賃金

前払式支払手段? 資金移動業? デジタル給与のデジタルマネーはどの方式?

2022年11月1日

令和5年4月より、給与のデジタルマネー払いが解禁されます。

Twitter等を見る限り、「もう解禁されることがほぼ決定」という現段階でも割と賛否が分かれる話題となっています。

ただ、賛否が分かれる割には、そもそも解禁されるデジタルマネーのことをあまりわかってないまま賛成・反対を言っている人も少なくありません。

ここでいう「解禁されるデジタルマネーがわかってない」というのはデジタルマネーには方式がいくつもあるのに、それらを混同しているという意味です。

なので、今回はそうした給与のデジタルマネー払いの前提となる、デジタルマネーの方式について見ていきたいと思います。

 

デジタルマネーの方式の種類

デジタルマネーの方式には大きく分けて3つあります

 

前払式支払手段

プリペイド式。前払式。

事前にお金をチャージして使うタイプで、交通系電子マネーや小売店が発行するプリペイド式カードタイプの電子マネーがこれにあたります。

お金を前払いしてる、という扱いなので、入金したお金を現金に戻すことはできません。

電子マネーと言えば、と言えるくらいメジャーな方式ですが、前払式支払手段は今回の給与のデジタルマネー払いの対象ではありません。

 

ポストペイ式

後払い方式。

クレジットカードそのものもそうだし、クレジットカードの機能として付いているiDやQuickPayもこれにあたります。

こちらも今回の給与のデジタルマネー払いの対象ではありません。

 

資金移動業

資金移動業とは、銀行以外の者が為替取引を業として営むことをいいます。

で、為替取引とは何なのかというと「現金以外の方法で資金を移動する取引」のことをいいます。

例えば、銀行の口座から口座にお金を移動する場合、現金は動いてないけど資金は動く為替取引となります。

本来、この為替取引は銀行などの金融機関しかできなかったのですが、現在は資金移動業者も、限定的ながらできるようになっています。

今回、給与のデジタルマネー払いで解禁されるのはこの資金移動業のみです。

 

資金移動業の特徴

資金移動業に関するデジタルマネーについて、他の方式にない特徴として、入金だけでなく出金も可能な点があります。

出金が可能な分、流動性も高いため、個人間でのデジタルマネーのやり取りでは、PayPayマネーやLINE Payのような資金移動業のデジタルマネーが使われることが多くなっています。

一方で、資金移動業のデジタルマネーでは、残高の上限はほとんどの場合、100万円以内とされています。

そして、この残高上限100万円というの、各業者が勝手に決めているわけではなく法律上で決まっていることです。

資金移動業の本来の目的は(消費者から販売店、個人間などのあいだで)お金を移動させることであり、お金を資金移動業者に滞留させる(預からせる)ことは金融機関の役割と被るため、こういった規制が設けられているわけです。

 

第一種から第三種まである資金移動業者

ちなみに、現在、資金移動業は第一種、第二種、第三種の3つに分かれています。

といっても、令和4年9月30日では、登録があるのは第二種資金移動業のみですが。

これらの違いは、第一種は送金額に上限がない代わりに、会社内でお金を預かることができないようになっているほか、業務を行うには内閣総理大臣の認可も必要です。

第二種と第三種はどちらも登録制ですが、第二種は100万円まではお金を預かることができる一方で、第三種は5万円までの少額しか預かることができません。

給与のデジタルマネー払いの対象となるのはこのうち、残高上限が100万円までの第二種となります。

資金移動業とは(一般社団法人日本資金決済業協会)

 

よくある誤解

前払式支払手段と資金移動業の混同

給与のデジタルマネー払いに反対してる人のよくある誤解の一つは、前払式支払手段と資金移動業の区別が付いてない、という点ですね。

なので、一度デジタルマネーに変換したら現金に戻すことができないと思っているわけです。

 

同じ会社で前払式支払手段と資金移動業を行う場合も

ただ、こうした誤解を招く要因は法令や、各業者のサービスにもあります。

というのも、例えば、PayPayの場合、PayPayマネーは資金移動業(第二種)ですが、PayPayマネーライトの方は前払式支払手段です。

そのため、PayPayマネーの方は入出金が可能ですが、PayPayマネーライトの方は出金はできません。

PayPay残高にチャージする(PayPay HP)

このように、同じ会社の行うサービスの中にも、複数の方式があることが、誤解を招く要因となっているわけです。

 

まとめ

本記事では、給与のデジタルマネー払いに関する前提知識として、デジタルマネー払いの方式の違いを解説しました。

読んでいただいてわかるように、給与のデジタルマネー払いにおいては、現金からデジタルマネー、デジタルマネーから現金、といった入出金が可能な資金移動業によるデジタルマネーでしか解禁されません。

そのため、少なくとも、デジタルマネー払いで払われたら現金化できない、なんてことはあり得ない、ということだけ、この記事で覚えて帰ってもらえればと思います。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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