前回の記事で、いくつも方式があるデジタルマネーの中で、給与のデジタルマネー払いが可能なのは「資金移動業」だけ、ということを解説しました。
この記事の目次
第二種資金移動業
この資金移動業にも実は種類があって第一種、第二種、第三種の三種類があります(ただし、現状、第一種、第三種の業者はゼロ)。
このうち、給与のデジタルマネー払いの対象となるのは「第二種」だけです。
第二種の資金移動業を行うには国への登録が必要となります。
指定資金移動業者
では、給与のデジタルマネー払いを行うには、第二種資金移動業の登録だけを行えばいいのかというとそういうわけではありません。
第二種の登録をした上で、さらに厚生労働大臣の指定を受けないといけないとされているからです。
つまり、給与のデジタルマネー払いをできる業者、というのは登録と指定、二つの関門を乗り越えないといけないというわけですね。
この厚生労働大臣の指定を受けた第二種資金移動業者のことを「指定資金移動業者」といいます。
指定資金移動業者の指定を受けるための条件
では、第二種資金移動業を行うものが、指定資金移動業者として指定を受けるにはどうしたらいいかというと、それには以下の条件を満たす必要があります。
- 口座残高が100 万円を超えることがないようにするための措置、又は100 万円を超えた場合でも速やかに100 万円以下にするための措置を講じている
- 破綻等した場合に、口座残高の全額を速やかに弁済できる仕組みを有している
- 第三者の不正利用等に関して、その損失を補償する仕組みを有している
- 最後に口座を動かしてから少なくとも10 年間、口座を利用できるための措置を講じている
- 資金移動が1円単位でできる
- ATMを利用すること等により、通貨で、1円単位で賃金の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回はATMの利用手数料等の負担なく賃金の受取ができる
- 業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有する
- 賃金の支払に係る業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有する
上記のうち、1と6については、給与のデジタルマネー払いにおいて非常に重要な点かと思いますので、この後詳しく見ていきます。
2,3,4,については、利用者の資金の保証や補償に関わる部分なので、指定資金移動業者側にかなり体力が求められる、つまり、企業規模の大きい業者じゃないとこの要件を満たすのは難しいことが予想されます。
5については資金移動業者なんだからできて当たり前なので割愛,7と8についてもそんなに説明することもないかと思います。
残高が100万円を超えないようにするための措置
残高が100万円を超える場合の措置は、指定資金移動業者がしないといけない
で、詳しく見ていく、といったうちのまず1ですが、そもそもの第二種資金移動業の要件として、第二種資金移動業の口座残高の上限は100万円までとされています。
なので、例えば、今、自分でデジタルマネー口座に100万円を超えて入金しようとすると多くのサービスではエラーが出るはずです(そんな額、自分は入れたことないので、実際に見たことはありませんが)。
ただ、給与の場合、100万円を超えるのでエラーで入金できませんでした、だと、労働基準法の賃金の全額払いや一定期日払いの原則に反してしまいます。
そのため、給与に関しては口座残高が100万円を超えるような振込があった場合に、100万円を超えた分を100万円以内とする措置を、指定資金移動業者側が講じないといけないとされているわけです。
銀行口座等を持ってることが前提
そして、この100万円を超えた分のお金の移動先については、労働者が指定する「銀行口座又は証券総合口座」となる予定です(※)。
この銀行口座等の指定は、口座残高が100万円を超えた場合にするのではなく、労働者が給与のデジタルマネー払いを選択した段階ですることになります。
つまり、給与のデジタルマネー払いにあたっては、労働者が銀行口座又は証券総合口座を持っていることが前提となるわけです。
給与のデジタルマネー払いについては当初「銀行口座を持つことが困難な外国人労働者のため」といった言われ方もしていましたが、少なくとも令和5年4月の解禁時点ではこうした利用は不可能な制度となっています。
※ 改正予定の省令に直接記載されているわけではありませんが、労働政策審議会の資料から実務上は他の資金の移動方法は認められないと考えられます。
ATMからの出金
ATMを持つ会社の協力が必要
次に6の「ATMを利用すること等により、通貨で、1円単位で賃金の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回はATMの利用手数料等の負担なく賃金の受取ができる」について。
そもそも、現行のデジタルマネーでATMからお金を引き出せるサービスはかなり限られます。
例えば、フリマアプリのメルカリのメルカリPayなんかは、銀行口座への出金はできても、ATMからの出金はできません。
またATMから出金できるサービスの場合も、そのATMはセブン銀行などの一部に限られています。
このことから、デジタルマネーをATMから出金するとなると、ATMを持つ銀行やコンビニ、大手スーパーと資金移動業者が何らかの形で契約や提携しないといけないわけです。
そして、そうしたことが可能な資金移動業者というのも、やはり一部の大手に限られるのではと予想されます。
まとめ
今回は、給与のデジタルマネー払いができる「指定資金移動業者」について解説しました。
第二種資金移動業自体は現在80社ほどが登録しているようですが、そこからさらに厚生労働大臣の指定を受けて「指定資金移動業者」となるのはかなりハードルが高いということがわかっていただけたのではないでしょうか。
また、給与のデジタルマネー払いについては、不正利用や資金移動業者が破綻した場合の賃金の補償と保証が懸念点としてよく挙げられますが、少なくともそのあたりについては、業者を指定する厚生労働大臣の責任といって差し支えないくらい、指定のハードルは高くなっているので、会社がこれ以上、何かできるもこともないでしょう。
次回以降は給与のデジタルマネー払いの、給与部分にもっと踏み込んだ話を書こうかと思います。
前回の最後も同じようなこと言った気もしますが今度こそは、ってことで。