その他労務管理

労働組合との関係で注意が必要な「労働協約」と「労使協定」の違い

2019年3月18日

「労使協定」と「労働協定」

社内に労働組合がある場合、36協定や1年単位の変形労働時間制のための「労使協定」を結ぶ相手は、その労働組合の代表者となります(その労働組合が労働者の過半数で組織されている場合)。

一方で、社内労組がある場合、会社と社内労組は、労使協定以外の「何らかの協定」を結んでいることが多いと思います。会社内での呼び方はともかく、こうした労使協定以外の「何らかの協定」のことを、法律上は「労働協約」といいます。

この2つは名前が違うことからもわかるとおり、別物です。

社内に労組がある場合でも、この2つの区別が意外と付いてないことがあるので、今回はその解説。

 

「労使協定」は法律に定められた特別な制度を使うためのもの

効力の範囲はその労使協定が締結されている事業場全体

労使協定は、その名の通り、労働者と使用者とで何かしらの協定をするものです。

ここでいう労働者は「労働組合」やその組合員に限りません。

そのため、労働組合がない会社の場合「労働者の過半数を代表する者」が協定を結ぶ際の代表者となることができ、その効力はその労使協定が締結されている事業場全体に及びます。

 

協定の目的は法律上の例外的措置を取るため

また、労使協定には「免罰効果」といって本来は法違反であることを、労使協定を結ぶことで適法とする効果があります。

代表的なのは労働者に時間外・休日労働を行わせるための36協定です。

本来、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて働かせることは法違反ですが、36協定を結ぶことで、法違反となることなく時間外・休日労働をさせることができます(※)。

労使協定の中には免罰効果のないものもありますが、そうした場合も法律上の原則ではない、例外的なことをするためのものであることに変わりはありません。

このように、基本的に労使協定は労働法に関わる部分で必要となります。

※ ただし、時間外・休日労働の場合、別の条文で時間外・休日労働を行わせる場合は一定の割増率以上の割増賃金を支払う必要があるとされているので、時間外・休日労働をさせる場合は時間外・休日労働手当を支払う必要もあります。また、労使協定には労働者に「会社から命令があった場合に、その命令に従わなければならない」という義務づけする効力がないため、就業規則等にその根拠を示す必要もあります。

 

「労働協約」は会社と労働組合(と組合員)のためのもの

労働協約はその労働組合とのあいだでだけ有効

労働協約とは、会社と労働組合が結ぶ協定(協約)で、その内容は法律に違反したり、公序良俗に反しない限り、当事者間で自由に定めることができます。

この労働協約は、就業規則よりも優先されるほどの強い効力を持つ一方で、その有効範囲は労働協約を結ぶ組合の組合員に限られます。

実は労働協約は、労使協定と異なり、法律上で絶対に必要となる場面、というのはありません

これはどこの会社にも労働組合があるわけではないためで、代わりに法律では労使協定や労使委員会の設置等が定められています。

 

労働協約と就業規則・労働契約との関係

労働協約が結ばれている場合、その効力は就業規則・労働協約を上回ります。

なので、下手に人事や懲戒に関すること労働協約で定めてしまうと、会社の人事権が大幅に制限されることになります。

 

労使協定と労働協約

以上のことから、法律に関係のあることは労使協定、会社と労働組合の約束事を定める場合は労働協約が必要ということがわかります。

また、労使協定と労働協約とでは有効範囲が異なる点にも注意が必要です。

社内に労組がある場合で、労働協約を結んでいる場合、協約は組合員のみにしか効果はなく非組合員には及びませんが、その感覚で労使協定も組合員にしか適用されない、と思ってしまうと、そこで締結される労使協定は不完全なものとなってしまう可能性が高まります。

時間外労働の上限規制や新しいフレックスタイム制が始まると、労使協定の役割はこれまで以上に大きくなることが予想されるので、労使協定と労働協約の違いを理解し、きちんと協定を結びたいものです。

今日のあとがき

社労士にもよりますが、多くの社労士が関わる会社というのは、社内に労組がある方が珍しくなっています。

そんななか、先日、機会があって「社内に労組のある会社(要するに大企業)」の方々の前で働き方改革について、お話しする機会がありました。

ここまで言えばわかると思いますが、今日の記事はそこでのことをヒント、というか、きっかけしてに書いています。

普段は労使協定というと過半数労組ではなく過半数代表者のことを考えがちで、知識も偏りがちだったので良い機会をいただけたかと思います。

ちなみに、過半数代表者は過半数労組などの「労働者代表」については先日、日経新聞で記事にもなっており、注目度が上がってることも踏まえ気をつけたいところです。

「労働者代表」選出は厳格に 働き方改革で役割増える(日経新聞)

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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