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同一労働同一賃金 働き方改革

役職手当や家族手当など、同一労働同一賃金ガイドラインにみる「諸手当」の考え方

日本の同一労働同一賃金は諸手当から始まる

今回は同一労働同一賃金の本丸ともいえる「諸手当」について。

日本の同一労働同一賃金は手当から始まっていく、といわれている理由を同一労働同一賃金ガイドラインや直近の判例を基にみていきたいと思います。

以下は同一労働同一賃金ガイドラインを読む上での大前提となる考え方となるので、一通り目を通しておくと、後の解説がわかりやすくなります。

同一労働同一賃金ガイドラインの大前提

  • 日本版同一労働同一賃金はあくまで「正規と非正規」の格差是正を目指すもの
  • 同一労働同一賃金ガイドラインは、その名称とは裏腹に、同一労働同一賃金を導入するためのマニュアルとは言いがたい
  • 法律上、正規と非正規の待遇の相違として判断基準となるのは「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他」
  • 同一労働同一賃金ガイドラインでは、この3つの相違等を踏まえ、正規と非正規の待遇の相違について、どのようなものであれば問題がなく、どのような場合だと問題があるかが記載されている
  • 同一労働同一賃金ガイドラインに法的な拘束力はないが、労使間で争いになった場合、ガイドラインの内容の通り、あるいは近い判断が行われる可能性が高い

同一労働同一賃金ガイドラインの全文

同一労働同一賃金ガイドライン(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

 

すでに解説済みの基本給、賞与については以下をご参照ください。

同一労働同一賃金ガイドラインにみる「基本給」の考え方

同一労働同一賃金ガイドラインにみる「賞与」の考え方

 

諸手当の前提

手当には様々な種類がある上、同じ性質のものでも会社によって名称が異なる場合があります。

共通していえるのは「労働の対価」というよりは、「何かしらの条件」を満たした労働者に対して支払われるものであること。

例えば、「役職手当」なら役職についていることが支給条件ですし、「家族手当」の場合は(会社が定める特定の)家族がいることが支給条件となっています。

時間外手当や休日手当、深夜手当は「労働の対価」としての性質もありますが、メインは「法定労働時間を超えて働いた場合」や「法定休日に働いた場合」「深夜に働いた場合」という条件を満たしたことに対して支払われるものとなっています。

 

諸手当と正規と非正規

日本の雇用慣行では雇用形態で支給されていた諸手当

直接の労働以外の「何かしらの条件」が満たされたときに支払われるのが「手当」、というのが同一労働同一賃金ガイドラインの考えです。

一方で、日本の賃金慣行では多くの場合、手当支給についてはもっと大きな大前提があります。

それが「雇用形態」です。

 

本来の手当の形に立ち返る必要あり

「何かしらの条件」が満たされるかどうかを判断する前に、正規か非正規かという雇用形態がどうかで、ある手当を支給するかどうかを決める、というのが日本の会社ではごくごく普通に行われています。

しかし、本来、手当の支給条件が例えば「ある役職に就いている」という場合に、雇用形態がどうであるかは関係ありません。その役職に就いているかどうかで支給するかどうか決めればいいだけの非常にデジタルな話です。

また、ある手当の支給条件が「危険な作業を行う場合」となっていたとして、非正規がその危険な作業を行った場合に、危険な作業が危険でなくなるわけでもありません。

このため、同一労働同一賃金ガイドラインでは、「何かしらの条件」を満たすことを理由に支払う手当については、正規と非正規で不合理と認められるような待遇格差を設けることは問題があるとしています。

 

同一労働同一賃金ガイドラインと諸手当

同一労働同一賃金ガイドラインで例示されている手当

同一労働同一賃金ガイドラインでは以下の手当について、解説がなされています。問題となる例、ならない例は手当によって、あったりなかったりします。

  1. 役職手当
  2. 特殊作業手当
  3. 特殊勤務手当
  4. 精皆勤手当
  5. 時間外労働手当
  6. 深夜・休日労働手当
  7. 通勤手当・出張旅費
  8. 食事手当
  9. 単身赴任手当
  10. 地域手当

手当によって細かな違いはあるものの、いずれの手当も「同一の支給要件を満たす」場合、雇用形態にかかわらず同一の支給が必要であると、ガイドラインでは述べられています。

 

労働時間や地域物価に比例させるのは問題なし

ただし、例えば、所定労働時間が短い短時間労働者に役職手当を支給する場合、その所定労働時間の長さに比例した額を支給することは問題ないとしています。

また、異動のある正社員に地域手当を支給する一方で、現地採用の短時間・有期雇用労働者には基本給にその地域の物価が織り込まれている場合なども、支給がなくても問題ないとしています。

つまり、「雇用形態」を理由に支給・不支給を決めることは問題がある一方で、「雇用形態」によって変わってくる「働き方(労働条件)」に合わせて支給内容を変更する、ということは可能なことがある、ということです。

賞与と基本給の時は同一労働同一賃金ガイドラインの本文を引用していましたが、今回はさすがに数が多いので、代表的なものを2つだけ引用。

他が気になる方は本文をチェックしてみてください。

同一労働同一賃金ガイドライン(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

 

役職手当

役職手当であって、役職の内容に対して支給するもの役職手当であって、役職の内容に対して支給するものについて、通常の労働者と同一の内容の役職に就く短時間・有期雇用労働者には、通常の労
働者と同一の役職手当を支給しなければならない。また、役職の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた役職手当を支給しなければならない。

(問題とならない例)
イ 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名(例えば、店長)であって同一の内容(例えば、営業時間中の店舗の適切な運営)の役職に就く有期雇用労働者であるYに対し、同一の役職手当を支給している。

ロ 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く短時間労働者であるYに、所定労働時間に比例した役職手当(例えば、所定労働時間が通常の労働者の半分の短時間労働者にあっては、通常の労働者の半分の役職手当)を支給している。

(問題となる例)
役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く有期雇用労働者であるYに、Xに比べ役職手当を低く支給している。

役職手当を支給するのであれば、雇用形態にかかわらず「役職」に就いている人にそれを支給しなさい、というのが基本的な考え方です。

ただし、問題とならない例のロのように、通常の労働者よりも所定労働時間が短いのであればそれに比例した額を支給するのは問題ないとしています。

一方で、問題となる例であるように、雇用形態によらず支給廃しているものの、雇用形態によって「不当に低く」支給するのは問題であるとしています。

 

通勤手当及び出張旅費

短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。

(問題とならない例)
イ A社においては、本社の採用である労働者に対しては、交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給しているが、それぞれの店舗の採用である労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定して当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給しているところ、店舗採用の短時間労働者であるXが、その後、本人の都合で通勤手当の上限の額では通うことができないところへ転居してなお通い続けている場合には、当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給している。

ロ A社においては、通勤手当について、所定労働日数が多い(例えば、週4日以上)通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者には、月額の定期券の金額に相当する額を支給しているが、所定労働日数が少ない(例えば、週3日以下)又は出勤日数が変動する短時間・有期雇用労働者には、日額の交通費に相当する額を支給している。

問題とならない例のイは労働者本人の都合で、会社の定める交通費の上限を超える交通費が必要となる場所へ転居した場合に、会社は上限を超えて交通費を支払う必要ないと言うことが書いてあります。

これは同一労働同一賃金のみならず、通勤手当全般に通ずる考え方です。

一方のロは、短時間・有期労働者で、出勤日数が通常の労働者よりも短い場合に、その出勤日数に応じた交通費の支給をするのは問題ないということを示しています。

 

家族手当、住宅手当の扱い

家族手当・住宅手当については具体例なし

同一労働同一賃金ガイドラインでは、比較的一般的な手当であるにもかかわらず、解説や具体例が載っていない手当が存在します。

それが家族手当と住宅手当です。

同一労働同一賃金ガイドラインにおける家族手当と住宅手当については、以下のように記載があるだけです。

なお、この指針に原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる。このため、各事業主において、労使により、個別具体の事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれる。

同一労働同一賃金ガイドライン(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

なんというか、そんなに言うならちゃんと解説と具体例を書いておけ、と言いたくなる内容ですよね。

人の会社の給与に口出ししておいて、肝心な、こっちが知りたいことになると「おまえらで考えろ」と言うのはフェアでないというか、個人的にとても気にくわないやり口です。

 

同一労働同一賃金ガイドラインと最新の判例

ハマキョウレックス事件が示唆するもの

日本型同一労働同一賃金においては、各賃金項目ごとに、その支給の相違が不合理な待遇差になっていないかをみます。

こうした考えは2018年6月1日に出た、「ハマキョウレックス事件」と「長澤運輸事件」の2つの最高裁判決によって確立されたものです。

特に「ハマキョウレックス事件」では正規と非正規でほぼ同様の業務を行っていたにもかかわらず、手当の支給に相違があるのは不合理な待遇の格差であると判断しました。

  1. 無事故手当 ○
  2. 作業手当 ○
  3. 給食手当 ○
  4. 住宅手当 ×
  5. 皆勤手当 ○
  6. 通勤手当 ○
  7. 家族手当 -
  8. 賞与   -
  9. 定期昇給 -
  10. 退職金  -

○:不合理な相違と判断 ×:不合理とは認められないと判断 -:判断なし

上記の通り、ハマキョウレックス事件では、手当の支給について会社側にかなり厳しい判断が出ています。一方の長澤運輸事件では非正規側が定年後再雇用された労働者であることを理由に、正規と非正規で手当の支給に相違があることについて、「精勤手当」以外は不合理ではないとしています。

ハマキョウレックス事件及び長澤運輸事件については、このブログでも判決が出た直後に記事としてまとめていますので、詳しくはそちらをご覧ください。

ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件の最高裁判決から今後の有期雇用労働者の待遇を考える

いずれにせよ、「手当ごとに判断する」というのが日本型同一労働同一賃金であることは判例からも明らかであり、手当ごとの判断を載せている同一労働同一賃金ガイドラインは大いに参考になるといえるでしょう。

 

以上です。

昨年、日本郵政グループが正社員の手当を削減すると発表したときは大きな話題となりましたが、今となっては、日本型同一労働同一賃金を踏まえた素早い対応だったと言えます(ちなみに、昨年の日本郵政の発表時点で同一労働同一賃金ガイドラインの「案」はすでに出ていました)。

他の会社も遅かれ早かれ対応が必要であり、今すぐには難しくても、将来に向けて道筋は捉えておく必要があるでしょう。

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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 著書に「「働き方改革法」の実務(日本法令)」の他、「ビジネスガイド」「SR」への寄稿、中日新聞での「働く人を守る労働保険」を連載など執筆活動もしてます。