安全衛生

「中間管理録トネガワ」から読み解く労務管理のツボ ④「病欠」

2016年11月18日

前回からかなり間が空いてしまいましたが、まだまだやっていきます。この「中間管理録トネガワ」。

実は、1巻中盤の焼き土下座機でのバーベキュー回以降、なかなか労務管理的な視点で語れるテーマが本編内になく、物語は一気に飛んで2巻の中盤、第13話から「労務管理のツボ」を解説していきたいと思います。

この回では、紆余曲折あったものの、限定ジャンケンの企画が通り、いざ準備、となった段階。

しかし、すべてが万全に進むことはない、ありえない「中間管理録トネガワ」では、ここで黒服の1人がインフルエンザにかかってしまいます。

多重債務者たちを環境の劣悪な地下に閉じ込めて、健康度外視で作業させている「帝愛グループ」とはいえ、インフルエンザの労働者を働かせる、というのはやりづらい。

だって…、伝染るし。

というわけで、インフルにかかった黒服を休ませる一方で、感染が拡大しないよう徹底した衛生管理のもと業務が行われていく、というのがこの13話です。

詳しくは本編を。
中間管理録トネガワ(2) (ヤングマガジンコミックス)
中間管理録トネガワ(2) (ヤングマガジンコミックス)

 

体調不良による欠勤をどう扱うか

寒くなってきたこともあり、これからインフルエンザも本格化する季節です。

皆さんの会社で働いている人の中にもインフルエンザにかかってしまう人も出てくるかもしれません。

社員がインフルエンザにかかってしまった場合、労務管理的には「通常の病欠」の際に気をつけることに加えて、「インフルエンザ特有」の事情も考慮する必要がでてきます。ここでいう「通常の病欠」とは、私傷病による欠勤のことで、労災による休業は含みません。

単なる体調不良であれば、病気が他の人に伝染るということはないですが、インフルエンザは感染力の強い病気ですので、そのことも踏まえた対応を取らなければなりません。

どちらもまとめて解説すると記事が長くなる上、混乱を招きかねないので、記事を2つに分け、今回はまず広く「病欠(病気や体調不良による欠勤)」一般の労務管理について解説していこうと思います。

 

欠勤は労働契約違反

まず、大前提の話として、理由はどうあれ労働者の都合によって会社を休む、というのは基本的に「労働契約違反」となります。

労働契約や就業規則には、始業時刻や終業時刻に加え、出勤日や休日の記載があるはずです。

これに同意して入社した以上、労働者は契約の労働日に出勤し、契約の時刻に働く、という契約下にあります。

よって、病気や体調不良であっても、契約どおりに働けないのであれば、それは労働契約違反となるわけです。

こうしたこともあって、会社が労働者の健康や安全に配慮するという「安全配慮義務」を負う一方で、労働者も契約を守るために「健康保持義務」を負うものとされているわけです。

 

無理やり働かせるリスク

なので、契約を盾に無理やり体調不良者を働かせることもできなくはありません。

とはいえ、体調不良の労働者を無理やり働かせても、賃金に見合うだけの働きができるとは思えません。日本の賃金はすべて労動時間によって発生するので、明らかに生産性が低いであろう人間に働かせるのは得策とはいえません。

また、そうした人間を無理やり働かせて、何か健康上のトラブルが起これば、それこそ会社の安全配慮義務違反を問われかねません。

何より、労働者も人間なら、使用者だって人間。

お互い、いつ病気になるかわからない、と考えれば、体調不良による欠勤についてはある程度寛容に考えるべきでしょう。

 

欠勤の手続き

では、体調不良者の欠勤について、会社はどのように取り扱えばよいのでしょうか。

まず、手続き的な話をすると、会社からすると欠勤は、体調不良以外の場合でも必ず許可制にした方がいいです。

なぜなら、欠勤などの勤怠不良は、解雇が難しい日本の法規制において、どちらかというとその正当性が認められやすい分野だから。

その際に重要なのが、会社がその欠勤を許可したかしないか、だからです。

体調不良による欠勤は当日になることが多くバタバタしやすいですが、きちんと書面や記録として残しておけるようにしておきましょう。

 

欠勤時の賃金の取り扱い

賃金についてですが、賃金というのは「ノーワーク・ノーペイ」が原則ですから、働いていない以上、賃金を支払う義務は、法律上、会社にはありません。

会社によっては、就業規則等で病気休暇等を定めていて、その休暇を有給としているところもあるかもしれませんが、そうでもない限り、賃金は発生しないわけです。

 

欠勤を有給に振り替えることは可能か

では、体調不良による欠勤を、労働基準法上の年次有給休暇に振り替える場合はどうでしょうか。

体調不良による欠勤をあとから年次有給休暇と振り替える、というのは、有給の事後請求にあたります。

労働者には有給の時季を指定する時季指定権という権利があるので、過去に遡っての指定も可能なように思えます。

しかし、労働者に時季指定権があるように、会社にもその時期を変更する時季変更権があります。

事後の請求となると、すでに労働者は休んでしまった後なので、会社が持つこの時季変更権を行使する余地がありません。

よって、有給の事後請求は法律上、労働者に当然には認められていないのです。

振替ではなく、体調不良による欠勤当日に有給を取得することもあるかもしれませんが、こちらも同様に会社に時季変更権を行使する余地がない(※)ため、当然には認められてはいません。

ただし、禁止されているわけではないので、会社が認めるのであれば、振替や当日取得も可能です。

 

※ 年次有給休暇は原則午前0時からの24時間のため、例えば出社前に申請したとしても、年次有給休暇となる1日はすでに始まった後になる。

 

欠勤が長期に及ぶ場合

場合によっては、体調不良が長期に及び場合もあります。

長期の私傷病による欠勤ついては休職扱いとする会社も多いと思いますが、その判断のためにも、欠勤が長引きそうな場合は必ず医師の診断書を提出させた方が良いでしょう。

というか、体調不良を理由とするズル休みをする労働者がいないとも限らないので、診断書自体は、例え1日の休業であっても出してもらうほうが良いのですが、そのあたりは手間との相談ですかね。あるいは、断続的に体調不良を理由に欠勤する労働者に診断書を提出させられるような規則にしておくとか。

 

以上です。

上記の内容は、「労災でないこと」「労働者の方から体調不良で会社を休みたいと言っている」ことを前提とした内容です。そのため、労災保険の給付や休業手当については触れませんでした。

次回は、これらを踏まえて「インフルエンザ」特有の問題について考えていきたいと思いますが、たぶん、来週中には書いて記事を上げられるはず。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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