その他労務管理

「すぐに」「簡単に」は大抵ウソ。助成金の基本の基本をわかりやすく解説

2016年10月18日

偶然なのか、暗に景気状況を表しているのか、最近助成金の問い合わせが多いので、今日はその話。

普段、人事労務の手続きをしていて、助成金の手続きをしたことがない場合、助成金というのは「申請書を出せばもらえる」程度に考えている場合があります。

ただ、助成金は国のお金。

国のお金なので、もらうのはけっこう大変なんですよ、ということで今回は、助成金をもらう際の手続きで、大体どの助成金でもやらないといけないこと、必要となることを大まかに解説したいと思います。

現在、助成金にどんなものがあるかや、個別の助成金の手続方法については今回解説しないので、興味のある方は厚生労働省のサイトを御覧ください。

事業主の方のための雇用関係助成金

 

簡単にも、すぐにももらえないのが助成金

会社を経営していると、社労士から「こんな助成金があるんですよ」みたいな営業されること、多いと思います。

で、助成金を営業に使う側は、申請するかどうかはともかく、なんとかしてアポイントメントを取りたいので「簡単にもらえる」とか「すぐにもらえる」とか、耳心地のいい事を言うわけです。

でも、すぐに簡単にもらえるのならワケがないというか、社労士もいらないわけで、多くの手続きは社労士が代行するにしても、助成金をもらうには結構な手間がかかるし、先に言っておきますが「すぐに」は、まずもらえません。

そういう助成金は中安金くらいで終わってます(中安金は今でもあるけど。まあ、名前は雇用調整助成金に変わったが)。

その理由はこれから説明することを読んでいただければわかると思います。

 

要件を満たす「だけ」では、もらえないのが助成金

助成金というのは、会社として何らかの要件を満たすともらえるものです。

社労士が扱う助成金は、雇用保険二事業の一環として行われていることが多いので、雇用の安定や職業能力の向上、キャリアアップなどがその要件となることが多いです。

例えば、キャリアアップ助成金では、有期雇用の労働者を正規雇用として転換した場合に助成金が出ます。

しかし、単に転換しただけではダメで、事前に「計画を立て」たり、「就業規則を整えた」上で、すでに「6カ月以上」在籍している有期雇用の労働者を転換する必要がある上、申請には転換から「6カ月後」もその労働者が会社に在籍している必要があります。

助成金をもらう要件は確かに「有期を正規に転換」することですが、それ以外で達成しないといけない条件というのが助成金は非常に多いのです。

この説明だけでも「すぐに」もらえないのはわかっていただけたのではないでしょうか。

 

助成金をもらうまでの流れ

では、ここからはもう少し詳しくというか、どの助成金をもらうにしても気をつけないといけないことを、いくつか解説していこうと思います

 

① 助成対象の事業主を把握する

助成金をもらう場合、助成金の支給要件を満たす以前の話として、会社がその助成金の対象となっているかを見る必要があります。

例えば、大企業はもらえないけど、中小企業はもらえるというのもあるし、大企業と中小企業で貰える額が違うという場合も少なくありません。

モノによっては助成対象となる業種が決まっている場合もあります。

また、労働保険料の未納だったり、過去に助成金の不正受給や事業主都合の解雇を行ったりすると助成金がもらえないことがあります。

よって、助成金の支給条件だけでなく、どういった事業主を対象としているかもきちんと抑えておきましょう。

 

② 計画を立てる・就業規則を整える

最近の助成金で多いパターンが、申請前に計画を立て、労働局に提出するというもの。

いくら助成金の支給要件を満たしたとしても、計画が提出されていなければ助成金はもらえないわけです。

ただ、計画だけでは労使ともに拘束力がないので、就業規則にも計画に沿った条文を入れる必要がある。

すぐに助成金はもらえないけど、助成金もらおうと思ったらすぐに就業規則を直さないといけないわけです。

就業規則を整えると儲かるのは社労士なわけですから、「すぐに(お金を)もらえる」のは社労士の方、というオチです。

同業者から怒られそうな冗談はさておき、計画の期間は短くても3カ月以上、長いと最低3年みたいなものもある上、計画立てて就業規則を整える以上、助成金もらったらハイ終わり、というわけにもいきません。

そのため、目先の助成金だけでなく、計画を立てる段階で、本当に会社に必要なことなのか、という長期的な視野を保つ必要があります。

 

③ 支給申請可能となる日時を抑える

上で述べたように、要件を満たしてから申請が可能になるまで時間がかかる、という助成金も少なくないです。

とくに、労働者の雇用契約や形態に関わることが要件だと、要件を満たして以降の雇用実績も非常に重要となるからです。

そのため、助成金をもらう場合は、支給申請可能となる日を、忘れないよう、きちんとスケジュールに入れておいたほうがいいです。

 

④ 添付資料が膨大になる

いざ申請、と相成った場合、単に助成金の申請書を出すだけでは助成金はもらえません。

申請書に書かれていることすべてが正しいことを、労働局に証明するための資料が必要となるからです。

例えば、キャリアアップ助成金で有期雇用の労働者を正規雇用とした場合、正規雇用とすることの根拠となる就業規則の条文、本当に正規雇用として働き始めたことを証明する雇用契約書、労働実績を証明できるタイムカードなどが必要となるわけです。

さすがにこれらのものは、社労士が用意するわけにはいかず、会社の方で用意してもらう必要があるので、必ずしも「簡単」とは言い切れないわけです。

 

以上です。

すぐにも、簡単にももらえない助成金ですが、今後の会社を考えた上で目的に合致したものがあるのであれば、利用する価値は十分あるので、言い方は悪いですが「お金目当て」ではなく、「会社の将来のため」の助成金探しをしたほうが良いかと思います。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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