その他法改正

令和4年10月施行の男性版産休「出生時育児休業」とは?

2021年6月7日

今国会(衆議院・本会議)で、改正育児・介護休業法が成立しました。

この改正には「男性版の産休」と呼べる制度の創設が含まれており、注目が集まっています。

今回は、この「男性版の産休」と呼ばれている「出生時育児休業」についてみていきます。

 

出生時育児休業(男性版の産休)とは?

「男性版の産休」の法律上の正式な名称は「出生時育児休業」となっています。

では、この出生時育児休業、どういった制度なのでしょうか。

 

出産日の翌日から8週間以内に4週間の休業

この出生時育児休業は「出産日の翌日から起算して8週間以内の期間」に「4週間の休業」を取るものをいいます。

ちなみに4週間の理由は「年次有給休暇が年間最長20労働日であること等を参考に、4週間とすることが適当である」から(有給と同じくらいの日数が妥当ということでしょうか)。

 

2回に分割しての取得が可能

この4週間の休業については2回に分割して取得することも可能です。

ただし、分割する際は1回目の申請と一緒に申請する必要があります。

2回に分けた場合、法律上、取得できる日数は合計28日となります。

(ちなみに、出生時育児休業とは別の改正で、本家の育児休業も2回に分けての取得が可能となったので、改正法施行後は、男性は実質4回に分けての育休取得が可能となっています。)

ただし、休業を申請しそれを撤回した場合、撤回した分の権利は復活しません。

 

出生時育児休業中は就労も可能

出生時育児休業に関しては、労働者が休業中に就業を望む場合、会社に申し出ての就労が可能になっています。

実は、育休中の就労に関しては結構グレーな部分となっていて、休業中の就労について法律上は特に記載がなく、実際に休業中に就労した場合、そこで休業を終了すべきなのか、それとも一時的なものであれば休業を継続してもいいのか等、色々曖昧な部分があったりします。

ただ、出生時育児休業に関しては休業中の就労がきちんと法律で定めが行われ、すでに述べたように、会社に申し出ての就労が可能となっています。

出生時育児休業中の就労を行う場合、個別の同意の他に労使協定の締結が必要です(労使協定に定める必要のある項目については、今後省令にて定められる予定)。

出生時育児休業中の就労の流れについて以下の通りです。

労使協定を締結する。

労働者が就労しても良い場合は事業主にその条件(就労しても良い日時や上限日数・時間数)を申し出る。(休業開始日・終了日と併せて申し出ることが望ましいが、業務状況の見通しが立ったタイミングなど、休業開始前までの任意のタイミングで申し出ることができ、また、休業開始までは、申し出た条件の変更、申出の撤回も可能。)

事業主が休業期間中に就労させたい場合には、労働者が申し出た条件の範囲内で、就労候補日・時間を提示する。

労働者が同意した範囲で就労させることができる。(休業開始前までは任意のタイミングで同意を撤回することが可能。また、休業開始後は、配偶者の疾病等やそれに準ずる心身の状態の悪化等の特別な事情がある場合には、同意の撤回が可能。)

 

申請期限は原則、開始日の2週間前

出生時育児休業の申請期限は取得する2週間前となっています。

ただし、出産が早まった場合は1週間前となります。

また、開始日から2週間を切った段階で労働者から申請があった場合、申請日から2週間の期間内で会社が開始日を指定することができます。

もちろん、2週間を切った段階での申請であっても、会社が労働者の指定する開始日からの取得を許可する場合は、それは問題ありません。

また、労使協定を締結する場合、現行の育児休業同様、申請期限を1か月前(厳密には1か月以内の期間)とすることもできます。正式な内容は今後の省令の改正を待つ必要がありますが、現在の予定ではこの労使協定には以下のことを定めることとなっています。

  • 新制度や育児休業の取得率や取得期間に関する目標及び事業主の方針
  • 休業開始予定日の1か月前までに申出が円滑に行われるようにするための職場環境の整備、業務の調整、労働者の配置その他の措置(改正法で定められた環境整備の措置義務を上回る措置として、これらのうち複数の措置を実施している場合等)
  • 労働者へ休業取得の個別の働きかけを行うだけでなく、具体的な取得意向の個別の把握まで行うこと

 

出生時育児休業の終了事由

出生時育児休業は開始予定日と終了予定日を労働者側が指定し、その終了予定日が来た時点で、出生時育児休業は終了することになります。

一方で、労働者が指定した終了予定日以外にも、以下のような形で出生時育児休業が終了する場合があります。

  • 子の死亡その他子を養育しないこととなった事由の発生
  • 出生の日の翌日から8週間経過
  • 出生時育児休業を取った日数が28日に達した場合
  • 新たに出生時育児休業が始まった場合、また介護休業が始まった場合

 

期間の定めのある労働者の扱い

期間の定めのある労働者については、出生後8週間経過する日の翌日から6か月を経過する日までに、その労働契約が満了することが明らかな場合、この出生時育児休業を取得することはできません。

 

出生時育児休業の申出があった場合の会社の義務等

出生時育児休業取得の申出があった場合、会社はこれを拒むことはできません(育児休業と同じ)。

また、今回の育児介護休業の法改正で、労働者又はその配偶者が妊娠または出産等をしたとの報告が会社にあった場合、会社は育児休業その他省令で定める事項についてその労働者または配偶者に知らせるとともに、面談その他の措置を講じなければならないとされました。

省令に関しては今後改正予定ですが、会社が知らせなければならない育児休業等の制度には当然、出生時育児休業が含まれるはずです。

加えて、会社は、妊娠または出産等の報告をしてきた労働者や、出生時育児休業の申出をしてきた労働者に対する不利益取扱いをすることはできません。

 

施行日

出生時育児休業に関する改正の施行日は「公布日から1年6か月を超えない範囲」とされているので、遅くとも令和4年内には施行されるはずです。

※ 追記:令和4年10月1日からの施行が決定しました。

 

出生時育児休業給付金

出生時育児休業を取得した場合、雇用保険からは「育児休業給付金」ではなく「出生時育児休業給付金」が支給されます。

こちらの出生時育児休業給付金は、出生時育児休業を2回に分割したとしても、2回とももらうことができますが、もらえる日数の上限は28日分までです。

その他の詳細については、基本的に育児休業給付金を踏襲するものとなっています。

 

現行法のパパ休暇との違い

実態はパパ休暇の仕切り直し

実は現行の育児介護休業法にも、男性の産休と呼べなくもない制度があります。

こちらは一般に「パパ休暇」と呼ばれるものとなります。

このパパ休暇は、母親の出産後8週間以内の期間内に、パパが育児休業を取得した場合に取得できるものです。

つまり、出生時育児休業と取得可能な期間は同じ。

ただ、パパ休暇の制度の構造は「育休を2回に分けて取得する」ものとなっています(母親の出産後8週間以内に1回取って、2回目をそれ以外の期間で子が1歳になるまでの間に取得するという形)。

で、このパパ休暇なのですが、男性の育休の取得率自体が悪いこともあって現行法ではあまり使われていませんでした。

そのため、「現行の育児休業よりも柔軟で取得しやすい枠組みを設ける」ことを目的に、今回の改正で「出生時育児休業」が設けられたわけです。

パパ休暇は制度としてはあくまで育児休業でしたが、出生時育児休業はこの記事でもみたとおり、育児休業とは別制度扱いのものとなっているので注意が必要です。

また、パパ休暇に関しては、出生時育児休業とは別の改正で、パパ休暇でなくても育児休業が2回に分けて取れることになったため、実質廃止というか、発展的解消というか、まあ、そんな感じで法改正後はなくなります。

 

まとめ

大々的に「男性版の産休」と報じられていた割に、育児休業等の制度に詳しい人からみると、パパ休暇の延長戦にある制度だなあ、と思ってしまう制度ですね。

新しい制度にして仕切り直し、というところが、サービス継続がピンチなソシャゲがタイトル名をちょっと変えて心機一転といった展開に見えなくもありません。

ただ、今回の育児介護休業法の改正は、出生時育児休業にも重要な改正があります。

それらの改正については、また次回、詳しくみていくのでそちらもよろしくお願いします。

 

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案(令和3年2月26日提出)(出典:厚生労働省)

概要(リンク先PDF)

法律案要綱(リンク先PDF)

法律案新旧対照条文(リンク先PDF)

 

追記:出生時育児休業に関連する省令の改正はこちらのページで解説しています。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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