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労使協定方式のひな形とともに解説 「派遣労働者の同一労働同一賃金」② 

追記:2020年1月14日に厚生労働省より新しい労使協定のイメージが公開されたので、それに合わせて内容を追記修正しています。

前回の続きです。

派遣労働者の同一労働同一賃金のおさらい

前回は、派遣労働者の同一労働同一賃金には以下の2つの方式がある、という話をしました。

  • 派遣先均等・均衡方式:派遣労働者の労働条件を常に派遣先に合わせる方式
  • 労使協定方式:派遣元と派遣労働者で締結する労使協定によって労働条件を決定する方式

上記の2つの方式の内「派遣先均等・均衡方式」についてはあまりにもその達成のハードルが高いことから、派遣労働者の同一労働同一賃金については「労使協定方式」が主流になるだろうと見られています。

しかし、実はその「労使協定方式」ですら決してハードルは低くない、ということが今年の7月に厚生労働省から公表された「職発0708第2号 令和元年7月8日」という通達や、この通達以降に公表された厚生労働省の資料で明らかになってきています。

派遣先均等・均衡方式が7段くらいの雛飾りだとすると、労使協定方式は3段くらいかなあ、と思っていたら、実は5段くらいはありそうという感じです。しかも、人形の品質によっては5段の方が高く付くこともあり得る。

今回はこの、労使協定方式についてじっくり解説していきたいと思います。

 

労使協定方式の概要

派遣労働者の同一労働同一賃金とは、派遣先の労働者と派遣労働者の同一労働同一賃金を達成するものをいいます。

派遣先の労働者と派遣労働者の労働条件を合わせるということは、派遣労働者の労働条件を常に派遣先に合わせることに他なりません(これがいわゆる派遣先均等・均衡方式)。

ただ、これだと、派遣先かが変わったことで派遣労働者の労働条件が悪くなる可能性があることから、例外的に「労使協定方式」という方式が認められています。

労使協定方式では、派遣元と派遣労働者で締結する労使協定によって労働条件を決定するため、派遣先の変更ごとに労働条件を変える必要はなくなります。

 

労使協定で必ず定めなければならない項目

労使協定方式ではその名前の通り、派遣元の会社と派遣元の会社の労働者代表との間で労使協定を結ぶ必要があります。

そして、法律に定めのある労使協定なので、その労使協定には必ず定める必要のある項目というものが決まっています。

具体的には以下の通りとなります。

<労使協定方式における労使協定の協定事項>

  1. 協定の対象となる派遣労働者の範囲
  2. 1 .の派遣労働者の賃金の決定方法(イ及びロに該当するものに限る)
    イ) 派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること
    ロ) 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他就業の実態に関する事項の向上があった場合に賃金が改善されるものであること
  3. 職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他就業の実態に関する事項を公正に評価し、その賃金を決定すること
  4. 賃金以外の待遇の決定方法
  5. 労働者派遣法30 条の2 の1 項に基づく派遣元による段階的かつ体系的な教育訓練の実施
  6. その他省令で定める事項

6.のその他省令で定める事項とは以下の通り

  • 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を派遣労働者の一部に限定する場合は、その理由
  • 派遣元事業主は、特段の事情がない限り、一の労働契約の契約期間中に、派遣先の変更を理由として、協定対象派遣労働者であるか否かを変えようとしないこと

 

労使協定方式のひな形

上記の必須項目を含む形で、厚生労働省が公表している労使協定のひな形は以下のものとなります。

出典:労働者派遣法第30 条の4第1項の規定に基づく労使協定(イメージ)(令和2年1月14日公表版) (リンク先PDF 厚生労働省)

 

1.対象となる派遣労働者等

労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定(イメージ)

○○人材サービス株式会社(以下「甲」という。)と○○人材サービス労働組合(以下「乙」という。)は、労働者派遣法第30条の4第1項の規定に関し、次のとおり協定する。

(対象となる派遣労働者の範囲) ←法第30条の4第1項第1号「適用される派遣労働者の範囲」+第6号「その他厚生労働省令で定める事項」の一部
第1条 本協定は、派遣先でプログラマーの業務に従事する従業員(以下「対象従業員」という。)に適用する。
2 対象従業員については、派遣先が変更される頻度が高いことから、中長期的なキャリア形成を行い所得の不安定化を防ぐ等のため、本労使協定の対象とする。
3 甲は、対象従業員について、一の労働契約の契約期間中に、特段の事情がない限り、本協定の適用を除外しないものとする。

 

協定が必要な事項の第1号「適用される派遣労働者の範囲」の第6号「その他厚生労働省令で定める事項」の一部が第1条となっています。

1項の派遣労働者の業務については、会社の事情によって、以下のようなバリエーションが厚生労働省の労使協定のイメージでは提案されています。

【労働契約期間によって対象を限定する場合の例】
第1条 本協定は、期間を定めないで雇用される派遣労働者(以下「対象従業員」という。)に適用する。

【一の労使協定に複数の職種を記載する場合の記載例】
・第1条 本協定は、派遣先でプログラマー及びシステムエンジニアの業務に従事する従業員(以下「対象従業員」という。)に適用する。
・第1条 本協定は、派遣先で別表○に掲げる業務に従事する従業員(以下「対象従業員」という。)に適用する。

後者のように、一の労使協定に、複数の職種を記載することも可能ですが、各職種において、一般賃金の額と協定派遣労働者の賃金の額が同等以上であることを確認できることが必要とされています。

2項と3項は、このまま書く以外ない感じです。

 

2.賃金

(賃金の構成)
第2条 対象従業員の賃金は、基本給、賞与、時間外労働手当、深夜・休日労働手当、通勤手当及び退職手当とする。

 

(賃金の決定方法)  ←第2号イ「賃金の決定方法」
第3条 対象従業員の基本給及び賞与の比較対象となる「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」は、次の各号に掲げる条件を満たした別表1の「2」のとおりとする。

(一)比較対象となる同種の業務に従事する一般の労働者の職種は、令和元年7月8日職発0708第2号「令和2年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について」(以下「通達」という。)に定める「平成30年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)の「プログラマー」とする。

(二)通勤手当については、基本給及び賞与とは分離し実費支給とし、第6条のとおりとする。

(三)地域調整については、就業地が北海道内に限られることから、通達に定める「地域指数」の「北海道」を用いるものとする。

 

第4条 対象従業員の基本給及び賞与は、次の各号に掲げる条件を満たした別表2のとおりとする。
(1) 別表1の同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額と同額以上であること
(2) 別表2の各等級の職務と別表1の同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額との対応関係は次のとおりとすること
Aランク:10年
Bランク:3年
Cランク:0年
2 甲は、第9条の規定による対象従業員の勤務評価の結果、同じ職務の内容であったとしても、その経験の蓄積・能力の向上があると認められた場合には、基本給額の1~3%の範囲で能力手当を支払うこととする。
また、より高い等級の職務を遂行する能力があると認められた場合には、その能力に応じた派遣就業の機会を提示するものとする。 ←第2号ロ「職務内容等の向上があった場合の賃金の改善」

 

第5条 対象従業員の時間外労働手当、深夜・休日労働手当は、社員就業規則第○条に準じて、法律の定めに従って支給する。

 

第6条 対象従業員の通勤手当は、通勤に要する実費に相当する額を支給する。

 

第7条 対象従業員の退職手当の比較対象となる「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」は、次の各号に掲げる条件を満たした別表3のとおりとする。
(一)退職手当の受給に必要な最低勤続年数:
通達に定める「平成30年中小企業の賃金・退職金事情」(東京都)の「退職一時金受給のための最低勤続年数」において、最も回答割合の高かったもの(自己都合退職及び会社都合退職のいずれも3年)
(二)退職時の勤続年数ごと(3年、5年、10年、15年、20年、25年、30年、33年)の支給月数:
「平成30年中小企業の賃金・退職金事情」の大学卒の場合の支給率(月数)に、同調査において退職手当制度があると回答した企業の割合をかけた数値として通達に定めるもの

 

第8条 対象従業員の退職手当は、次の各号に掲げる条件を満たした別表4のとおりとする。ただし、退職手当制度を開始した○○年以前の勤続年数の取扱いについては、労使で協議して別途定める。
(一)別表3に示したものと比べて、退職手当の受給に必要な最低勤続年数が同年数以下であること
(二)別表3に示したものと比べて、退職時の勤続年数ごとの退職手当の支給月数が同月数以上であること

 

(賃金の決定に当たっての評価) ←第3号「賃金の決定に当たっての評価」
第9条 賞与の決定は、半期ごとに行う勤務評価を活用する。勤務評価の方法は社員就業規則第○条に定める方法を準用し、その評価結果に基づき、別表2の備考1のとおり、賞与額を決定する。

 

別表1、別表2、別表3、別表4

別表1 同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額

基準値及び基準値に能力・経験調整指数を乗じた値
0年 1年 2年 3年 5年 10年 20年
プログラマ ー

※1

通達に定める賃金構造基本統計調査 1,221 1,416 1,549 1,610 1,695 1,996 2,491
地域調整

※2

(北海道)

92.0

1,124 1,303 1,426 1,482 1,560 1,837 2,292

 

別表2 対象従業員の基本給及び賞与の額

等級 職務の内容 基本給額

(※1)

賞与額

(※2)

合計額

(※4)

対応する一般の労働者の平均的な賃金の額

(※3)

対応する一般の労働者の能力・経験

 

Aランク 上級プログラマー(AI関係等高度なプログラム言語を用いた開発) 1,600~ 320 1,920 1,837 10年
Bランク 中級プログラマー(Webアプリ作成等の中程度の難易度の開発) 1,250~ 250 1,500
1,482 3年
Cランク 初級プログラマー(Excelのマクロ等、簡易なプログラム言語を用いた開発) 1,000~ 200 1,200 1,124 0年

(備考)

  1. 賞与については、半期ごとの勤務評価の結果により、A評価(標準より優秀)であれば基本給額の25%相当、B評価(標準)であれば基本給額の20%相当、C評価(標準より物足りない)であれば基本給額の15%相当を支給する。
  2. 未だ勤務評価を実施していない対象従業員については、C評価(標準より物足りない)とみなして支給する。
  3. 同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額と比較するに当たっては、月給を月の所定労働時間数で除して時給換算した額より比較するものとする。
  4. 同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額と比較するに当たっては、賞与額は標準的な評価であるB評価の場合の額により比較するものとする。

別表3 同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額(退職手当の関係)

勤続年数 3年 5年 10年 15年 20年 25年 30年 33年
支給率(月数) 自己都合退職 0.8 1.4 3.1 5.3 7.6 10.6 13.3 15.3
会社都合退職 1.2 1.9 4.1 6.5 8.9 11.8 14.5 16.6

(資料出所)「平成30年中小企業の賃金・退職金事情」(東京都)における退職金の支給率(モデル退職金・大学卒)に、同調査において退職手当制度があると回答した企業の割合(71.3%)をかけた数値として通達で定めたもの

 

別表4 対象従業員の退職手当の額

勤続年数 3年以上5年未満 5年以上10年未満 10年以上15年未満 15年以上25年未満 25年以上35年未満
支給月数 自己都合退職 1.0 3.0 7.0 10.0 16.0
会社都合退職 2.0 5.0 9.0 12.0 18.0

llV

別表3(再掲)

勤続年数 3年 5年 10年 15年 20年 25年 30年 33年
支給率(月数) 自己都合退職 0.8 1.4 3.1 5.3 7.6 10.6 13.3 15.3
会社都合退職 1.2 1.9 4.1 6.5 8.9 11.8 14.5 16.6

(備考)
1 同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額と比較するに当たっては、退職手当額は、支給総額を所定内賃金で除して算出することとする。
2 退職手当の受給に必要な最低勤続年数は3年とし、退職時の勤続年数が3年未満の場合は支給しない。

賃金は派遣労働者の同一労働同一賃金の労使協定の核となる部分です。

そして、労使協定方式のハードルをぐっと引き上げてる部分でもあります。

ただ、労使協定方式における派遣労働者の賃金の解説は、かなり複雑な上、文量も必要ので、別記事できちんとまとめたいと思います。

 

一点だけこの記事で解説すると、上記の労使協定例では、第3条で、どの賃金統計を使って派遣労働者の賃金と比較するかが記載されていますが、以下の場合はその理由も記載する必要があるとされています。

次の①~③の場合には、その理由を労使協定に記載する

① 職種ごとに賃金構造基本統計調査と職業安定業務統計を使い分ける場合
② 職業安定業務統計を用いる場合であって、次のように職業分類を使い分ける場合
・ 「大分類」と「当該大分類内の中分類又は小分類」
・ 「中分類」と「当該中分類内の小分類」
③ 職業安定局長通知で示したデータ以外の他の公式統計又は独自統計を用いる場合

 

3.賃金以外の待遇その他

(賃金以外の待遇)←第4号「賃金以外の待遇」
第10条 教育訓練(次条に定めるものを除く。)、福利厚生その他の賃金以外の待遇については正社員と同一とし、社員就業規則第○条から第○条までの規定を準用する。

 

(教育訓練)←第5号「教育訓練」
第11条 労働者派遣法第30条の2に規定する教育訓練については、労働者派遣法に基づき別途定める「○○社教育訓練実施計画」にしたがって、着実に実施する。

 

(その他)
第12条 本協定に定めのない事項については、別途、労使で誠実に協議する。

 

(有効期間)←第6号「その他厚生労働省令で定める事項」
第13条 本協定の有効期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までの○年間とする。

 

令和○年 ○月○日

○○人材サービス株式会社 取締役人事部長  ○○○○ 印
○○人材サービス労働組合 執行委員長  ○○○○ 印

 

 

第10条の賃金以外の待遇については正社員向けの就業規則を参照することを前提とした記載になっていますが、派遣社員用に別の規程がある場合は以下の通りとなります。

【正社員と別規程を使用している場合の記載例】
第10条 教育訓練(次条に定めるものを除く。)、福利厚生その他の賃金以外の待遇については、正社員に適用される〇〇就業規則第〇条から〇条までの規定と不合理な待遇差が生じることとならないものとして、〇〇就業規則第○条から第○条までの規定を適用する。

 

その他は特に解説することはありませんが、必ず記載しなければならない項目ばかりなので、記載漏れ等がないよう注意しましょう。

また、この労使協定は有効期間が終了した日から起算して3年が経過するまで保存義務がある点にも注意が必要です。

 

最も重要なのは賃金

今回は労使協定方式について、きちんとイメージを持ってもらうため、労使協定のひな形をまるっと引用して解説してみました。

なかなかの文量にちょっとひるんでしまうかもしれませんが、実は上記の内の半分くらい、主に賃金と関わらないところについては、きちんと読めば理解は難しくないかと思います。

一方で、労使協定のもう半分を占める賃金と関連する部分(労使協定の必要項目でいう2.イ)、労使協定ひな形の条文でいう2条から8条)については、についてはかなり複雑な上、ここをしくじると労使協定方式を採用している意味がなくなってしまいます。

なので、次回は労使協定方式における派遣労働者の賃金について詳しくみていきたいと思います。

 

「派遣労働者の同一労働同一賃金」記事まとめ

2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」を1から解説①

労使協定方式のひな形とともに解説 2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」の解説②

労使協定方式の賃金基準の求め方 2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」の③ 

労使協定方式の労使協定の賃金部分を解説 2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」の解説④ 

協定対象派遣労働者とは 2020年4月に施行目前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」の解説⑤ 

派遣労働者の同一労働同一賃金を目指す労働者派遣法の改正の概要(施行は平成32年(2020年)予定)

同一労働同一賃金ガイドラインにみる「労働者派遣」について