労働時間

36協定「届」の押印不要が検討中、けれど、早くも注意点が

2020年8月31日

会社が労働者に対して時間外労働、休日労働を行わせる場合、会社は労働者代表と36協定を締結し、それを管轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。

管轄の労働基準監督署に36協定を提出する際は、「様式9号」と呼ばれる「36協定届」に、労使双方の署名押印がなされます。

実はこの36協定届の提出の際に必須とされている労使双方の押印について、見直す動きがあります。

端的に言うと、36協定届の労使の押印を不要にするという動きです。

ただし、注意しないと行けないのは、これはあくまで「36協定届」の押印を不要とするだけという点です。

 

36協定書と36協定届

実は、36協定には「36協定書」という「労使協定」と、「36協定届」という「協定届」があります。

そう言われると「2つもあったっけ?」と思われることも多いことでしょう。

36協定と聞いて人事労務の担当者の方がイメージするのは、ほとんどの場合、以下のような「36協定届」かと思われます。

 

36協定届=36協定書

では、なぜ人事労務の担当者にとって36協定届に馴染みはあっても、36協定書には馴染みがないのでしょうか。

これは、過去に出された「昭和五三年一一月二○日基発六四二号」という通達に原因があります。

というのも、この通達では、

なお、様式第九号(協定届)に労働者代表の押印等を加えることにより、これを三六協定の協定書とすることは差し支えなく、また、これを届け出ることも差し支えないが、この場合には、当該協定書の写しを当該事業場に保存しておく必要があること。

とあり、協定届に「労働者代表の押印等」を加えることで、協定届自体を「協定書」とすることができるとされているからです。

これにより、多くの会社では「36協定届=36協定書」という扱いとなっているわけです。

 

36協定の協定書と協定届の関係は過去に記事にしているのでこちらをどうぞ。

36協定って、協定届の他に1年単位の変形労働時間制のような協定書はいらないの?

 

押印不要で協定書の作成が必須に?

さて、今回の見直しで、協定届への押印が不要となると「昭和五三年一一月二○日基発六四二号」通達と齟齬が出ます。

なぜなら、押印なしの協定届を監督署に提出することができるようになっても、その協定届には押印がないため協定書の効力を持たなくなるからです。

よって、押印なしの協定届を監督署にて提出する場合、36協定の原理原則通り、それとは別にきちんと労使双方の署名押印の入った労使協定を作成する必要があります。

では、押印不要の協定届に押印をすればこれまで通り協定届を協定書として扱うことができるかというと、先日の労働政策審議会の資料で明確化されておらずこちらはまだ不明。

また、現状では押印不要となるのはあくまで36協定届だけのようで、他の押印が必要な届出については今後も必要なままのようです。

 

ちなみに、協定届の押印不要に伴い、様式も以下のように変更される予定です。

「㊞」が亡くなる代わりに、チェックボックスが追加されます。

出典:労働基準法に基づく届出等における 押印原則の見直しについて(リンク先PDF 出典:第163回労働政策審議会労働条件分科会

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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