労働者派遣

同一労働同一賃金ガイドラインにみる「労働者派遣」について

2019年3月14日

今回で同一労働同一賃金ガイドラインの解説は一段落。

最後は同一労働同一賃金ガイドラインの中の「労働者派遣」についてです。

 

派遣労働者の同一労働同一賃金

同一労働同一賃金ガイドラインでは派遣労働者についても言及されており、派遣労働者についての「基本給」「賞与」「諸手当」「福利厚生・その他」のそれぞれの考え方が示されています。

ただし、派遣労働者については派遣労働特有の事情も絡み、同じ会社の正規と非正規の問題よりも複雑です。

今回はそうした派遣労働者特有の問題に焦点を当てつつ解説していきたいと思います。

 

日本版同一労働同一賃金の大前提

以下は同一労働同一賃金ガイドラインを読む上での大前提となる考え方となるので、一通り目を通しておくと、後の解説がわかりやすくなります。

同一労働同一賃金ガイドラインの大前提

  • 日本版同一労働同一賃金はあくまで「正規と非正規」の格差是正を目指すもの
  • 同一労働同一賃金ガイドラインは、その名称とは裏腹に、同一労働同一賃金を導入するためのマニュアルとは言いがたい
  • 法律上、正規と非正規の待遇の相違として判断基準となるのは「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他」
  • 同一労働同一賃金ガイドラインでは、この3つの相違等を踏まえ、正規と非正規の待遇の相違について、どのようなものであれば問題がなく、どのような場合だと問題があるかが記載されている
  • 同一労働同一賃金ガイドラインに法的な拘束力はないが、労使間で争いになった場合、同一労働同一賃金ガイドラインの内容の通り、あるいは近い判断が行われる可能性が高い

同一労働同一賃金ガイドラインの全文

同一労働同一賃金ガイドライン(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

 

他の項目の解説については以下をご参照ください。

同一労働同一賃金ガイドラインにみる「基本給」の考え方

同一労働同一賃金ガイドラインにみる「賞与」の考え方

同一労働同一賃金ガイドラインにみる「諸手当」の考え方

同一労働同一賃金ガイドラインにみる「福利厚生・その他」について

同一労働同一賃金と「罰則」の話

 

派遣労働の前提

派遣労働は、派遣元(人材派遣会社)が派遣労働者と雇用関係を結び、派遣先の指揮命令の下、派遣労働者が働く、という構図になっています。

出典:厚生労働省

派遣労働者に賃金を支払ったり、有給を付与したりというのは派遣元が行う一方で、実際の業務上の指示は派遣先が行います。

 

派遣労働者の同一労働同一賃金

目的は派遣先で働く労働者と派遣労働者との間の同一労働同一賃金

派遣労働者の同一労働同一賃金においても、基本的な考え方が「正規と非正規」の格差の是正であることに変わりはありません。

派遣労働者が「非正規」側なのはわかると思いますが、では、ここでいう「正規」とは誰のことかというと、派遣先で雇用されている通常労働者のことをいいます。

 

困難が予想される異なる会社間での同一労働同一賃金

派遣労働者と派遣先の労働者の格差を是正する、というのは口で言うのは簡単ですが、実際にはとても難しいことは少し考えればわかります。

なぜなら、雇用先が異なるから。

派遣労働者が雇用されているのは派遣元、派遣先の通常労働者が雇用されているのは派遣先なので、雇用されている会社が異なります。

会社が違うのだから労働条件や賃金制度は異なるのは当たり前なのですが、同一労働同一賃金ガイドラインでは派遣労働者と派遣先の通常労働者とで不合理と認められるような待遇の格差があることは問題があるとしています。

(こうした、会社間の労働条件の違いの問題を解決するための手段として、改正後の労働者派遣法では、派遣労働者の比較対象となる派遣先の通常労働者の情報を派遣元に提供することが、派遣先の義務として定められます)

 

同一労働同一賃金ガイドラインと労働者派遣

ここからが同一労働同一賃金ガイドラインの中身の解説です

同一労働同一賃金ガイドラインでは、派遣労働者の同一労働同一賃金について、短時間・有期雇用労働者の場合と同様「基本給」「賞与」「諸手当」「福利厚生・その他」と、項目ごとに解説と具体例が記載されています。

そして、具体例等も基本的には短時間・有期雇用労働者と同じ例を使用しているのですが、上記のような派遣労働者特有の事情を理解していないと、内容を把握するのが難しくなっています。

逆に言うと、一度、派遣労働者特有の事情を理解し、同一労働同一賃金ガイドラインの文脈に慣れれば、短時間・有期雇用労働者の場合と同じように考えられるとは思います。

短時間・有期雇用労働者と派遣労働者の、同一労働同一賃金ガイドラインでの記載の違いの一例として、以下に精皆勤手当を挙げておきます。

短時間・有期雇用労働者の例

(4)精皆勤手当

通常の労働者と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の精皆勤手当を支給しなければならない。

(問題とならない例)

A社においては、考課上、欠勤についてマイナス査定を行い、かつ、そのことを待遇に反映する通常の労働者であるXには、一定の日数以上出勤した場合に精皆勤手当を支給しているが、考課上、欠勤についてマイナス査定を行っていない有期雇用労働者であるYには、マイナス査定を行っていないこととの見合いの範囲内で、精皆勤手当を支給していない。

 

派遣労働者の例

(4)精皆勤手当

派遣元事業主は、派遣先に雇用される通常の労働者と業務の内容が同一の派遣労働者には、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の精皆勤手当を支給しなければならない。

(問題とならない例)

派遣先であるA社においては、考課上、欠勤についてマイナス査定を行い、かつ、それが待遇に反映される通常の労働者であるXには、一定の日数以上出勤した場合に精皆勤手当を支給しているが、派遣元事業主であるB社は、B社からA社に派遣されている派遣労働者であって、考課上、欠勤についてマイナス査定を行っていないYには、マイナス査定を行っていないこととの見合いの範囲内で、精皆勤手当を支給していない。

同一労働同一賃金ガイドライン(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

派遣労働者と比較するのは派遣先の通常労働者派遣労働者の待遇を決めるのは派遣元、というのがどの項目でも基本であり、非常に重要な点です。(転勤者用社宅、病気休職の2項目については、比較対象が派遣元の通常の労働者)

 

派遣先の賃金制度に派遣元が振り回される可能性

また、同一労働同一賃金ガイドラインには、以下のような驚くべき記載もあります。

(10)特定の地域で働く労働者に対する補償として支給される地域手当

派遣元事業主は、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の地域で働く派遣労働者には、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の地域手当を支給しなければならない。

(問題とならない例)

(略)

(問題となる例)
派遣先であるA社に雇用される通常の労働者であるXは、その地域で採用され転勤はないにもかかわらず、A社はXに対し地域手当を支給している。一方、派遣元事業主であるB社からA社に派遣されている派遣労働者であるYは、A社に派遣されている間転勤はなく、B社はYに対し地域手当を支給していない。

同一労働同一賃金ガイドライン(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

つまり、派遣先であるA社は転勤等がない労働者にも地域手当を支給しているので、派遣元であるB社も、A社に派遣している派遣労働者が派遣中に転勤等があろうがなかろうが、派遣している派遣労働者に地域手当を支給しろ、と言っているわけです(厳密には支給しないのは問題がある、といったニュアンスですが)。

派遣先の不要とも思える手当が、派遣元にまで影響を及ぼしているわけです。

 

派遣先均等・均衡方式と労使協定方式

同一労働同一賃金ガイドラインに書かれてるのは主に派遣先均等・均衡方式について

なんともむちゃくちゃな、と思われるかもしれません。実際、めちゃくちゃなんですが。

ただ、実務上はほとんど気にすることはないかもしれません。

というのも、派遣労働者の同一労働同一賃金については派遣先均等・均衡方式労使協定方式を選択できることになっているからです。

派遣先均等・均衡方式とは、派遣先に合わせて派遣労働者の待遇を変更する、というもので今までみてきたものがそれに当たります。

 

主流となるのはおそらく労使協定方式

一方、労使協定方式とは、労使協定を締結した場合に限り、派遣先に影響されずに派遣元で賃金等を定める方式となります。

要は、労使協定を結ぶ必要があること以外、今までと同じということです。

どうして労使協定方式というものが許されているかといえば、派遣先によって待遇が変更されることは、必ずしも待遇が良くなることばかりではなく悪くなることもあるからです。それであれば、一定の労働条件で働ける方が派遣労働者の生活の保護にもなるであろうということで労使協定方式が認められています。

労使協定方式は労使協定の締結が必須となるため、労使間での合意が必要とはなるものの、労使協定方式を選択すれば、同一労働同一賃金ガイドラインに記載されているような賃金の決定等は基本的にはしなくて済むことになります。

(個人的な考えを言えば、多くの派遣元は人件費や手続にかかるコストの問題、また、派遣先の要望等も踏まえ、労使協定方式を選択するとわたしはみています。)

 

追記:この記事を書いていた当時は明らかになっていなかった労使協定方式の詳細が公表されたのですが、こちらもかなりの内容となっています。

こちらの記事にまとめてあるのでご覧いただければと思います。

2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」を1から解説①

 

労使協定方式であっても同一労働同一賃金ガイドラインに従う必要があるもの

労使協定方式はあくまで、賃金の決定についてのみ、派遣先と均等・均衡を考えなくてもいい、というものです。

そのため、労使協定方式であっても「福利厚生・その他」については派遣先の通常労働者(一部項目については派遣元の通常労働者)との均衡を考える必要がある点に注意が必要です。

福利厚生

  1. 福利厚生施設(給食施設、休憩室及び更衣室)
  2. 転勤者用社宅(※)
  3. 慶弔休暇並びに健康診断に伴う勤務免除及び当該健康診断を勤務時間中に受診する場合の当該受診時間にかかる給与の保障
  4. 病気休職(※)
  5. 法定外の有給の休暇その他の手法定外の休暇(慶弔休暇を除く)

その他

  1. 現在の職務の遂行に必要な技能または知識を習得するための教育訓練
  2. 安全管理に関する措置及び給付

※ 派遣元の通常労働者との均衡・均等待遇が必要な項目

 

以上です。

同一労働同一賃金ガイドラインが出る前から、労使協定方式一択だと個人的には思っていましたが、同一労働同一賃金ガイドライン本文はその気持ちが強くさせるような内容ですので、興味のある方は一度、その無茶ぶりを確認するのも良いでしょう。

同一労働同一賃金ガイドライン(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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