労働者派遣

2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」を1から解説①

2019年11月13日

派遣労働者の同一労働同一賃金ははっきり言って複雑です。複雑怪奇と言ってもいい。

 

困難を極める派遣労働者の同一労働同一賃金

その理由はひとえに行政らしい絵に描いた餅の実現がその根底にあるからです。

しかし、いくら絵に描いた餅でも会社が法や通達等に違反するリスクは大きすぎるものがあります。

違反に対する罰則こそほぼないものの、派遣労働者の同一労働同一賃金関連で裁判になれば会社は負ける可能性は高いですし、何より派遣事業は行政の許可事業なので、その許可を取り消される可能性もあるわけです。

そんな厄介にもほどがある派遣労働者の同一労働同一賃金が始まるのは2020年4月、つまり来年の4月で待ったなしと来ている。

というわけで、今回は、派遣労働者の同一労働同一賃金について解説していきたいと思います。

 

派遣労働者の同一労働同一賃金の2つの方式

まず、大前提として、派遣労働者の同一労働同一賃金には以下の2つの方式があります。

  • 派遣先均等・均衡方式
  • 労使協定方式

この2つの方式がどのようなもので、どのような違いがあるのか、についてはこの後、詳しく説明します。

ただ、上記の2つは派遣労働者の同一労働同一賃金を考える上でとても大事なことなので、まずは上の2つ方式がありますよ、ということだけしっかり覚えてもらいたいと思います。

 

異なる会社同士での同一労働同一賃金

さて、冒頭で、派遣労働者の同一労働同一賃金は絵に描いた餅だと言いましたが、それはなぜでしょうか。

それは派遣労働者の同一労働同一賃金が派遣先の労働者と派遣労働者の同一労働同一賃金を目指すものだからです。

人事労務に関わりのない人(何でそんな人が見てるのか知りませんが)や、派遣業に関連のない人からする(だから何でそんな人が、以下略)と「派遣先の労働者と派遣労働者の同一労働同一賃金」と聞いてもピンと来ないかもしれません。

しかし、派遣先の労働者と派遣労働者というのは、同じ職場で働く労働者であっても、根本的に異なる点があります。

それは派遣先の労働者と派遣労働者では、両者を雇用する主体が異なるという点です。

より具体的に言うと、派遣先の労働者は派遣先の会社、派遣労働者は派遣元(多くの場合、人材派遣会社)にそれぞれ雇用されています。

よって、派遣先の労働者と派遣労働者の同一労働同一賃金を目指すというのは、異なる会社同士で同一労働同一賃金を目指すと言ってるも同義なわけです。

パートタイマー・アルバイトの同一労働同一賃金が、あくまで会社内の正規と非正規の格差是正に留まる中で、派遣労働者の同一労働同一賃金はそれよりもワンランクハードルが高くなっているわけです。

 

派遣先均等・均衡方式と労使協定方式

しかし、派遣労働者の賃金や待遇を派遣先の労働者に合わせる、というのは良いことばかりではありません。

派遣労働者の労働条件を派遣先に合わせるということは、派遣労働者の派遣先が変わる度に、派遣労働者の労働条件が変わるということでもあるからです。

労働条件が派遣先が変わるごとに良くなり続けるならそれでも問題ありませんが、ときには労働条件が悪くなることもあり得ます。

こうした問題があるため、派遣労働者の同一労働同一賃金においては、派遣先の労働者の労働条件に合わせる「派遣先均等・均衡方式」の他に、派遣元と派遣労働者で結ぶ労使協定によって派遣労働者の労働条件を決定する「労使協定方式」というものが認められています。

  • 派遣先均等・均衡方式:派遣労働者の労働条件を常に派遣先に合わせる方式
  • 労使協定方式:派遣元と派遣労働者で締結する労使協定によって労働条件を決定する方式

 

突然、労使協定方式の風向きが変わった

派遣先均等・均衡方式については過去記事を

実は、派遣労働者の同一労働同一賃金については本ブログでも何度も取り上げていて、とくに派遣先均等・均衡方式については以下の記事で詳しく解説しています。

派遣労働者の同一労働同一賃金を目指す労働者派遣法の改正の概要(施行は平成32年(2020年)予定)

同一労働同一賃金ガイドラインにみる「労働者派遣」について

派遣先均等・均衡方式については、上記の記事を執筆した当時と現在で内容に大きな変更はありません。なので、派遣先均等・均衡方式については、上記の記事を参考にしていただければと思います。

 

派遣先均等・均衡方式はハードルが高いが労使協定方式も・・・

さて、筆者は、派遣先均等・均衡方式についてはそもそも、かなり荒唐無稽、とまでは言わないまでもハードルが高いと当初から考えていました。

そのため、派遣労働者の同一労働同一賃金については労使協定方式が主流になるだろう、とも。

しかし、長らく行政から大きな動きのなかった労使協定方式に関して、今年の7月に「職発0708第2号 令和元年7月8日」という通達が厚生労働省が発表されたとき、そうした考えは一気に変わりました。

どれくらい変わったかというと、「労使協定方式より派遣先均等・均衡方式の方が良い場合があるかもしれない」と思えるくらいには変わりました。

なぜなら、この通達には「派遣労働者の賃金は3年で3割昇給」という、にわかには信じがたいような内容が含まれていたからです。

 

次回は、この「職発0708第2号 令和元年7月8日」という通達を含め、労使協定方式について詳しく解説していきたいと思います。

「派遣労働者の同一労働同一賃金」記事まとめ

2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」を1から解説①

労使協定方式のひな形とともに解説 2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」の解説② 

労使協定方式の賃金基準の求め方 2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」の③ 

労使協定方式の労使協定の賃金部分を解説 2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」の解説④ 

協定対象派遣労働者とは 2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」の解説⑤ 

派遣労働者の同一労働同一賃金を目指す労働者派遣法の改正の概要(施行は平成32年(2020年)予定)

同一労働同一賃金ガイドラインにみる「労働者派遣」について

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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