労働関連法令改正

有給の強制取得や残業割増率5割など、2017年以降に改正されるはずの改正労働基準法を解説(追記あり)

2016年7月13日

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労働基準法は次の臨時国会でほぼ間違いなく改正されます。平成28年9月27日追記:こちらの記事によると、自民党はこの秋の労基法改正を見送る方針のようです。

追記:2016年臨時国会で改正予定のはずが一向に改正されないのでタイトルを変更しました。

2018年4月追記:2018年の通常国会でようやく労働基準法改正案が提出されました。本記事と異なる部分もあるため改正内容の詳細は以下の記事をご覧ください。

働き方改革により原則平成31年(2019年)施行予定の改正労働基準法の概要

 

本来は去年(2015年)の臨時国会で改正される予定だったのですが、安保のゴタゴタもあって派遣法を変えるだけで精一杯の手一杯。改正は見送られてしまいました。

ただ、自民党や厚生労働省としては、去年の段階で改正する気満々だったのですでに法案の要項自体は厚生労働大臣への答申が済んでいます。

答申というのは、官僚が厚生労働大臣に「これでいいですよね」と確認するもの。

大臣の確認が済んでいるということはつまり、これが済んでいるということはほぼこの内容でいくということ。

その証拠に、去年の2月に、この答申が済んで以降、改正労働基準法についての話し合い等は審議会などでほぼほぼ行われていません。変える気がないのだから当然です。

なので、今回はそれを元に、おそらく来年(2017年)の4月に施行されるであろうもはや、いつ変わるかわかりませんが、改正労働基準法について解説していきたいと思います。

 

改正労働基準法の内容(予定)

1.中小企業における月60時間超の時間外労働への割増賃金率の適用猶予廃止

平生22年4月1日より施行された規定では、「1カ月の時間外労働が60時間を超える」場合、通常の2割5分以上の割増賃金ではなく、「5割以上」の割増賃金を支払うこととなっています。

しかし、この規定の施行当初から中小企業では適用が猶予されていました。

その猶予が今回の改正で遂に終わります。

ただし、中小企業への5割以上の割増賃金の適用は、実務への影響が大きいということもあり、施行は来年の4月からとはならない見込み。

去年の2月の段階では平成31年4月1日施行の予定でしたが、改正が1年遅れているので平成32年になるかもしれません(この記事を書いている時点では不明です)。

 

2.健康確保のために時間外労働に対する指導の強化

イマイチ曖昧な内容ですが、要は長時間労働に対する指導を強化していくというもの。

現状の時間外労働指導でも、労働基準法上の違反だけでなく、労働安全衛生法を絡めて労働者の健康の話に持って行く場合は少なくありませんが、それがより強化されるのでしょう。

答申の段階で施行期日は今年の4月1日になっていましたがもう過ぎてしまったので、労働基準法が無事改正されれば、施行期日は来年の4月1日となるはずです。以下の制度らも同様です。

 

3.年次有給休暇の取得促進

こちらは昨年の段階でも結構話題になっていたのでご存じの方も多いかもしれませんね。

要は、労働者に付与された年次有給休暇について「5日」については会社で時季を決めて、つまり、会社が強制的に有給を取得させる、というもの。

よく、欧州では有給の取得率が高いと言われますが、高い理由はこうして、会社が有給を取る日を決めているからなんですよ。

ただし、労働者が「この時季に有給を取りたい」という場合や、すでに「年次有給休暇の計画的付与」を行っている場合の日数については今回の制度の対象外です。

つまり、労働者が5日以上の日数を自分の意志で時季を定めている場合や計画的付与で5日以上の日数をすでに付与している場合は、それにプラスして5日分を強制的に取らせる必要はないわけです。

「強制で5日」の印象が独り歩きしてますが、要は、「労働者の意思でも、計画的付与でもいいから「5日」は最低限有給を取らせろ。どちらも無理なら会社がその分強制的に取らせろ」ということです。

「強制で5日」は最後の手段なわけです。

 

ちなみに今回の制度では、1年の有給の付与日数が10日以上の人が対象なので、パートタイマーのように比例付与で10日よりも少ない日数が付与される場合は対象となりません。

また、今回の制度の導入に伴い、会社側は今後、年次有給休暇の管理簿を作成する義務が発生します。おそらく、今でも労働者名簿や賃金台帳で代用しているところは多いと思うので、あまり問題にはならないと思いますが。

 

4.フレックスタイム制の見直し

現在のフレックスタイム制とは、労働者が出退勤の時間を決められる、というもの。

ただし、フレックスタイム制でも1日8時間1週40時間の制限は適用されます。

この労働時間の規制のため、現行の労働基準法のフレックスタイム制では、1ヶ月を最大として、その枠の中で週の労働時間が40時間以内になるようにし、それを超える場合は時間外手当を支払う必要がありました。

今回の改正では、最大1ヶ月だった枠を3ヶ月に延長。

ただし、これだけだと、ある1ヶ月だけ怒涛のように働いて、それ以外の月では休みまくる、みたいなこともできてしまうため、1ヶ月を超える枠を定める場合は、1週平均50時間を超える場合にも時間外手当を支払う必要がでてきます。

また、枠が1ヶ月を超えている場合で、その途中で入社したり退社したものに関しては、上記の規定にかかわらず、1週平均40時間を超える場合に時間外手当が発生します。

 

5.企画業務型裁量労働制の見直し

事業の運営に関する時効についての「企画、立案、調査及び分析」の業務については裁量労働(みなし労働)を認める、というのが企画業務型裁量労働制ですが、その対象業務を増やす、というのが今回の改正。

追加されるのは「「企画、立案、調査及び分析」を活用して裁量的にPDCAを回す業務」と、「課題解決型提案営業」

 

6.特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

朝日新聞などのキャンペーンにより「残業代ゼロ法案」として悪名が先行している制度です。

ただ、対象となる業務が限られること(どこまで制限されるかは今後制定される省令次第)、年収要件が少なくとも1000万円以上となる予定から、該当する労働者はほとんどいないと言われています。

ほとんどいない割には条件がいろいろあるので、機会をみて別記事でまとめたいと思います。

また、高度プロフェッショナル制度の創設に合わせて、この制度の対象者は必ず医師の面接を受ける必要があると、労働安全衛生法が改正される予定です。

 

7.企業単位での労使の自主的な取組の促進

最後は、労働基準法よりは「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」の改正に関すること。

この法律自体は、書いてある内容のほとんどが努力義務で守る守らない以前の問題として、知っている人のほうが少ないと思われます。余談ながら社労士試験でもスルーされっぱなしです。

で、この努力義務の中に「労働時間等設定改善委員会」を設置しなさないというものがあります。殆どの企業では設置されてないと思いますが、衛生委員会のある企業では、一定の要件を満たす衛生委員会をこれまで「労働時間等設定改善委員会」みなすことができましたが、まずこれが廃止されます。

衛生委員会と労働時間等設定改善委員会は別物というわけです。

また、年次有給休暇の計画的付与など、労使協定を結ぶ必要のある制度について、労働時間等設定改善委員会の決議を持って替えられるようになります。

 

まとめ

  1. 中小企業における月60時間超の時間外労働への割増賃金率の適用猶予廃止
  2. 健康確保のために時間外労働に対する指導の強化
  3. 年次有給休暇の取得促進
  4. フレックスタイム制の見直し
  5. 企画業務型裁量労働制の見直し
  6. 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
  7. 企業単位での労使の自主的な取組の促進

1は平成31年もしくは平成32年4月1日施行が濃厚、2~7は平成29年4月1日施行が濃厚

 

以上、駆け足で今回の改正内容を見てきましたが、直近で最も影響が大きいのは3の有給の取得促進ですかね。

特にこれまで労働者がほとんど有給を取得できていない事業所の場合、単に有給を強制するだけでなく、業務の効率化や労働者の意識改善を含めた改善を早めに行っていかないと、現場が混乱しそうです。

また、会社の経営に直接大きな影響があるのが1ですが、幸い施行まではまだ時間があるので、時間をかけて残業そのものを減らしていくための企業努力をしていきましょう。

 

参考:「労働基準法等の一部を改正する法律案要綱」の答申

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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