労働関連法令改正

令和6年4月より追加される有期契約の無期転換関連の明示事項とは

2023年6月27日

今回も、今年の3月に労働基準法施行規則が改正された内容の解説。

改正内容は主に以下の2つ。

  • 労働条件の明示事項の追加
  • 裁量労働制に関する改正

今回は、労働条件の明示事項の追加のうち、有期契約の締結・更新時に必要となる労働条件の明示事項について解説していきます。

 

追加される労働条件の明示事項とは

前回の記事のおさらいも兼ねて、以下が、今回の省令改正で追加される追加される労働条件の明示事項です。

まとめると、以下の通り。太字で強調しているのがこの記事で解説する部分。

対象労働者 明示のタイミング 追加される明示事項
すべての労働者 すべての労働契約の締結・更新時 就業の場所の変更の範囲

従事すべき業務の変更の範囲

有期契約の労働者 有期労働契約の締結・更新時 通算契約期間または更新回数の上限の明示
無期転換申込権が発生する有期労働契約の更新時  無期転換申込機会の明示

 無期転換後の労働条件の明示

見てわかるとおり、すべての労働者を対象とするものと、有期契約労働者のみを対象とするものがあります。

また、有期契約労働者に対する労働条件の明示に関しては、無期転換申込権発生するときのみ、明示が必要な項目があります。

 

通算契約期間または更新回数の上限の明示

まず、すべての有期契約労働者に関連するものとして、有期の労働契約に「通算契約期間または更新回数の上限」がある場合、それを明示しなければいけなくなりました。

加えて、上記の明示事項の追加と併せて追加された告示では、更新上限を新設または短縮する場合、その理由を有期契約労働者にあらかじめ(更新上限の新設・短縮をする前のタイミングで)説明することが必要ともされています。

有期契約の場合、通算契約期間が5年を超えると、契約を無期とする無期転換申込権が労働者に発生します。とはいえ、申込権が発生するだけなので労働者側が申し込まなければ、無期転換はされません。

ただ、こうした無期転換申込権がそもそも発生しないよう通算契約期間または更新回数に上限を設ける会社というのもあります。

通算契約期間や更新回数に上限を設けること自体は違法ではないのですが、こうした動きを少しでも牽制したいと思ったのか、今回、こうした追加が行われました。

 

「無期転換申込機会の明示」「無期転換後の労働条件の明示」の追加

有期契約労働者の無期転換とは

そして、有期契約労働者に関しては無期転換申込権が発生する契約の更新の際は「無期転換申込機会の明示」「無期転換後の労働条件の明示」も明示しなければなりません。

無期転換についてはすでに説明したとおり、有期契約の契約期間が通算で5年を超えると有期契約労働者に無期転換申込権が発生し、労働者側の申込みによって無期転換が行われます。

そして、この無期転換を会社側が拒否することはできません。

 

無期転換申込権が発生するのはいつから?

ただ、実は、労働者からの無期転換の申込は通算契約期間が5年を超えないと申込みできないわけではありません。

無期転換申込みは、その契約が満了した時点で通算契約期間が5年を超える契約期間中に発生します。

例えば、1年契約を更新する場合、5年目の契約を満了した時点(契約を締結1回+更新4回)ではちょうど通算契約期間はちょうど5年なので、無期転換申込権は発生しません。

しかし、その次の契約更新をまた1年で行うと、その契約を満了する時点で通算契約期間が6年となり5年を超えるため、この契約期間中は無期転換申込みが可能となります。

一方、3年契約の場合、最初の契約更新の段階で、更新する契約が満了する段階で通算契約期間が6年となります。

なので、1回目の3年契約を満了し、2回目の3年のあいだは無期転換申込みが可能となります。

 

「無期転換申込機会の明示」「無期転換後の労働条件の明示」は無期転換申込権が発生する契約更新時に明示

労働者に教えない、は不可能に

前置きが長くなりましたが、「無期転換申込機会の明示」「無期転換後の労働条件の明示」はこうした無期転換申込権が発生する契約更新のときのみ行うものとなります。

「無期転換申込機会の明示」とは、言ってしまえば、有期契約労働者に対し、無期転換という制度があってそれが可能ですよ、と教えることです

なので、今までは労働者側が何も知らないのを良いことに、無期転換のことをなあなあにしていた会社もあるかもしれませんが、省令改正後はそういったことはできなくなるわけです。

一方、「無期転換後の労働条件の明示」については、明示する前に、会社として無期転換後の労働条件をどうするかを考えておく必要があります。

ただ、無期転換は正社員転換という意味ではなく、あくまで有期契約を無期契約に転換すればその義務は果たされるので、今の有期契約の契約期間の部分だけ有期から無期に変えるのが一般的です。

また、仮に労働者側が無期転換申込みをしなかった場合、その労働者が退職するのでない限り、また次の有期の労働契約の更新を行うことになると思いますが、このときもまた「無期転換申込機会の明示」「無期転換後の労働条件の明示」が必要となるので注意が必要です。

 

書面による明示

有期契約労働者に対する「通算契約期間または更新回数の上限の明示」については、書面による明示が必須です。

また、無期転換申込権が発生する契約更新時の「無期転換申込機会の明示」についても同様です。

一方「無期転換後の労働条件の明示」については、通常の労働条件の明示の際に書面による明示が必要とされているものは、書面による明示が必要となります。

 

まとめ

有期契約労働者の無期転換ルールは、法律の制定当初から問題の多い法律、というか悪法といっていいものですが、今回の労働条件の明示事項の追加はここに「メス」というか「てこ」というかが入った感じです。

それはさておいても、「無期転換申込権が発生する契約更新のとき」という、今までにないタイミングでの労働条件の明示事項の追加が行われているので、このあたりは注意が必要です。

 

次回は省令改正まとめの最後、裁量労働制に関する改正についてです。

川嶋事務所へのお問い合わせはこちらから!

良かったらシェアお願いします!

  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

-労働関連法令改正