外国人雇用

受給権を持ったまま帰国した場合は? 外国人労働者と年金制度を解説

2021年5月27日

今日は外国人労働者の年金について。

日本に住んでいる限り外国人であっても加入が必要

外国人労働者を雇用されている会社では周知のことかと思いますが、外国人であっても日本の年金制度に加入する必要があります。

なぜなら、日本の年金制度では「国籍」ではなく、「日本に住んでいる」ことを年金制度加入の条件としているからです。

そのため、外国人労働者を雇用する場合、外国人であっても社会保険加入の条件を満たす場合、会社はその外国人労働者を社会保険に加入させなければなりません。

 

受給資格を得ないまま帰国する場合

脱退一時金

日本の年金制度では年金の加入期間が10年以上ある場合、年金が支給されます。

しかし、外国人の場合、加入期間が10年に満たないまま母国に帰国する場合がほとんどで、この場合、日本にいる間に払った保険料が無駄になってしまいます。

こうしたことを防ぐため、日本の年金制度では「脱退一時金」という制度を設けています(脱退一時金は国民年金と厚生年金で若干制度が異なりますが、ここでは厚生年金の脱退一時金について説明していきます)。

この脱退一時金は、社会保険に加入していた期間に応じて支払われるものです。

脱退一時金の支給を受けるには、年金の受給資格がないかつ最低6か月以上の加入期間が必要で、また、請求に関しては出国後2年以内に請求を行う必要があります。

脱退一時金に関しては今年の4月より制度が拡大されており、制度改正前は脱退一時金の支給率が最大となる被保険者期間は36か月以上とされていたのが、制度改正後は60か月とされています。

脱退一時金(厚生年金)の計算式

被保険者であった期間の平均標準報酬額×支給率

 

被保険者であった期間支給率
6月以上12月未満0.5
12月以上18月未満1.1
18月以上24月未満1.6
24月以上30月未満2.2
30月以上36月未満2.7
36月以上42月未満3.3
42月以上48月未満3.8
48月以上54月未満4.4
54月以上60月未満4.9
60月以上5.5

上記の支給率に関しては政令で定められている「被保険者期間の区分に応じた数」が変更される場合及び、厚生年金保険の保険料率が変更される場合、変更となる場合があります(ただし、厚生年金保険の保険料率については2017年9月までで引上げが終了し、現在は18.3%で固定されています)。

脱退一時金制度(出典:日本年金機構)

 

受給資格を持ったまま母国に帰国した場合

日本の年金の受給資格を持った外国人が帰国した場合はどうでしょうか。

加入期間が10年を超えれば外国人であっても日本の年金制度から年金をもらうことができます(逆に、受給資格がないことを要件とする脱退一時金をもらうことはできません)。

では、加入期間が10年を超えているけれども、すでに母国に帰国している場合はどうでしょうか。

実はこの場合も年金を受給することは可能です。

ただし、年金は勝手に支払われるものではなく、きちんと請求しないともらえないものです。

そして、日本に住んでいる場合、住んでいる地域の管轄の年金事務所が窓口となりますが、すでに帰国している外国人の場合、日本に住所がないため、日本で最後に住んでいた地域の管轄の年金事務所が担当の窓口となります。

海外居住者の年金請求(出典:日本年金機構)

 

社会保障協定を締結している国の労働者

国によっては日本と社会保障協定を締結している場合があります。

社会保障協定の内容は国によって異なるものの、基本的には「二重加入の防止」と「年金加入期間の通算」を目的としています。

二重加入の防止とは、海外で雇用されている労働者が、海外から日本に派遣される場合、日本の社会保障制度に加え、派遣元国の社会保障制度に二重に加入しなければならない、とういことが起こりえます。

しかし、社会保障協定を結んでいる国の場合、母国での社会保険制度への加入を免除する、もしくは派遣期間が短いこと(派遣期間が5年以内)であることを理由に、日本の制度への加入を免除されます。

また、年金加入期間の通算とは、外国人労働者が日本で社会保険に加入していた期間について、母国の年金制度の加入期間に通算するものをいいます。

協定の発行状況は以下の通りです。また、英国、韓国、イタリア(未発効)及び中国との協定については、「保険料の二重負担防止」のみとなります。

協定が発効済の国ドイツ イギリス 韓国 アメリカ ベルギー フランス カナダ オーストラリア オランダ チェコ(※) スペイン アイルランド ブラジル スイス ハンガリー インド ルクセンブルク フィリピン スロバキア 中国
署名済未発効の国イタリア スウェーデン フィンランド

社会保障協定(出典:日本年金機構)

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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