYや、有期雇用労働者であるZは、生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っておらず、当該目標値を達成していない場合にも、待遇上の不利益を課されていない。A社は、Xに対しては、賞与を支給しているが、YやZに対しては、待遇上の不利益を課していないこととの見合いの範囲内で、賞与を支給していない。

 

(問題となる例)

イ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給していない。

ロ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。

出典:同一労働同一賃金ガイドライン

具体例の中でも最も示唆に飛んでいるのが「問題とならない例のロ」です。

職務への責任とそれを達成しなかった場合にペナルティのある通常の労働者と、そうしたペナルティを追っていない他の通常の労働者や有期雇用労働者がいた場合に、両者の間で支給に一定の差を設けることは問題ないとガイドラインでは示しているわけです。

こうした考えは賞与に限らず、広く成果給に対する考え方として同一労働同一賃金ガイドラインでは規定されており、今後の正規と非正規の賃金を考える上で重要になると思われます。

 

同一労働同一賃金ガイドラインと事件を照らし合わせてみる

本件の賞与も大きな意味で「貢献」に対して支給

では、今回メディアで報道された大阪医科大学の事件の概要と、今回の同一労働同一賃金ガイドラインの内容を照らし合わせてみるとどうでしょうか。

同一労働同一賃金ガイドラインでは「貢献」に対して支払われる賞与についてのみ解説されています。

では、今回の事件での賞与の性格はどうかというと正社員に対して「就労したこと自体のボーナス」といった形で支給が行われており、大きな意味では「貢献」に対して支払われていたと考えることができます。

 

同一労働同一賃金ガイドラインの「問題となる例」と照らし合わせる

今回の件を踏まえて、同一労働同一賃金ガイドラインを見てみると「問題となる例 ロ」が、本件とほぼ同じ事例であることがわかります。

(問題となる例)

ロ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。

出典:同一労働同一賃金ガイドライン

本件では「就労したこと自体」に対して正社員に賞与を支給していました。

「就労したこと自体」に支給していたということは「会社の業績等への貢献等にかかわらず」賞与を支給していたことになります。

にもかかわらず、非正規には支給しないという対応は問題がある、というわけです。

また、そもそも今回の事件での賞与の性格は正社員という「身分」に対して支払われていたと考えられます。

これは「雇用形態又は就業形態に関わらない公正な待遇を確保」という日本型同一労働同一賃金の前提を考えるとそもそも問題があるといえます。

 

最後に判断するのは司法(裁判所)

以上です。

同一労働同一賃金ガイドラインは行政が作成したものであり、今回の事件の判断を行っているのは司法(裁判所)です。

三権分立である以上、常に裁判所が同一労働同一賃金ガイドラインに則った判断をするかは未知数ですが、今回の件を見る限り賞与についてはガイドラインにかなり近い判断がなされる可能性が高いといえるでしょう。

ちなみに同一労働同一賃金ガイドラインの適用は改正短時間・有期雇用労働法の施行と同時期であるため、大企業では来年(2020年)4月、中小企業では再来年(2021年)4月からなのですが、すでに同一労働同一賃金ガイドラインの内容に近い判断が出ている点にも注意が必要です。

一方で、同一労働同一賃金ガイドラインで示されているとおり、いついかなる状況・条件でも非正規に賞与を支給しなければならないかというと、必ずしもそうではないので、会社としてどのように対応していくか考えていく必要があるでしょう。

 

追記:同一労働同一賃金ガイドラインの内容について、他の項目についても解説記事を書いているのでよろしければご覧ください

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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