労働保険・社会保険制度の解説

労働者の(横暴な)「社会保険や雇用保険に加入したくない」という要求は無視していい

2016年8月1日

会社経営者の方や人事・労務担当者の方、

労働者が雇用保険や社会保険に入りたくない

と言ってきたらどうしますか?

労働時間や賃金などの労働条件を調整するのが通常というか、それ以外の合法的方法はありません。

しかし、労働者がそれすら拒む場合はどうでしょうか。

中には「労働者の機嫌を損ねたくないからいれない」とか「会社の負担もなくなるし、まあ、いいか」と思う会社もあるかもしれません。

そして、時は経ち、保険に入りたくないと言っていた労働者が退職するときがやってきました。

当然、雇用保険に入っていないので、会社は離職票を作成する必要はありません。というか、作成のしようがない。

しかし、その労働者は図々しくも「失業保険がほしいから」という理由で、離職票の作成を会社に頼んできました。

雇用保険や社会保険は原則、過去2年までなら遡って加入することができます。もちろん、保険料もその分支払う必要があるのですが、その労働者は離職票だけもらうと、労働者負担の保険料を支払うことなく逃げてしまいました。

請求しようにも行方はわからず、結局会社が労働者負担分もかぶることに。

労働者の「入りたくない」という意思を無視して、法律通りにきちんと保険に入れておけば、会社負担分だけで済んだのに、なまじっか労働者の意思を尊重してしまったがために労働者負担分の保険料も支払うことになってしまったわけです。

 

遡っての加入は手間

これは以前、監督署の方から「関西でよくある話」として聞いたものです。

関西ならありうるなあ、などと思ってそのときは納得してしまいましたが、他の方からは別にそのような話を聞いたことがないので、ほんとうに「よくある」ことなのかは知りませんが、ただ、普通に起こり得ることだとは思います。

というのも、先日の記事にも書きましたが、

保険料は天引きできるものは、雇用保険は当月分、社会保険は前月分だけ。

それ以前の分については天引きではなく、会社が労働者に直接請求する必要があります。

請求に応じない場合、裁判で請求することになりますが、社会保険は額が大きいのでまだましかもしれませんが、雇用保険の場合、そこまでの手間やコストを掛けてペイするとも思えません。

また、このような年度をまたぐ雇用保険の遡り加入の場合、遅延理由書などの添付書類が必要になったり、労働保険料の修正申告もしないといけないなど、普通に加入させるよりもよっぽど手間がかかります。

 

罰則や監督署の調査に入られる可能性も

会社自体が未加入の場合、法律上明確な罰則はありませんが、すでに加入している会社が労働者の加入手続きを怠っていて未加入の場合は別。

被保険者資格のあるものが未加入だと、社会保険の場合「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金(健康保険法第二百八条一)」、雇用保険の場合「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金(雇用保険法第八十三条)」の刑が科されます。

また、そういうわがままな労働者の場合、ハローワークや監督署で「会社が入れてくれなかった」と嘘の申告をする可能性だってあります。

そうなれば、会社に監督署の調査が入るのは避けられません。

 

結論

というわけで、「会社は社会保険や雇用保険の加入において労働者の意見を聴くな」というのが今回の結論。

ただし、社会保険や雇用保険には加入のための条件があるので、その条件に合うよう労使が話し合って労働条件を調整するのはOK。

その代わり、労働条件上で加入の条件を満たしている労働者に対しては有無も言わさず加入させる。

そうすることで「今は」労使間で衝突が起こるかもしれませんが、将来的な労務管理を考えた時は間違いなくそのほうがプラスです。

繰り返しますが、そういうわがままな労働者は労使トラブルの素。

「保険にはいるのなら辞める」というのであれば、そうさせたほうがよっぽどいい。下手に会社に居座られたら、そのうち必ず問題を起こす。

というか、保険に加入するって、コンプライアンス上で考えても当然の話ですしね。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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