賃金

デジタル給与が可能な「指定資金移動業者」とは?

2022年11月16日

前回の記事で、いくつも方式があるデジタルマネーの中で、デジタル給与が可能となるのは「資金移動業」だけということを解説しました。

今回はこの「資金移動業」について、もう少し詳しく見ていきます。

 

第二種資金移動業

資金移動業には、実は、第一種、第二種、第三種の三種類があります(ただし、現状、第一種、第三種の業者はゼロ)。

このうち、デジタル給与の対象となるのは「第二種」だけです。

第二種の資金移動業を行うには国への登録が必要となります。

 

指定資金移動業者

では、業者側がデジタル給与を行うには、第二種資金移動業の登録だけを行えばいいのかというとそういうわけではありません。

第二種の登録をした上で、さらに厚生労働大臣の指定を受けないといけないとされているからです。

つまり、デジタル給与をできる業者、というのは登録と指定、二つの関門を乗り越えないといけないというわけですね。

この厚生労働大臣の指定を受けた第二種資金移動業者のことを「指定資金移動業者」といいます。

 

指定資金移動業者の指定を受けるための条件

では、第二種資金移動業を行うものが、指定資金移動業者として指定を受けるにはどうしたらいいかというと、それには以下の条件を満たす必要があります。

  1. 口座残高が100 万円を超えることがないようにするための措置、又は100 万円を超えた場合でも速やかに100 万円以下にするための措置を講じている
  2. 破綻等した場合に、口座残高の全額を速やかに弁済できる仕組みを有している
  3. 第三者の不正利用等に関して、その損失を補償する仕組みを有している
  4. 最後に口座(アカウント)を動かしてから少なくとも10 年間、口座(アカウント)を利用できるための措置を講じている
  5. 資金移動が1円単位でできる
  6. ATMを利用すること等により、通貨で、1円単位で賃金の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回はATMの利用手数料等の負担なく賃金の受取ができる
  7. 業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有する
  8. 賃金の支払に係る業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有する

 

上記のうち、1については、非常に重要な内容である一方で、ちょっとわかりづらい部分があると思うので、後で詳しく見ていきます。

それ以外だと、2~4が行政の指定のハードルを上げている要因なのかなあと思います。

不正利用や資金移動業者が破綻した場合の賃金の補償と保証の他、最後の使用後10年間はアカウントを保持しておく、というのは、ある程度、会社の体力がないと難しいと考えられるからです。

 

残高が100万円を超えないようにするための措置

残高が100万円を超える場合の措置は、指定資金移動業者がしないといけない

では、後で見るといった1について、解説していきます。

そもそもの話として、第二種資金移動業の要件として、第二種資金移動業の口座残高の上限は100万円までとされています。

なので、例えば、今、自分でデジタルマネー口座に100万円を超えて入金しようとすると多くのサービスではエラーが出るはずです(そんな額、自分は入れたことないので、実際に見たことはありませんが)。

ただ、給与の場合、100万円を超えるのでエラーで入金できませんでした、だと、労働基準法の賃金の全額払いや一定期日払いの原則に反してしまいます。

そのため、給与に関しては口座残高が100万円を超えるような振込があった場合に、100万円を超えた分を100万円以内とする措置を、指定資金移動業者側が講じないといけないとされているわけです。

 

銀行口座等を持ってることが前提

そして、この100万円を超えた分のお金の移動先については、労働者が指定する「銀行口座又は証券総合口座」となります。

他のデジタルマネーの口座はダメなので、デジタル給与については、労働者が銀行口座又は証券総合口座を持っていることが前提となるわけです。

デジタル給与については当初「銀行口座を持つことが困難な外国人労働者のため」といった言われ方もしていましたが、少なくとも令和5年4月の解禁時点ではこうした利用は不可能な制度となっています。

 

まとめ

今回は、デジタル給与ができる「指定資金移動業者」について解説しました。

指定資金移動業者となるためのハードルはそれなりに高いため、おそらく、デジタル給与に参入する企業の規模はある程度大きいところに限られるでしょう。

また、セキュリティや何かあったときの補償についても、指定要件に含まれるため、会社側が気にすることではあまりないということもわかります。

そのため、会社視点でみたデジタル給与において重要なことは、サービスの内容や使い勝手ということになるでしょう。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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