労働関連法令改正

令和6年4月より「就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲」の明示が必要に

2023年6月26日

今年の3月に労働基準法施行規則とそれに関連する告示が改正されました。

改正内容は主に以下の2つです。

  • 労働条件の明示事項の追加
  • 裁量労働制に関する改正

今回は、労働条件の明示事項の追加のうち、すべての労働者に影響のある「就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲」について解説していきます。

 

追加される労働条件の明示事項とは

今回、追加される労働条件の明示事項ですが、すべての労働者を対象とするものと、有期契約労働者のみを対象とするものがあります。

また、有期契約労働者に対する労働条件の明示に関しては、すべての契約締結・更新のタイミングで明示が必要なものと、無期転換申込権発生するときのみ明示が必要なものがあるので注意が必要です。

まとめると、以下の通り。太字で強調しているのがこの記事で解説する部分。

対象労働者 明示のタイミング 追加される明示事項
すべての労働者 すべての労働契約の締結・更新時 就業の場所の変更の範囲

従事すべき業務の変更の範囲

有期契約の労働者 有期労働契約の締結・更新時 通算契約期間または更新回数の上限の明示
無期転換申込権が発生する有期労働契約の更新時  無期転換申込機会の明示

無期転換後の労働条件の明示

 

就業場所および従事すべき業務の変更の範囲

「雇入れ直後」と「変更の範囲」を記載

この記事の主題であり、今回の省令改正で追加される労働条件の明示事項の中で最も影響が大きいのがこの「就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲」です。

なぜなら、こちらは正規・非正規を問わず、すべての労働者が対象となるからです。

現行では「雇入れ直後」の「就業の場所および従事すべき業務」を、労働契約締結の際に明示すれば良いとされていました。

しかし、今回の改正ではさらにここに「変更の範囲」まで追加されたわけです。

これに併せて、現在、厚生労働省から公表されている労働条件通知書も以下のように変わる予定です。

 

変更の範囲は限定しても、しなくてもいい

ただ、この「変更の範囲」を定めるとなると、ここで決めた範囲以外で働かせられないのかと思ってしまう人もいるかもしれません。

しかし、実際にはある程度の範囲に限定する場合と、なるべく限定しない形のどちらも可能で、そうした例示も過去の審議会の資料でされています。

以下は、その例です。

就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を限定する場合

就業の場所 (雇入れ直後)○○支店  (変更の範囲)東京23区内
従事すべき業務の内容 (雇入れ直後)法人顧客を対象とした営業 (変更の範囲)営業

 

就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を限定しない場合

就業の場所 (雇入れ直後)○○支店  (変更の範囲)会社の定める就業場所
従事すべき業務の内容 (雇入れ直後)法人顧客を対象とした営業  (変更の範囲)会社の定める業務

 

書面による明示

「就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲」は、労働契約の絶対的明示事項です。

また、書面による明示も必須となりますが、こちらについては上で見た新しい労働条件通知書を使えば、忘れることはないでしょう。

 

まとめ

実務上は、正社員は就業場所や業務内容を限定せず、非正規や限定正社員はこれらを限定して、労働条件通知書に記載することになると思います。

一方で、仮に変更の範囲を限定した労働者に対し、その範囲を超えて働かせようとする場合、労働契約の変更が必要になります。

労働契約の変更は労使の合意が必要なので、最悪、交渉がまとまらない可能性もあるので注意が必要です。

 

以上です。

次回は有期契約の労働者の労働契約の締結・更新時に追加される労働条件の明示事項について見ていきます。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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