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労務問題(時事) 同一労働同一賃金

6月1日に最高裁判決が出る長澤運輸事件が地裁と高裁で判断が分かれた理由を解説

2018/05/17

働き方改革でも重要政策として位置づけられている同一労働同一賃金ですが、その方向性に大きな影響を与える可能性のある判決が6月1日に出ます。

というのも、長澤運輸事件とハマキョウレックス事件という2つの労働事件の最高裁判決がこの日に出るから。

今回は両者のうち長澤運輸事件を扱います。

 

長澤運輸事件の概要

本件は、定年退職後、有期契約の嘱託社員として再雇用された労働者の労働条件を巡ってのものです。

日本の雇用慣行では、定年後の再雇用の際、年金や雇用保険の給付との兼ね合いで定年前よりも賃金を減額することが一般的となっていて、本件の会社もそうした制度を取っていました。

しかし、労働者側は、定年前と定年後で職務の内容や職務上で負う責任も変わらないのに、賃金だけ下げられるのは不合理であり、労働契約法20条に違反すると会社を訴えました。

本件では、地裁は労働者側が勝訴、高裁では会社側が勝訴と、地裁と高裁で判断が大きく分かれている上、どちらに転ぶかで日本の労務管理に大きな影響が出るため、6月1日の最高裁判決に注目が集まっています。

この記事では、長澤運輸事件の細かな解説を行うというよりは、社労士のブログなので、あくまで労務管理に影響のある部分に的を絞って解説します。

 

定年後再雇用された労働者に労働契約法20条は適用されるか

本件において、労務管理上ポイントとなるのは2点です。

まず、定年後再雇用した有期契約の社員に労働契約法20条は適用されるのか、という点。

労働契約法20条は以下の通り、期間の定めのない労働者と有期雇用労働者とのあいだの待遇を不合理なものとしてはならないという法律です。

第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

一般的なイメージとして、有期雇用労働者というと契約社員やパート・アルバイトをイメージしがちです。

しかし、定年後再雇用の嘱託社員であっても有期契約なのであれば有期雇用労働者であることに変わりはなく、そこに不合理な待遇差があるのであれば20条の適用はあると、地裁、高裁ともに判断しています。

ちなみに会社側は、この20条は「期間の定めがあること」を理由とする不合理な待遇差を認めていないものであり、本件の定年前と定年後の待遇差については「期間の定めがあること」ではなく「定年後の再雇用であること」が理由なので、本件では20条の適用はないと主張したものの、この主張については地裁、高裁ともに退けています。

 

労働契約法20条の不合理と認められる待遇とは

定年後再雇用された有期雇用の嘱託社員であっても20条の適用があるとなると、その待遇の内容が20条がさす「不合理と認められるもの」かどうかがもう1つのポイントとなります。

不合理かどうかの判断は、以下の3つが考慮の際の判断材料となります。

  1. 職務内容(業務内容・責任の程度)
  2. 職務内容・配置の変更範囲(いわゆる「人材活用の仕組み」)
  3. その他の事情

 

地裁と高裁で判断が分かれたのは上記の3つの判断材料に対する考え方からでした。

 

地裁と高裁で判断が分かれた理由

地裁の考え

まず地裁では1の「職務内容(業務内容・責任の程度)」と2の「職務内容・配置の変更範囲(いわゆる「人材活用の仕組み」)」を重要視しました。

1と2に関しては法律の条文ではわざわざ明示されているのだから、3の「その他の事情」と比較してより重要であることは明らかであると地裁は判断。

そして、なにより本件では定年前と定年後で労働者の職務内容や職務で負う責任についてほとんど変更がなかったからです。

また、3の「その他の事情」としてあげられた「日本の雇用慣行」として定年後再雇用された際に賃金を引き下げることについて「企業一般において広く行われているとまでは認められない」とし、地裁は労働者側の勝訴としました。

 

高裁の考え

一方、会社側の勝訴とした高裁判決は地裁と打って変わり、3の「その他の事情」を重要視しました。

ただし、高裁も1と2に関して、定年の前後で大きな違いはないと認めています。

しかし、地裁と異なるのは1と2同様に3も重要視すべきとした点。

なぜなら、1と2はあくまで例示されているだけで、法律上はほかに特段の制限を設けていないことから、1および2に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきと解される、としたからです。

そして、3の「その他の事情」の「日本の雇用慣行」として定年後再雇用された際に賃金を引き下げることについては、「社会一般で広く行われている」と地裁と真逆の判断。

加えて、在職老齢年金高年齢雇用継続給付の存在や、再雇用という制度自体がこれまでの雇用関係を消滅させ(だから、退職金も支払う)、新規の雇用契約を締結するものなので、定年後再雇用の労働者の賃金を定年前より引き下げること自体が不合理であるということはできないとしています。

加えて、年収ベースで2割ほどの賃金の減額についても「継続雇用制度の導入を選択することは高年齢者雇用安定法の認めるところ」「社会的に容認されていると考えられる」ことから不合理といえないとしています。

判決文を読むとわかりますが、高裁の判決は「定年後再雇用した労働者の賃金を引き下げること」が社会的に広く認められていることに重きが置かれていて、それが会社側の勝訴という判断に大きく寄与しているのがわかります。

 

長澤運輸事件の最高裁判決は6月1日

このように地裁と高裁とで判断が大きく分かれた長澤運輸事件の最高裁判決が6月1日に出ます。

最高裁が高裁の考えを支持するならまだしも、逆転で労働者側の勝訴となると、日本の会社の多くの労務管理で大きな影響を受けることになります。

少なくとも、労働者側の勝訴で終わった場合、定年前と定年後で働き方に何の違いもないのに賃金を下げる、といったことはできなくなるはずです。

ただ、高裁の判決も年収2割減くらいは不合理ではない、といっているに過ぎず、それ以上の減額はどうかと言えば怪しいところであり、定年後再雇用の際の労働条件の引き下げが無制限に認められるわけではありません。

また、労働者側の勝訴に終わった場合でも、待遇差を設けることどんなときでも認められないわけではなく、職務内容や職務に対する責任、労働時間などに見合った形で定年前後で待遇に差を設けることは「不合理」とされない範囲で認められるはずです。

以上を踏まえると、労働者側が勝訴した場合の影響は会社によって、以下のようになると考えられます。

  • 定年後の再雇用制度において、定年前後で職務内容や職責を変更せず賃金だけ下げている:違法となる可能性が高く、制度変更が必要
  • 定年後の再雇用制度において、定年前後で職務内容や職責を変更した上で賃金を下げている:職務内容等の変更度合いによるが、その差が不合理といえないものであれば問題なし
  • 定年後の再雇用制度を設けていない:影響なし

 

 

働き方改革関連法案でも問題となり得る定年後再雇用された労働者の待遇

会期末が近づいているのに未だに成立が不透明な働き方改革関連法案についても触れておきましょう。

というのも、本件で問題となっている労働契約法20条は、この改正により条文自体が削除されるからです。

といっても、これは有期雇用労働者がパートタイム労働法の対象となるためであり、内容の重複避けるための措置に過ぎません。パートタイム労働法には、労働契約法20条と同一の趣旨となる8条が存在するからです。

条文がなくなること自体よりも、有期雇用労働者がパートタイム労働法の適用対象とされることの方が重要です。

なぜなら、有期雇用労働者がパートタイム労働法の対象となるということは、法改正後は定年後再雇用で有期の嘱託社員となった労働者にもパートタイム労働法の適用があるということだからです。

働き方改革関連法案では、短時間・有期雇用労働者に対する様々な規制の強化が行われていますが、その影響は定年後に有期雇用で再雇用される労働者にも及ぶことになるため、法改正事項についてはしっかりと押さえておきたいところです。

同一労働同一賃金のためのパートタイム労働法改正の概要(施行は原則平成32年(2020年)予定)

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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 2016年4月から9月まで中日新聞で「働く人を守る労働保険」を連載、開業社労士専門誌「SR」に寄稿するなど、メディアでの執筆活動も。