育児休業・介護休業

育児休業を取ることと育児休業給付金をもらうことは全然違うという話

2016年3月30日

一般の人にはわかりづらいかもしれませんが、労働者目線で言うと実は社会保険や労働保険では、どの会社で入っているか、というのはあまり重要視されません。

例えば、健康保険の場合、どこの会社で加入しても、医療費は3割負担で済みますし、条件を満たせば、出産手当金などの健康保険法に定められた給付を受けることもできます。また、年金にしても、大企業での年収400万と、小規模企業の400万とで、年金額が変わるということはありません。(基金とか健康保険組合とか例外はあるけど)

実はこれ、雇用保険もそうなのです。

 

雇用保険の被保険者期間は会社をまたいで通算する

雇用保険で基本手当(失業保険)をもらうには、離職日以前2年間(病気や怪我、出産など理由がある場合は最大4年間)に、「通算して」12ヶ月以上の被保険者期間が必要となります。

基本手当の支給要件となる雇用保険の被保険者期間12ヶ月が、通算であればよい、というのがポイントで、つまり、過去2年間の間に複数の会社をまたいでいても、期間が12ヶ月あれば、それでもいいということになっています。

この記事の初めに、どの会社で入っているか、というのはあまり関係ない、というのが社会保険や労働保険だという話をしましたが、12ヶ月をどの会社で取っているかは、雇用保険の基本手当の受給には関係ないわけです。

よって、Aという会社を3ヶ月でやめて、すぐにBという会社に入って3ヶ月働いたものの結局やめて、3ヶ月の求職活動後にCという会社で7ヶ月働いて辞めた場合でも、基本手当はもらえることになります。

被保険者期間の通算

相変わらずの雑なパワポですいません

ただ、雇用保険法で被保険者期間が1ヶ月ある、と考えるためには、月に11日以上の労働している日(支払基礎日数)が必要なので、月の出勤日数が11日満たない場合は、会社に在籍していても被保険者期間の1ヶ月と数えないので注意が必要です。

また、上記のケースで例えば、A以前のものを含めてBを辞めた時点ですでに基本手当の受給資格を満たし、実際に基本手当を受給していると、B以前のものをCを辞めた段階で通算することはできません。雇用保険では基本的に一度基本手当をもらうと、期間のカウントはそこでリセットになるからです。

 

会社をまたいでも12ヶ月期間があれば育児休業給付金はもらえる?

実は、離職日以前2年間(病気や怪我、出産など理由がある場合は最大4年間)に、「通算して」12ヶ月以上の被保険者期間が必要、という要件は、雇用保険で、育児休業中の人の生活を保障するために支給される育児休業給付金も同様です(ただし、育児休業給付金では、被保険者期間のことをみなし被保険者期間と呼ぶ)。

では、育児休業給付金も基本手当と同様に、会社をまたいで期間を通算してもらうことができるのか、というと、法律を読む限り、どうもできないことはないらしい感覚的におかしな感じはしますけど。

雇用保険法 第六十一条の四

育児休業給付金は、被保険者(高年齢継続被保険者、短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除く。以下この款及び次款において同じ。)が、厚生労働省令で定めるところにより、その一歳(その子が一歳に達した日後の期間について休業することが雇用の継続のために特に必要と認められる場合として厚生労働省令で定める場合に該当する場合にあつては、一歳六か月)に満たない子を養育するための休業をした場合において、当該休業を開始した日前二年間(当該休業を開始した日前二年間に疾病、負傷その他厚生労働省令で定める理由により引き続き三十日以上賃金の支払を受けることができなかつた被保険者については、当該理由により賃金の支払を受けることができなかつた日数を二年に加算した期間(その期間が四年を超えるときは、四年間))みなし被保険者期間が通算して十二箇月以上であつたときに、支給単位期間について支給する。

2 前項の「みなし被保険者期間」は、同項(第六項において読み替えて適用する場合を含む。次項、第五項及び次条第二項において同じ。)に規定する休業を開始した日を被保険者でなくなつた日とみなして第十四条の規定を適用した場合に計算されることとなる被保険者期間に相当する期間とする。

通算と書いてあるので、被保険者期間に抜けがあっても構わないし、被保険者期間をみなし被保険者期間と読み替えているものの、あくまで読み替えているだけ。

なので、例えば、以前の会社で4箇月以上の期間があって、3ヶ月の求職期間の後に現在の会社に入社。しかし、入社後すぐに妊娠がわかり8ヶ月働いた後、産前休業(6週間)を取り、出産した場合、以前の会社と現在の会社を含めて12ヶ月以上の被保険者期間があります。

無題のプレゼンテーション (2)

相変わらずの雑なパワポで(以下略)

よって、その従業員は育児休業を取れてめでたしめでたし、かというと、実はそうは問屋がおろしません。

 

育児休業を取ることと育児休業給付金をもらうことは違う

なぜなら、育児休業を取って育児のために会社を休む、ということと、育児休業中の生活保障として育児休業給付金をもらう、というのは全く別のことだからです。

どう別かというと、根拠法が違います。育児休業は育児介護休業法、育児休業給付金は雇用保険法です。

そして、育児介護休業法では、労使協定を結べば、会社は、入社1年未満の者または週所定労働日数2日以下の者の育児休業を拒むことができるようになっています。

なので、上記の例の場合、入社10ヶ月での出産となるはずなので、育児休業給付金は雇用保険からはもらえても、育児休業できるかどうかは会社次第となるわけです。

それでも、会社が育児休業させてくれるなら話は別ですが、そうでない場合、産前産後休業後すぐに会社で働かないといけないわけですが、働いていると(月の労働日数が11日以上あると)育児休業給付金はもらえません。

 

こういう話は、働く女性の保護の観点から怒る人もいるのではと、若干ビクビクしながら書いておりますが、入社して日の短い労働者がすぐに妊娠・出産・育児で休業してしまうとなると、会社としての負担も大きいため、法律上はこのようになっています。

ただ、会社にしても、育児休業の拒否は労使協定がないとできないので、こうしたケース自体がレアとはいえ、新入社員がいきなり育休で休む、という不測の事態に対処できるだけでのキャパがないのであれば、きちんと労使協定を結んでおいたほうが良いでしょう。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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