労働関連法令改正

会社目線でデジタル給与「やること、やらなくていいこと」丸わかり

2023年4月18日

今年の4月からデジタル給与が解禁されました。

とはいっても、デジタル給与については、デジタル給与を扱う業者側がまずは行政の審査を受けなければなりません。

そのため、この審査が終わるまでは、実際に労働者がデジタルマネーで給与をもらうということは出来ないわけです。

すでに、PayPayや楽天、auが審査の申請を行ったことを発表しているため、数か月後にはデジタル給与が可能な、第一陣のデジタルマネーが発表されることでしょう。

 

デジタル給与に対する会社側の本音

会社側の本音は「やりたくない」?

さて、デジタル給与については「早くデジタル給与にしてほしい」という人もいれば、「会社に特定のデジタル給与払いを強制されるのでは」と不安に思う人もいるようです。

一方、会社側はというと「よくわからない」という人がまだまだ多いと思いますが、おそらく本音としては「あんまりやりたくない」というところが多いのではないでしょうか。

やることが増えるって面倒ですからね。

正直「会社に特定のデジタル給与払いを強制されるのでは」と思ってる人は、会社側の気持ちがわかってないようにしか思えない。

 

会社側にやる義務はない

で、そんな経営者や給与計算、人事労務の担当者の方々に朗報なのですが、このデジタル給与は、会社側の義務でも何でもありません。

給与支払の原則は現金だからです。現在主流の銀行の口座振込による給与支払も例外扱いであり、デジタル給与もこれは同様です。

なので、会社側がやりたくない、といったらそれでおしまい。この話は終わり、というわけです。

 

デジタル給与を導入に当たって会社がしなければならないこと

ただ、どうしても導入せざるを得ない状況に会社が立たされる可能性はゼロではありません。

やってくれないと会社を辞める、という人が多ければ、この人手不足のご時世、対応せざるを得ないでしょうしね。

あと、まだどうなるかはわかりませんが、デジタル給与の業者が、デジタル給与サービス開始キャンペーンと称して、初期のPayPayのようなポイントキャンペーンを行う可能性もある。そうなると、「デジタル給与で支払ってほしい」という労働者は増えることでしょう。

 

就業規則の改定

では、デジタル給与をせざるを得なくなった場合、会社は何をしたらいいのでしょうか。

まずは、就業規則(賃金規程)の改定です。

デジタル給与は賃金に関わることなので、就業規則にその旨を定める必要があります。

 

労使協定の締結

次に、労使協定の締結です。

銀行の口座振込同様に、デジタル給与に関しても労使協定の締結が必要です。

なお、銀行の口座振込の労使協定とデジタル給与の労使協定の2つは、1つにまとめてしまうことも可能です。

 

同意と口座情報の収集

最後にデジタル給与を希望する労働者から同意を得て、さらに口座情報の収集を行うことになります。

デジタル給与の同意を労働者から得るに当たって、会社は、

  • 金融機関の口座又は証券総合口座への賃金支払も併せて選択できるようにする
  • デジタルマネーによる給与支払について必要な事項を説明する

の2つ条件を満たした上で行う必要があります。

なお、デジタル給与の同意を得るに当たっての「同意書(兼口座情報収集)」の様式例は、すでに厚生労働省の方から公表されています。

 

会社が積極的のデジタル給与を導入したい場合

上記では、会社は「あまりデジタル給与を導入したいと思っていない」「でも、導入しないと行けない場合もある」ということを前提に、いろいろ書きました。

一方で、会社が導入に積極的な場合もあるとは思います。

ただ、そうした場合であっても労働者側が導入に積極的かは、また別問題です。

そのため、会社側が導入にデジタル給与導入に積極的な場合、労使間で意識のギャップがないか、あらかじめ労働者に対しアンケートなどで意識調査をしておいた方が良いでしょう。

意識調査をしてみた結果、自分の会社の社員の誰もデジタル給与導入なんて望んでない、ということもあり得ますからね。

 

業者が出揃わなければ何もしようがない

冒頭で述べたとおり、令和5年4月の段階では、デジタル給与を行う業者が出揃っていないため、会社がデジタル給与を行うことは出来ません。

また、デジタル給与の業者が出揃っていないので、そのサービス内容がどうなるかも今のところ不明。

原稿の給与支払においては銀行の給与振込サービスを利用している会社が多いと思いますが、仮にデジタル給与がこれに対応しない場合、デジタル給与導入を見送る会社がほとんどになるのではないでしょうか。

よって、結局は、デジタル給与の業者が出揃って、サービス内容がはっきりしないと、今のところデジタル給与について、会社としてやれることってあまりないというのが結論です。

 

なお、今回触れなかった、デジタル給与の前提となるデジタルマネーや指定資金移動業者の話はこちらで書いてます。

 

今日のあとがき

最近になってようやう大きな仕事が一つ区切りが付きました(終わったわけではない)。

なので、久しぶりにブログを書いてるわけですが、さて、このデジタル給与ですよ。

導入する会社からすると、正直あまりメリットがない(手間が増えるだけ)制度ですが、資金移動業のデジタルマネーを扱う業者からすると、大きく業界が動いてもおかしくない制度ですよね。

給与っていう、ほとんどの人にとってのお金の出所の根っこを掴めば、それだけで市場シェアに大きな影響が出るわけですからね。

しかも、すべて資金移動業が指定を取れるほど、厚生労働大臣の指定は緩くもない。

つまり、これを機に業界の統廃合が起こってもおかしくないわけです。

一方で、資金移動業者からすると頭が痛いのが、デジタル給与の口座残高の上限が100万円ということと、デジタル給与を行う上では、銀行口座との連携が必須ということでしょう。

これらの制約のため、デジタル給与とはいいつつも、既存の銀行との共存・協力を強いられるわけですからね。

これがなければ、極端な話、銀行を隅に追いやってデジタルマネー経済圏を作ることも可能かもしれない。

いずれにせよ、決して会社から歓迎されるとは思えない制度でありながら、資金移動業の未来に大きな影響を与えうるこの制度が今後どうなっていくかは、非常に興味深い話だと思います。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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