賃金

時間外手当が「1.25」なのに深夜手当を「0.25」と就業規則に書く理由

2017年5月29日

仕事が立て込んで、定時を回っても全然帰れる気配がない。

仕事を明日に回そうにも、仕事は雪だるま式に増えるので、後回しにしたら明日の帰る時間が遅くなるだけ。

社労士の事務所だと6月から7月にかけての労働保険の年度更新や社会保険の算定基礎届の提出時期や、年末の年末調整の時期なんかで、よくこうしたことが起こります。

こういった時期に、気がついたら時計の針が10時を回っていた、というのは、ままあることではないでしょうか。

 

時間外手当も深夜手当も法定割増率は2割5分以上

さて、定時を超えて働かせる、つまり時間外労働をさせたときに支払わないといけない法定の割増率が2割5分以上、というのは労務に携わる人なら常識でしょう。

そして、同様に、午後10時を越えて、つまり、深夜労働をさせたときには深夜の割増賃金も支払わないといけません。このときの割増率も2割5分以上です。

しかし、会社の就業規則や賃金規程を見てみると、たいていは、

  • 時間外手当=時給換算した給与×1.25
  • 深夜手当=時給換算した給与×0.25

と表記が異なっているはずです。異なってなかったら大変なのできちんと確認してみてください。

 

時間外手当の計算式が「1.25」の理由

どうして、このような違いがあるのでしょう。

それは時間外手当と深夜手当の性質の違いが関係あります。

 

時間外手当の本質は「1+0.25」

まず、時間外手当から説明しましょう。

大前提として、時間外手当が発生する時間帯というのは、所定労働時間外ですから通常であれば(定時で帰っていれば)賃金の出ない時間帯です。

言い換えれば、所定の賃金である「1」が発生しない時間帯です。

その所定分の賃金の出ない時間帯に働かせるわけですから、割増率が「0.25」だけでは問題です。

時給換算した給与が1000円の人がいたとしたら、時間外に1時間働かせても時間外手当は「1000円×0.25=250円」しか発生しないことになるからです

1時間働かせたら、1時間分の給与を支払うのは当然の話であって、それは時間外労働であっても変わりません。

そして、時間外労働では、1時間分の給与に加えてさらにその上乗せとして時間外手当の「2割5分以上」をプラスすると考えるのです。

よって、計算式上の数字は「1.25」となるわけです。

図にすると以下の通り。

 

深夜手当の計算式が「0.25」の理由

時間外労働が深夜にかかる場合

一方の深夜手当はどうでしょうか。

多くの場合、深夜手当は、時間外労働が長引いた結果として発生します。

つまり、多くの場合、以下のように、時間外手当と深夜手当が一緒に支給されるわけです。

時間外労働中に深夜労働を行った場合の割増率

この際の深夜手当は以下の計算式で計算することになります。

  • 時間外労働が深夜に及ぶ場合:1.25(時間外)+0.25(深夜)

深夜手当の割増率に関しては、深夜手当の「0.25」と時間外手当の「1.25」を合わせた割増率「1.5」とする規定もよく見ます(が、これもできたらやめたほうがいい)。

 

所定労働時間に深夜労働が含まれる場合

しかし、深夜手当が発生する状況というのは時間外労働が長引いた場合だけではありません。

もともとの所定労働時間が深夜の時間帯にかかっている場合もあります。

この場合、所定労働時間の労働なので当然、深夜手当の他に所定の賃金が支払われている、つまり、所定の賃金である「1」が発生していることになります。

式にすると以下の通り。

  • 所定の労働時間が深夜に及ぶ場合:1(所定労働)+0.25(深夜)

さらに、図にすると以下の通り。

所定労働時間中に深夜労働を行う場合

 

上記に加えて、さらに時間外労働も行う場合は以下の通りとなります。

所定労働時間中に深夜労働を行いさらに時間外労働も行う場合

 

深夜手当の割増率を「1.25」にしてしまうと…

このように、深夜手当というのは所定労働時間の賃金や時間外労働の賃金、さらには今回は触れていませんが法定休日労働の賃金にプラスして支払われるものとなっています。

よって、深夜手当の割増率を仮に「1.25」などとしてしまうと、時間外労働が深夜に及んだ場合などは「1.25(時間外)+1.25(深夜)=2.5」という割増率になってしまい、非常にまずいことになります。

どれだけまずいかは、上の図の深夜割増率を0.25から1.25に変えた以下の図を見てもらうのが手っ取り早いでしょう。

深夜手当の割増率を1.25にした場合

 

そして、就業規則や賃金規程にこのような誤った規定があると、下手すると法定通り「0.25」で深夜手当を支払っていても、残り「1」が未払いであると訴えられる可能性があります。

いずれにせよ、深夜手当というのは、常に所定の賃金や時間外手当など、他の基となる賃金にプラスして支払われるもの、と深夜手当の割増率は間違えることなく「0.25」であることがわかるでしょう。

 

まとめ

以上です。

上記のような間違いは、特に就業規則等を専門家によらず、社内で作成している場合に多く見られがちですが、中には(残念ながら)社労士が間違えてる場合もある上、仮に間違ってると大惨事になりかねないので、一度チェックしてみた方がいいでしょう。

今日のあとがき

いろいろあって寝不足だったので、軽く済ませる予定だったのですが、意外と軽く済みませんでした。

ちなみに寝不足の理由は夜遅くまでレッドブル組手とインディ500を見てたから。

見てたからといいつつ、どっちも結果が出る前に寝ちゃったんですけどね。

メインで見てたのはレッドブル組手の方だったので、ウメハラが負けたところで区切りを付けて寝て、起きたら佐藤琢磨が優勝していたという(笑)。

数年前のインディ500では琢磨が2位を走ってて、最終ラップでトップのマシンにアタックして、結果接触、リタイアしてしまいました。そのときのレースのその瞬間はわたしも今でも鮮明に覚えていますが、あのときはこのようなチャンスは二度とないと思っていましたよ。

レースの世界ってなんやかんやで運が絡むし、インディの場合、F1ほどのマシン差もない上、出走数もめちゃくちゃ多いですからね。

なので、今年からトップチームに移籍したとはいえ、しっかりチャンスを掴んだ琢磨は本当に凄い。

ポイントランキングでも1位とわずか9ポイント差の3位に浮上したので、このままインディの年間タイトルも取ってほしいですね。

 

追記・修正時のあとがき

この記事、検索エンジンから根強い流入がありました。

また、前々から図があった方が絶対わかりやすいよなあ、とも思っていたので、今回、初出から2年半の時を経て大幅な追記・修正と相成りました。

あと、当時のあとがきでRedBullKumiteのことを書いてますが、今年はそのRedBullKumiteが日本、それも愛知に来るということで、わたくし早速チケットを購入、今から楽しみで仕方ありません。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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