労働保険・社会保険制度の解説

社会保険や雇用保険、労災保険に会社が未加入時のペナルティの話

2016年7月29日

昨日の中日新聞の連載で、「労災保険未加入の事業所で労災が起こった場合、労働者は給付を受けられるが、会社はそれにかかった費用等を負担しないといけない」といった趣旨のことを書きました。

紙面の関係で、詳細は省きましたが、今回は会社が労災保険未加入だった場合のペナルティのより詳しい話に加え、雇用保険と社会保険のペナルティの話もしていきたいと思います。

 

過去2年間分の保険料を遡って徴収される

保険料の徴収は時効が2年間。なので、最大で過去2年間、遡って保険料を徴収されます。

これは社会保険、雇用保険、労災保険、いずれの場合も同様です。

そして、基本的に社会保険と雇用保険についてはこれ以外のペナルティはありません。

とはいえ、遡りで支払う場合、気をつけないといけない点があります。

まず、2年間分まとめて、ということになるので、毎月支払うよりも額が大きくなります。特に社会保険は料率が高いので、経営へのダメージも大きい。

また、労働者が労働者負担の分の支払いを拒否する場合があります。保険料は天引きできるもの、と考えている人も少なくないかもしれませんが、実際にできるのは、雇用保険は当月分、社会保険は前月分だけ。

それ以外の分も徴収できないわけではないのですが、その場合、会社が労働者に請求する必要があります。

労働者が請求に応じてくれればいいですが、費用が多額になるので退職などで逃げられる可能性もあります。

 

実は罰則がない?

他にペナルティがない、と聞くと、懲役や罰金などの、法律上の刑罰はないのか、と疑問に思うかもしれません。

実は法律の条文を読むと、どの保険も、基本的には加入は強制ということもあってか、会社が入らないことをそもそも想定していないようで、罰則規定がありません。

ただ、あるように書いてる記事やサイトも有ります。

確かに、健康保険法なんかを見ると、

第二百八条  事業主が、正当な理由がなくて次の各号のいずれかに該当するときは、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一  第四十八条(第百六十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき。(以下略)

こんなことが書いてあります。

ほら見ろ、届出しないと罰則があるって書いてあるじゃないか、と思うかもしれませんが、ここでいう届出というのは、被保険者の資格・喪失届や算定基礎届、賞与届のこと。

会社が社会保険に加入する際には「新規適用届」というものを出すのですが、それを出さないことについては何も書かれていないわけです。

まあ、「新規適用届」を出さないことには被保険者の資格・喪失届とか出せないので、準用できなくもない気がしますが、とりあえず法律の条文上はそんな感じ。

雇用保険も社会保険と似たような感じ、そして、労災にも会社が加入しないことについての罰則規定はありません。

 

労災の特殊なペナルティ

で、労災の話なのですが、労災では未加入の場合「過去2年間分の保険料を遡って」の他に、未加入時に労災が起こると、保険給付の一部または全部を会社が負担することになります。(保険給付のうち、療養(補償)給付や介護(補償)給付、二次健康診断等給付は除きます)

労災保険では、会社が未加入でも、労働者は労災の給付を受けることができます。

しかし、給付にかかった費用というのは、きちんと労災保険に入っている会社が収めている保険料から出ているわけです。

未加入で保険料も払ってないのに、労災にあった労働者の補償だけは労災保険から払ってもらう、というのでは話が通らないわけです。そもそも、労災にあった労働者への補償は、会社の義務なわけですし。

実は、この未加入時の労災の費用負担ですが、未加入に関して会社側に「故意または重大な過失」があるときに限られます。「故意」と「重大な過失」では費用負担の割合が異なります。

 

故意の場合は100%

ここでいう「故意」とは

  • 行政機関から、保険関係成立届を提出するよう指導等を受けたにも関わらず、提出を行っていない場合
  • 過去に事業を行っていた事業主が保険関係成立届を提出していない場合
  • 複数の事業を行う事業主で、そのうちの1つの事業所で保険関係成立届を提出していない場合

というのが当てはまります。

この場合、会社は労働者の給付にかかった額の100%を負担することになります。

 

重大な過失の場合は40%

「重大な過失」とは「行政機関から指導を受けたことはないものの、保険関係成立日(労働者を雇い始めた日)から1年を経過してもなお労災に加入していない場合」を言います。

この場合、会社は労働者の給付にかかった額の40%を負担することになります。

 

例えば、休業(補償)給付の場合、労災から平均賃金(給付基礎日額)の60%が平日・休日関係なく休業期間中は毎日出ます。

あるいは、労災で障害状態となった場合、一番重い場合だと、年金として平均賃金(給付基礎日額)の313日分が労災から出るわけですが、未加入で労災が起こり「故意または重大な過失」が認められれば、こうした費用を会社が負担しないといけなくなるわけです。

保険料とは別の意味で恐ろしい負担なのは想像に難くないのではないでしょうか。

 

ペナルティを避けるために

ペナルティを避けるためにすべきことは、ただ1つだけ。

「必ず加入する」

これだけです。

たまに、社労士はそうやって役所に対して誤魔化しをするのが仕事だろ、みたいに思ってるか経営者とかいますが、ふざけんじゃないという話。

というか、税理士と一緒にすんなって話です。

…いま、日本全国の税理士を敵に回す発言をしてしまいましたが、あのー、勘違いなきように。

言いたかったのは、税金と保険料ではそもそも仕組みが違うってことです。なので、税金のように、やり方次第で節税ならぬ「節保険料」ができる余地はほとんどないのです。

それでなくても、社会保険や労働保険に入らない会社と付き合うメリットって社労士にはまったくないし、逆にリスクが増すばかり、とこれ以上書くと、またぞろ多くの人を敵に回しかねないのでこの辺で。

 

最後に、現在、未加入事業所への加入の催促を非常に厳しく行っている年金機構ですが、加入の催促に素直に応じる会社に対していきなり「過去2年分遡って」というようなことはほとんどしてないようです。

つまり、年金機構に関しては、協力的な事業所に対してまで厳しく取り立てを行うようなことはしていないので、現在未加入の場合、年金機構があなたの会社に「見切り」をつける前に、きちんと加入したほうが良いでしょう。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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