社会保険の改正

令和4年には101人以上、令和6年には51人以上の会社が特定適用事業所に

2020年12月16日

今回は、もうすぐ令和2年も終わり、令和3年になろうかという時期ですが、今回はその令和3年を飛び越え、令和4年以降に予定されている法改正、社会保険の加入対象の拡大について。

社会保険の加入対象が拡大されると、現在は社会保険に加入していないけど、将来的には加入しないといけない、という人が増加します。

社会保険に加入するかどうかは、会社にとっても労働者にとっても非常に大きな問題ですので、本記事をご確認いただき対応をご検討いただければと思います。

 

社会保険の加入対象の拡大

社会保険の加入対象の拡大は「特定適用事業所の範囲拡大」と「士業の適用業種化」によって行われます。

一つずつ見ていきましょう。

 

① 特定適用事業所の範囲拡大

まず、特定適用事業所の範囲の拡大ですが、現行法における特定適用事業所とは、社会保険の被保険者の数が501人以上の会社、もしくは任意で特定適用事業所の申出をした事業所のことをいいます。

そして、特定適用事業所に雇用される労働者は、以下の条件を満たす限り、社会保険に加入しなければなりません。

現行の特定適用事業所の短時間労働者の社会保険加入要件

①  1週間の所定労働時間が20時間以上

②  月額賃金8.8万円以上

③  1年以上継続して雇用される見込みがある←令和4年10月1日以降は削除

④  学生でない

以上のすべての要件を満たす場合

 

今回の法改正では現行で「501人以上」とされている被保険者人数の要件が段階的に引き下げられます。

具体的には、令和4年10月1日から101人以上、令和6年10月1日から51人以上に引き下げられます。

特定適用事業所の被保険者の人数要件

令和4年9月30日まで:501人以上

令和4年10月1日以降:101人以上

令和6年10月1日以降の:51人以上

 

また、現行の特定適用事業所で雇用される短時間労働者の社会保険の加入条件の一つに、「1年以上継続して雇用される見込みがある」というものがありますが、こちらの規定は令和4年10月の改正法施行の際に削除されます。

ただし、適用除外との関係から、実質的には「2か月を超えて使用される見込み」がある場合でないと、社会保険に加入することはできません。

 

② 士業の適用業種化

短時間労働者の社会保険の加入対象の拡大と合わせて、これまで非適用業種とされていた法定16業種以外の個人事業所のうち法務業、いわゆる士業等については、今回の改正で17業種目の適用業種とされます。

これにより、常時5人以上の従業員を使用する士業の個人事務所は社会保険の加入対象となります。

こうした決定に至った背景としては、従業員の人数に関わらず社会保険の強制加入の対象となる法人化が士業では難しい、もしくは不可能であることに加え、士業という業種の関係上、保険料の支払いなどの事務手続きも問題なく行えるという判断があったためです。

今回の改正で強制適用となる予定の士業等は以下のとおりです。

弁護士

司法書士

行政書士

土地家屋調査士

公認会計士

税理士

社会保険労務士

弁理士

公証人(法人化が不可能)

海事代理士(法人化が不可能)

 

士業等の適用業種化は令和4年10月1日からとなります。

 

2か月を超える雇用が見込まれる者の被用者保険の早期加入措置

上記の他にも社会保険の加入に関する法改正が行われています。

社会保険では、臨時に雇用されるもので2か月以内の期間を定めて使用される者については適用除外としています。

一方、一旦は適用除外とされたものが、契約更新により所定の期間を超えて引き続き雇用される場合、所定の期間を超えた時点から社会保険に加入することになります。

つまり、2か月の期間で雇用されたものが、契約更新により2か月を超えて引き続き雇用される場合、2か月を超えた時点から社会保険に加入することになっているわけです(「所定の期間」が「1か月」の場合は1か月を超えた時点から、「半月」の場合は半月を超えた時点から)。

逆にいうと、契約更新前の「2か月以内の期間」については社会保険に加入できないわけです。

今回の改正では2か月以内の雇用契約であっても、実態としてその雇用契約の期間を超えて使用される見込みがあると判断できる場合、最初の雇用期間を含めて当初から社会保険の適用対象とすることとされました。

2か月を超える雇用が見込まれる者の早期加入措置のイメージ

出典:第15回社会保障審議会年金部会 資料2 年金制度改正の検討事項

 

「実態としてその雇用契約の期間を超えて使用される見込みがある」とは具体的に、以下のものをいいます。

  1. 就業規則、雇用契約書等において、その契約が「更新される旨」、または「更新される場合がある旨」が明示されている場合
  2. 同一の事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されている者が更新等により最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある場合

 

ただし、上記のいずれかに該当する場合であっても、労使双方により、最初の雇用契約の期間を超えて雇用しないことを両者で合意しているときは、雇用契約の期間を超えることが見込まれないこととして取り扱うとされています。

また、本件に関する過去の審議会の資料では、社会保険の調査の際に、雇用契約書等を確認し、上記のいずれかに該当することが事後的に判明した場合は、契約当初に遡及(遡及は社会保険料の徴収の時効である2年まで)して適用することを指導するとしています。

この改正の施行は令和4年10月1日からとなります。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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